dream


□消えた記憶
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「お前何やってんだ!
ソレを今すぐクレハに返せ!」



自分のやってることがわかってんのか!



メルルがダリルに詰め寄りながら杖を返すよう促せば、




「それは兄貴の方だ!」



と今まで兄に逆らったことのないダリルが睨みつけて刃向った。

彼の初めて見る言動にメルルは驚きを隠せないでいる






「これは僕たち家族の問題なんだ。
いくらクレハが強いからって、彼女にそんな事をさせちゃいけないよ!女の子なのに…」




彼女を、犯罪者になんかにしたくない…



彼は寂しげな子犬のような表情をしてそう訴える。
その表情に動物が好きなクレハの心はしっかりと鷲掴みされる。




「あぁ、ダリル……」



「クレハ、君も君だよ…
人の事ばかりで考えずに行動していちゃダメだよ?」




彼の行動はどうやら父親を庇ったのではなく
私の事を想っての行動だったらしい。


メルルもその言葉を聞いて何かに気づかされたのか、それ以上は何も言わなくなった。


こんな状況の中でも私の事まで考えてくれる彼の優しさが、じ〜ん…と私の胸に伝わり熱くなる。


私から杖を奪ったダリルをもう一度見れば
これは渡すまい、と彼は必死で杖を後ろに隠しながら私からジリジリと後退する。

今の状況でこんなこと言うのも何だが…
ダリル、めっちゃ可愛い…




「ねぇ、ダリル。
私…お父さんを苦しめることはしない。約束するよ。」



「…本当?」



「うん。ただ、今この状況で解放するのは危ないから…少しの間の記憶だけ消したい」




それならいい…?とダリルの方にそっと手を差し出せば
「それだけなら…」と彼は私にちゃんと杖の持ち手を向けて返してくれた。




「ありがとう…ダリル、大好き…!」




ぐぇっ!とダリルの口から苦しそうな声が漏れる程
彼を強く抱きしめれば
恥ずかしそうにもがきながらも彼は笑顔を見せてくれた。




「少しの記憶を消すだけか……」



どうせならすべて消せばいいのに、と
メルルが不服そうにぼそっと呟いたが
ダリルは「それだけでも十分だよ。」と返してくれた。



「消す記憶はそうね…
ダリルが置き去りにされる少し前くらい〜からにしておこうか。」



それなら無事帰ったことに親が腹を立てることもなく、メルルが鞭打ちされることもない。

もし万が一また父親が置き去りを企むことがあっても付いていかなければいいだけのことだ。





「クレハ、ありがとう…」




「いいえ、こちらこそ。止めてくれてありがとう…」





《 オブリビエイト 》





私は杖をそっと父親の方へ向けると
すぐさま呪文を唱えた。


一瞬杖を向けられ驚いた父親だったが
記憶を消されていくとともに表情はボーッとした顔つきにかわる。


やがて記憶が抜けた父親はそのままイビキをかいて眠りだした。





「次は…メルルだね」



「なっ!!俺も記憶を消すのか!?」



「違うわよ!背中の傷を治すの!!」



こっちにおいで、と手招きをすれば
あぁ、なんだ…俺までこうなるのかと思った…とメルルは横に転がる父親の顔を足で蹴りつける。
そんな兄の焦り様を見て私とダリルはクスクス笑う。




《ヴァルネラ・サネントゥール 》




杖を傷口に翳せば、
酷く腫れて出血していたメルルの背中は綺麗に元の逞しい背中に戻った。


メルルの背中ってこんなに筋肉がついて
ゴツゴツしていたんだ…と
なんとなく背中を撫でていると




「なんだお前、誘ってんのか?」




とメルルに言われて慌てて手を放した。




「なんだ、俺は別に構わないぜ?」



「違うわよハゲ!そんなつもり毛頭ないわ!」



ハゲだけにな!というと
つまんねーよ!とメルルにはチョップを喰らったが
ダリルには受けたらしくツボに入った彼はしゃっくりが出始めてしまった。

いるよね、笑うとしゃっくり出る人。



その後二人の気持ちが落ち着いてから
魔法で父親が暴れて荒れた部屋を片付けて
私が少し屋根裏でお世話になる間快適に過ごせるように色々と準備を進めた。


その間も父親の他に気になっていた母親の姿は見えなくて
疑問に思いつつも、居ない分には助かるので
触れないことにした。



家族の事はまだ解決したことにはならないが
とりあえず、少しの間は落ち着いて暮らせるんじゃないかと私は思い
疲れた、という二人が先に眠るのを見送ってから
早速貸してもらうことになった屋根裏部屋で
私は寝袋に入って休むことにした。


私にとっても、彼らにとっても
明日はいい日になるように祈りながら…









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