dream


□二つの光
1ページ/3ページ





クレハは大好きな彼が待つ、
ディクソン家のイメージを頭に思い浮かべて姿現しをしようとするが
普段とは違う、嫌な感覚を身体の全身で感じとった。


落とさないようにと拡張魔法が掛けられたポシェットに大量のお金を仕舞い込んだせいか
初めての仕事で、大きな歓声や魔法では感じないマグルの強力なスポットライトを浴びたせいか…



移動中に見えるグニャグニャとした景色は
ただでさえ気持ち悪くなるのに
彼女をいつも以上に最悪な気分にさせた。




バチンッッ





「ぅ…ぐぇ…」





彼女は立っているのもやっとの状態で、すぐにその場に腰を下ろした。


すこし貧血に似たクラクラとする感覚がある。

身体がだるい…


吐きたい気持ちをグッと必死で堪え、呼吸を整え直し、ゆっくりと辺りを見渡した。



そこには…



真っ黒に焼け焦げた家だったであろう物が佇んていた。




黒いただの塊と化したその家はかつての姿など想像がつかないほどの状態だった






「…もう、まじ最悪。しかも姿現し失敗してるし。」




ださっ、自分ダサッ つーかここはどこよ…





土で汚れた膝を手で払うも、膝と手のひらに広がる黒い模様を見て彼女は顔を顰める



(土じゃなくて灰か…。)




「私はちゃんとディクソン家をイメージしたし、
少なくとも近くであることは確かよね。」




どこかこの風景、見覚えがあるし…




彼女がそう見つめた先には沢山の人に踏みつぶされたけもの道や
多くの車が通ったことでボコボコに変形した道があった。


踏みつぶされてペシャンコになった野花を見るとクレハは眉をしかめ
、軽く杖を振るうと新しく花を咲かせた。


そして目線を少し上にあげてみると
見覚えのあるものが、瞳に映り込んだ。


木に括り付けられているそれは、
以前にダリル達と工作した、リスや小鳥の為の木箱だった。






「そうそう、あれ
私がリスをペットにしたいからって家の目の前の木に作ったんだよな〜」





あわよくば鳥が入ってくれれば、夕飯はフライドチキンが食べられるよって話をしたら
メルルに超バカにされたのを覚えてる。



『お前にとって鳥は全部チキン(食用)なのかよ、ペンギンも食いそうだな』、と。



それからペンギンは魚だ、いやいや鳥だ!と大喧嘩をして殴り合いまでに発展したのを覚えている。


魚だと思っていた私はダリルの




『魚な訳ないじゃん、ペンギンの寿司食べれるのクレハ?』




という言葉に撃沈した。


ダリル、君だけは味方だと思っていたのに
酷い裏切りだ。




いや…でもクジラも馬の肉の刺身も寿司にするし…イケるはず……



「じゃあ食べてみて感想教えてよ」




…なかった。




あの時のダリルの呆れ顔が可愛かったのも覚えてるぞ。でも裏切りは忘れない。






「まぁ、でも結局リスも小鳥も一度も遊びに来てくれなかったんだよね。
絶対メルルが木箱に描いたこのゾンビみたいなブタのイラストのせいだ。」







本人はリスと言っていたが、どうみても腐りかけのブタだ。


人間が見ても怖いのに動物が来るわけがない。
(まずブタをグレーと青で描いてる時点でナンセンス)



一方ダリルが描いたイラストはよくわからないものの、キャンパスは余裕があるのに
すごくちっこく書いてる。かわいい。めっちゃきゃわたん。
もうなんでも許す。




ダリルのイラストを描いていた彼の姿を思い出しながらうっとりと眺めていると
クレハは突然ハッと我に返り「家に帰らなきゃ」と思い出す。




彼女はもう一度姿現しをしようと行先を思い浮かべる…が、
目の前の木箱を見つめて嫌な予感が過った。




いや、まさか…そんな訳がない。




彼女は自分を信じ、再び姿現しをしようとするも、その場所からは1ミリたりとも変わっていなかった。


後ろに振り返るとそこには変わらず焼け焦げた家があった。


薄々と本当は感じていたが、自分の姿現しが失敗したのだと信じたかった。


だが、二回目ともなると嫌でも信じるしかなかった。



ここが…ディクソン家の…



いや…まさか…





「でもたしかに、この木箱は家の目の前の木に取り付けたはず…

どうして焼けた家の前にあるの!?」






ダリルは…!? ダリルはどこッッ!?





彼女は血相を変えると大量の冷や汗を出しながら
必死で彼の名前を叫ぶ。

右手に握りしめる杖の存在も忘れ、彼の姿を懸命に探し始める。







「ダリルーーー!!!返事をして!ダリル!!!」







辺りを見回すも人影は無く、
ほのかに残る焦げた臭いだけが冷たい空気と共に彼女を包み込む

勇気を出して焼けた家に近づくとより一層悲惨な状況を嫌でも感じ取ることができた。

風が吹くたびに小さな灰が舞い上がり
彼女の鼻を刺激する
何度もクシャミが出そうになるが、
彼女にはそんなことはどうでもよかった。


見覚えのあるものがすべて黒く染まりあげたこの場所は彼女の心に壮大なダメージを与えた


一緒に作った家庭菜園も、跡形もない。

それだけ強い炎に包まれたのだろう。





「ダリル…お願い返事をして…」




溢れる涙を拭いながら黒くただの炭となった部屋に足を踏み入れ、瓦礫を掻き分ける




「ダリル…ダリル…」


恐怖で震える声で彼の名前を呼び続ける。




こんな…メルルもいなくなってしまった今日のこのタイミングで…
 

どうして…どうして…


私が仕事になんか行っていなければ…



ダリル…ッッ!!





彼女が自らの行いを責め、悔しさから拳を床にぶつけたその時、
まるで電気が走ったようなピリピリとした痛みを胸に感じた。




「痛ッ…なに…?」



服の胸元を掴み、覗いてみるとそこにはダリルとペアで身に着けていたネックレスが
まるで人が呼吸をするように柔く光っていた。




「光っているの…初めてみた…」




思わず彼女は首から取り外し見つめていると
ネックレスは震えだした後、まるで自分に意思があるように動き出す。

まるでリータ・スキータの羽ペンのようだ。

予想していなかった出来事にクレハは驚いて尻餅をついた後
慌ててそのネックレスを追いかける。




「ちょ、待って!待ってよ!どこにいくの!?」




ネックレスのスピードについていけない彼女は杖の存在を思い出し
魔法で道を塞ぐ瓦礫をどかしていく。




「早い…待ってよ…!!
もしかしてダリルがそっちにいるの!?」




ネックレスは瓦礫の山で埋もれている目の前の部屋でピタッと止まり
急かすようにクレハの身体を突っついた。



「ここに…いるの??」



彼女は青ざめた表情で急いで、しかし…もしもの事を考え
丁寧に魔法を扱い瓦礫をどかしていく



最後に扉だったのだろうか…焦げた板のようなものを丁寧にどかすと



そこには…





その時、ネックレスは先ほどまでとは違う輝きを放ったのちに何事もなかったかのように静かに眠った。


ネックレスが眠り落ちた隣には…



同じ姿をしたネックレスが落ちていた。






「これは…ダリルにあげた方のネックレス…?」



これをプレゼントしたあの日から
ダリルは確か…肌身離さず持っていたはずだ。

学校にも持って行ったはず。



ダリルは…???


ダリルはどこ…???




必死に辺りを見回すも、その場所にダリルの姿は見当たらなかった。

生きている姿も、眠っている姿も、どちらとも…



彼女はヘタりとその場に座り込む…




「ダリル…どこにいるの…」




このネックレスがあれば離れ離れになることはないんじゃないの?


お願い彼に会わせて…


彼女は二つのネックレスを祈るように握りしめると
その場でネックレスのように眠るように意識を手放した…



後ろに迫るひとつの影に気づかずに…







「クレハ…こんな所にいたのか、今すぐ連れて帰らなくては…」



















次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ