dream


□アリとキリギリス
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「…すごいッ!!
こんな大きなとうもろこし畑初めて見たよ!」



クレハが見つめる先には地平線の先までトウモロコシしかないのではと思うほど
見渡す限り、辺り一面は緑に囲まれていた。

3人の中でも一番身長の高いメルルよりも
トウモロコシは更に大きく伸びていて
一度入り込めば出口を探すのは困難で
まるで迷路に居るような感覚になる。

唯一見えるのは、空と太陽だけだった。


これは逸れたら、もうお互いを見つけることは不可能だな…と感じたクレハは
ダリルの腕に絡みつくと後ろからは舌打ちが聞こえた気がした。




「よし、早速収穫するか」



メルルの声を合図に2人は食べごろのとうもろこしを見つけてはもぎ取り収穫する。

初めて体験するクレハはよくわからないが
二人の作業を見よう見まねで収穫しようとするも
これが中々うまくいかず、1つ取るだけでも苦戦していた。

力ずくで引っ張ろうとすれば、力が入りすぎて根っこごと抜き取ってしまい
青ざめた顔で慌てて魔法で元に戻した。



(…ヤバイ。ダリルに見られたら怪力女と思われる!)



魔法で何事もなかったかのように元に戻した彼女だが
すでに遅く、ダリルにその姿をバッチリと目で捉えられていた。

恥ずかしさのあまり慌てて再度収穫に挑戦する彼女だったが、やっぱりうまくいかなかった。

そんな姿を見かねたダリルが笑いながら傍に来てクレハの手に自身の手を添えながら
取り方をレクチャーしてくれた。




「無理やり取ろうとしても駄目だよ、
ここを押さえながら、手前に下げるんだ。」


そういって彼女の手の位置を直し
教えたとおりに一緒にやり直すと一瞬で簡単に採ることができた。




「すごい、簡単にとれた…楽しい!」




彼にありがとう、とお礼を言えば


「お安い御用さ」


背中をポンポンと優しく触れて、満面の笑みで返してくれた。


クレハは彼に良いところを見せようと


「あとは任せてね!」


目に入ったトウモロコシを手当たり次第乱獲するも、
すぐにダリルにその手を止められてしまった。




「あ、クレハ!それはまだダメだ」


ダリルは彼女がとった物を手に取ると
ココをみて、とヒゲの部分を見せつける。



「とうもろこしのヒゲが茶色〜コゲ茶色くらいのじゃないと食べごろじゃないんだ。」



ほら、とダリルは皮を少し剥いて中を見せてくれた。



「あ、本当だ…ごめん。」



ショボン…と彼女が落ち込めば
初めてだから仕方ないよ、とダリルが頭を撫でて慰める。


その様子を見ていたメルルが



「どっちが年上だかわかんねーな?」


とツッコめば
クレハは未成長の固いトウモロコシを少し離れた所にいたメルルの頭部に投げつけた。
(当てるつもりはなかったがヒットしてしまった)


それがきっかけで火がついてしまい
クレハとメルルがひと悶着始めると
ダリルにも止められないほどに悪化してしまった。

二人はトウモロコシで殴り合いを始めてしまい
それを見ていたダリルは頭を抱えてため息を吐く…




「「ダリルはどっちの味方!?!?」」



「えっ!?」


「私だよね!?」


「俺だよな!?」




「「どっち!?!?」」




ダリルがう〜ん…と答えに迷っていると
その場には3人しかいないはずが
どこからか野太い男の声が聞こえた。

喧嘩していた二人もなんだなんだ?と声を出すのを止め、耳を澄ましている。
ダリルは助かったと思うと同時にガサガサと近づく音に身の危険を感じる。



「おい!!!そこにいるのは誰だ!!!」


その声を聞いた瞬間、メルルとダリルの顔色は一気に青ざめ
メルルはクレハの腕を強く引いて来た方向へと走り出す。




「えっ!?なに!?急にどうしたの??」



「バカ!説明してる暇なんてねーよ!とにかく走れ!!」



捕まるぞ!!!というメルルに
何がなんだかわからないままクレハは
とにかく全力で必死にトウモロコシ畑を駆け抜ける。
振り向けば、後ろにいるダリルも死にもの狂いで必死に走っていた。


男の叫び声がどんどん遠ざかり
元来た入口付近に辿り着くと、ようやくメルルは足をとめてクレハの腕から手を放した。



「…ッはァ…ここまでなら…」



「あぁ…多分、大丈夫だ…」





ダリルとメルルがお互いの表情を確認して頷く。

しかしその場にいたクレハだけは
何も納得できずにいた。



「…ちょっと、
いきなり逃げるなんてどういうこと?」



二人の家の畑なんでしょ?

あの男が盗人なら私がボコボコにしてやるのに…

クレハがブスくれれば
二人は気まずそうに顔を合わせて黙り込む。



「え、どうしたの?なんで黙ってるの?」



二人はそのまま暫く黙りこみ、
少しの沈黙が続いた後にダリルが重い口を開いた。



「…ごめん、違うんだよクレハ」



バツが悪そうに話す彼に
何が違うの?と優しく問うと申し訳なさそうに彼は話し出した。




「この畑、僕たちの家のじゃないんだ






盗人は僕たちの方なんだ…。」




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