dream


□真夏のスイカボンバー
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コンコンッ


「ルシール、もう準備終わったかな?」


自分で浴衣を着てしまった私は
ルシールの着付けが終わるのを隣の部屋で待っていた。



「もう終わりそうだから待ってね!」



と中からルシールの声がした。

彼女はいったいどんな浴衣を選んだのだろう…
なんて考えながらやることがない私は
部屋の扉の前をソワソワしながら行ったり来たりする。

彼女の試着を待ってる彼氏はこんな感じの気分なのだろうか…

なんだかドキドキしてきた…


と変な事を考えていると

ガララッと和室の扉が開かれた。



「どうかな…?」


照れくさそうに手を少し控えめに広げ
くるっと回るルシール。


そこにはピンクと紫色の花が散りばめられた生地に
小さな白い子犬のポメラニアンが文字通り《元気に駆け回る》可愛らしい浴衣だった。

これは魔法がかけられている特注品で
マグルの前では犬はただの柄としか見えないようだ。

そしていつもおろしているルシールのブロンドの長い髪は後ろでアップにされ
浴衣とお揃いの髪飾りでまとめられていた。
うなじも出して、なんだか妖艶だ。

今日はお揃いで同じ髪型にしていたのだが
なんだ、この完成度。私とはとんでもない差があるぞ。


「すごい…ルシールモデルさんみたい!」


と彼女を上から下まで舐め回すように
じっくり見て、大絶賛すれば
彼女は照れくさそうに『やめてよ〜』とはにかむ


「こんな可愛い魔法が掛かった浴衣なんて初めてみたわ…」


クレハもとっても可愛いわ!

なんていって着くずれしないよう配慮しつつ
遠慮気味にルシールが抱き着いてきた


「あれ…クレハの浴衣…今なんか…」


ん〜?と目を細めながらルシールが近くに寄ってきてクレハの浴衣を見つめる


「さすがルシール、よく気づきましたね」


実は私の浴衣も魔法がかけられていて
動く動物がいるのだが…


「このこ全然やる気がなくて出てこないんだよ」

と浴衣をペシペシ叩くと
尻尾を太くした黒猫が威勢よく

『シャーーーーッ』

と威嚇して隠れていた花の柄から飛び出してきた。


なんだこいつ!とクレハがツンツンつっつくとじゃれて飛びついてくる。


「ふふっ
なんだかこれはこれでクレハらしくていいんじゃないかしら?」


嬉しくなーい!とがくっと項垂れる私をみて
クスクス笑うルシール
そしてそれにつられて母も笑い出す。


「着物や浴衣ってね、
何万何千という柄があるのだけどそれを選ぶのは人間だけじゃないの。
着物も同時に着る相手を選んでいるのよ
お互いにお互いを惹きあわせているの、不思議でしょ?」


ふ〜ん…と適当に聞いてる私の横で
ルシールは素敵…なんていって自身の浴衣の中で駆け回る子犬をうっとりしながら優しく撫でた。


「その浴衣はもうルシールちゃんのものよ
その子があなたを選んだの、大事にしてあげてね」


そんな母からの言葉を聞いて
ルシールはありがとうございます!と何度も何度も頭をペコペコ下げた。



「さっルシール、そろそろお祭りに行こうか!」


おしゃべりしながらじっくり浴衣を選んでいたものだから
なんだかんだであっという間にお祭りの開始時間は過ぎてしまっていた。


「えぇ、クレハのお母様、本当にありがとうございます」


「いいのよルシールちゃん、
初めての日本のお祭り楽しんできて頂戴」


それじゃあ行こうか、と

慣れない浴衣と下駄で動きにくいルシールをエスコートしながら

私たちは祭りの会場へと向かった。








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