dream


□本物のペテン師
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メルルが寄ったであろう大きなバス通りの近くに、
地元では有名の美味しいハンバーガーショップがある。


その看板には、丸々と太ったおじさんが満面の笑みで
10段のハンバーガーを手に持ち微笑んでいる。



しかも両手に、だ。



店内はそのおじさんのように客も笑顔で溢れていたが
一番奥のスペースからは、負のオーラが激しく
漂っていた。







「ハァァァァ〜…

これからどうしよう・・・・・・」





うわぁぁああぁぁぁ!!!と叫びながら頭を抱える彼女に
近くにいた不良達ですら身の危険を察知し、席を立ち離れ始めた。


しかし、そんな周囲からの冷ややかな視線も彼女はおかまいなしに
獣のように唸り始める。







「うぅぅぅぅ〜…


戸籍はないけど…
ランドンが自分の家の住所を使っていいと言ってくれたからまだよしとして、」





でも、でも・・・・




日本人が気軽に働ける仕事がねぇーー!!!!






彼女の手元には沢山の×印がついた新聞紙が広がっていた。


この時代(というかこの田舎)には
求人情報誌もハ●ーワークもどうやらないらしい。


たまたま入ったこの店の席で
置き忘れられた新聞に目を通していたら求人欄を見つけたのだ。


恋人募集の欄に沢山赤丸がついてたのはみなかったことにしよう…






「あ〜もうなによ。
ベビーシッター、家庭教師、庭師、缶詰、ハム工場そればっか。無理無理。」




かといってレストランの求人に食いついてみたら“白人限定”とムカツク文字があるし。


この時代ってもう人種差別も落ち着いてきたころじゃないの?
腹立つわ〜…と彼女は苛立ちながら机を指でトントンと叩く。






「できれば…面白くて、やりがいがあってがっぽり稼げる仕事…」





そう呟きながらクレハは大量に記載されている求人を隅々まで読み上げる。





「秘書…税務署…手品師…歯磨き粉工場…

ん???ちょっと待って。」







手品師によるマジックショー…??



その求人に喰いついてみると
サーカスや遊園地でスペースを貸し出している会社らしく
そこでショーをやってくれる手品師を募集していた。





“あなたの魔法で観客を虜にしてみませんか?”



“世界一のマジックで最高の笑顔を共に”







「マジック…ね…」





これって、私にピッタリな仕事なんじゃ…


いや、むしろ本物だからインチキになるのか?





「でも…この仕事いいかも。」





それに楽しそう、と彼女が独りで考え込んでいると
記事にある文字を見て固まってしまう。






【面接時、手品の審査あり。

本日11時よりグリーンウェイ遊園地にて】






「!!

11時!?あと30分しかないじゃない!」




私はどんだけここで新聞紙を眺めてたんだ…
とクレハはがっくりと項垂れる。





「ハッ…
自分にがっかりしてる場合じゃない!」




よし!とクレハは決意を固めると
急いでハンバーガーにかぶりつく。


どれだけ集中して新聞紙と睨めっこしていたのか、
半分ほど残っていたハンバーガーはすでにパンが固くなっていた。


それでもまだ美味しいと思えるのが
さすが人気店ね、と彼女は一人頷きながら納得する。


食べ終わったクレハは手を合わせて

『ごちそうさまでした』と丁寧にあいさつを済ませると
食べ終わったゴミを片付けおしぼりでテーブルを丁寧に拭く。


普段はがさつな彼女でも、こういった作法だけはしっかりしている。






「さて、
思い立ったら、すぐ行動よ。」





先程まで負のオーラを身に纏っていた彼女とは同一人物とは思えない程
彼女は満面の笑みでキラキラと輝いていた。

店内を移動する間、床のタイルの色を選んではスキップしながらるんるんで鼻歌を歌っている


それはそれで気持ち悪い…変な奴だ、と
更に彼女は店内の人々から冷ややかな視線を浴びることとなる。




そんな周りからの視線も気付かぬまま
クレハは、店から外へ出ると
バス通りを過ぎた所にある、ひと気のない路地裏へと足を急ぐ。






「誰もみてないよね…?」





そう呟くと彼女はポケットから
赤いガイドブックを取り出す。


これはバス乗り場に無料で置いてあったものだ。





「姿現しするにしても、見知らぬ場所は自信ないからね…」





彼女はグリーンウェイ遊園地…とガイドを広げて探すと
目当ての写真を見つけたのか、しっかりと頭に叩き込もうとジッと見つめる。





「おっけおっけ。イメージはこれで完璧」





よし!とクレハは自分の頬を両手でパチン!と叩いて気合を入れると覚悟を決める。






「待っててねダリル。



これで怯えながら暮らす日々からおさらばできるからね…」







そうポツリと声を漏らすと
独特な姿くらましの音と共に不気味な路地裏から彼女は一瞬で姿を消したのだった。

















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