dream


□消えた記憶
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クレハ






『ねぇ、ダリル…
なんか私…忍者だと思われてるんだけど…』




「通りで強いと思った、今のは忍術だな!」とか訳わからん事を言ってるメルルを横に
バレないようダリルにヒソヒソと話しかければ

『勘違いしてる方が都合いいんじゃない?』

もし他の人にバレた場合に魔女よりかは反応いいと思うよ?
漫画にも出てきてサムライとニンジャは人気だし、と彼に言われた。



え〜…そういうもんなの…?


勝手に勘違いしてくれてるから、いいと思うよ。という彼に便乗し
私はそのまま忍者ということにしといた。





「…ふむ。バレてしまったのなら仕方ない。
私は侍に両親を斬り殺され、復讐するために山で修行をしていたのだ
その時、ダリルと出会った」




そうなりきって、ふざけていると横でダリルは噴出しながらも必死で笑いを堪えているのに
メルルは

「すげー!本物だ!」

と目を輝かせて普通に信じ込んでいた。


意外とコイツが一番ピュアなのかもしれない。




「さぁ、メルル殿。壊れているという収納梯子はどこかな?」




直してしんぜよう、と言えば
彼はその場所に這いつくばり、手をバンバンと床に叩いて「こちらであります!」
と満面の笑みで手招きをする。

そんな彼を見て、私は笑わないように必死で堪える。


意外と彼は可愛いキャラなのかもしれない。



どれどれ…と
その梯子の様子を見てみると、どうやら長年放置されていた事により
ロックされたまま錆びてしまい動かなくなっているようだった。


これなら開錠呪文でどうにかなるかもしれない。



私が杖を取り出し、《アロホモーラ》と唱えれば

カチャッという音がした。


そのまま梯子を力任せにグッと強く下に押してみれば
閉じていた梯子はガタタタタッ…と勢いよく下に降り始める。

その様子を間近で見ていたメルルは更に興奮して一人で騒いでいたが
私は面倒くさいのでスルーした。



梯子の下を覗き込めば、そこにはダリルとメルルの二人の部屋なのか
バスケ選手のポスターが貼られていたり、音楽を聴いていたのか
カセットテープがベッドの上に散乱していたりと
年頃の男の子らしい部屋になっていた。



意外と彼らの部屋は思っていたより整頓されていて綺麗だ。


屋根裏とのギャップがすごい
(でも少し散らかっているエリアは恐らくメルルの場所だろう)



私がボーッと部屋を眺めていると
早速兄弟二人は自分たちの部屋へと降り始める。


私はどうしたらいいのかわからず暫く二人を見ていると
中々降りない私を見てメルルが首でこっちにこいよ、と合図を送る。




「何してんだ、お前も来いよ!」


「え、…いいの??」


「早くおいでよ!!」




じゃ、遠慮なく…と私はそろそろと慎重に彼らの部屋へと降りると
間近で見る彼らの部屋に少し興奮する。

学校の男子寮とはまた違うため
かなり新鮮に感じる。


ここがダリルが育ったところなのね…


私が部屋の中を興味津々に色々と観察していると
ダリルが嬉しそうにバスケットボールを持って私の方に駆け寄ってきた。




「見てみて!クレハ!」



「ん?どうしたの??」




これ、有名な選手のサイン入りボールなんだ!
すごいでしょ!

僕の宝物、特別に見ていいよ!


と彼はニコニコしながらボールを渡してきた。
家についてから表情が暗かったダリルが嬉しそうに話す姿を見て
私は少しホッとする。



「へぇ〜!すごいじゃん!直接会ったんだ?」



良かったねぇ〜なんてダリルの頭を撫でていると彼は誇らしそうに話をする。



「違うよ、僕の誕生日に兄貴がサイン貰ってきてくれたんだ、兄貴は有名人とも繋がりがあるんだよ!」



すごいでしょ?という言葉を聞いて私はメルルの方をチラリとみると
彼は少し気まずそうな顔をした。

なんとなくその表情を見てボールのサインについて察した私は
ダリル、宝物を見せてくれてありがとうね。と彼の手に戻してこれ以上この話題に触れないようにした。




「それでねダリル、一旦私の事は忘れて…」



まず、ご両親と会って話をして来ないと…
と彼の頬を優しく撫でる。

その話題を出せばせっかく明るい表情をしていた彼も一気に暗くなる。




「ごめんね…
お父さんと会うの怖いよね?でも大事なことだから…」




メルルの方に振り向き、「ダリルと一緒に行ってあげて…」と任せると

彼は黙って頷き、「あぁ、俺がついてる。安心しろ」と、ダリルの腕を引く。

ダリルが寂しそうに私を見ながら部屋から立ち去ろうとすると
急にメルルが足を止めたものだからそのままの流れでダリルはメルルに衝突する。




「一つ言い忘れたが…下の部屋から何が聞こえてもお前は絶対降りてくるな
親父は女好きだ。お前の身を守る保証はできねぇ」




「…わかった、けど…本当に大丈夫?」




「コイツは俺が守るから大丈夫だ。」



行くぞ、というメルルの表情はかなり強張っていて、強気の彼ですらそんな表情をさせる父親だなんて…どんな人間なのだろう。


私はそっと息を潜めて、万が一に備えて机の下に隠れて部屋で待つことにした。










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