dream


□小さな赤い窓
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「クソ親父から話は今朝聞いたんだ
探しに行けなくて悪かったな…」





「ううん…お兄ちゃんは悪くないよ」





ダリルがそういうと
彼の兄は
「そのお兄ちゃんて呼び方いい加減にやめろよ」
と、もう一度ダリルの頭をくしゃくしゃと撫でた。



しばらく私は兄弟二人の
仲睦まじい微笑ましい姿を眺めていたが

ダリルの兄の一言で私の目の保養タイムは呆気なく終了することになる。






「で、そこにいやがるイエローモンキーの女はどこで拾いやがったんだ?」





お前に恵んでやるほどうちは裕福じゃねーぞ



と彼は煙草を足で踏み消しながら
私の方へ近寄ってきた。

彼の言葉に、私の顔には一本の筋がピキッと浮き上がる。




「あ?今なんつった?」




差別的な発言に私は殺気を飛ばしながら少年を睨み返すも
彼は「野ネズミなんかが睨んでも怖かねーよ」とツバを吐きやがった。




「聞こえなかったか?アジア女
イエローモンキーは頭だけじゃなくどうやら耳も悪いらしいな」




そういいながらダリルの兄は私の顔と身体を嘗め回すようにジロジロと観察すると
勝手に何かに納得し、ふぅん、と頷く。





「まぁ、見た目はそれほど悪かねぇな」





「んな事はどうでもいいわ。
それよりも私に対する無礼な態度を謝罪しろや」





一瞬で灰にしてやろうか?


ダリルと同じDNAを奇跡的に受け継いだこのマウンテンゴリラ野郎、と
私がファックポーズを繰り出すとダリルの兄は顔を真っ赤にし
私の胸ぐらを掴み殴りかかろうとする。






「このクソアマ!!!!」





「やめてよ兄貴!死んじゃうよ!」




必死でダリルが間に入り、兄を止めようとするも
彼の力が強すぎてダリルは弾き飛ばされてしまった。





「安心しろ、殺しはしない。少し黙らせるだけだ」





再び彼が私に殴ろうとしたその時
地面に転がっていたダリルが必死で兄に向い叫ぶ。



「違うよ!死ぬのは彼女じゃない、兄貴だ!」






はあ?とダリルの兄が一瞬よそ見をした瞬間
ダリルの警告はすでに遅く
クレハは少年に思いっきりローキックで蹴りを入れた

舐めきって油断していただけに、彼は綺麗に吹っ飛んでくれた。

その後、何が起きたか理解ができないヨロヨロと立ち上がる少年の背後を取り、
バックドロップを決めると横からは「ギャアアアアッ」という悲鳴が聞こえた。





「イエーイ! スリザリン、50点!!!!」




「クレハ!!!!」




「あっ…ごめん…」




「お兄ちゃん大丈夫!?」とまた呼び方が戻りつつ
兄の元へ駆け寄るダリルを見て
ちょっとやり過ぎたかな…とクレハは反省する。
(よく考えたらダリルの家族になんてことを…)



唸り声をあげる、ダリルに少し似たゴリラに手を差し出すと

チッという舌打ちをしながら彼は私の手を振り払って自力で立ち上がる。




「お兄ちゃ…兄貴、彼女は遭難していた僕を助けてくれた人なんだ」



命の恩人なんだよ…という彼の言葉を聞いて
少年は「それを先に言えよ…」と首を抑えながらうめき声をあげる。




「なんだよこのゴリラ女、強すぎだろ」




「ウホウホうるせーな、レディに手を上げようとしたくせに」



「いや、レディがバックドロップなんかするかよ!」



そんな女見たことねーよ!

この女、タマでもついてんじゃねーのか?というゴリラを目の前に
私が今度はどう痛めつけてやろうかとボキボキ指を鳴らせば
彼は小さく「…わりぃ」と謝罪した。




「ん〜?ゴリ男くん、声が小さいなあ?」




「悪かったって言ってんだろ!」



そう言いながら彼は照れくさそうに頭を搔きながらあ、あぁ〜…と何か言いたそうにしている。




「なあに?」



「…あと、遅くなったが弟の事…
世話になったな。」


コイツ一人じゃ帰って来れなかったかも知れねえからな…

俺からも礼を言う。


と、彼は頭を下げてきた。


ダリルの事に関してはどうやら兄としての思いやりがあるようで
彼の言う言葉に偽りは感じず、最初は無礼な態度だったものの、
そんな律儀な彼の態度を見て私は彼を許した。



「…ちょっとふざけ過ぎた。ごめんね。
私はクレハ・スカーレットよ」


さっきはごめんなさい、と頭を下げ
彼の前に右手を差出して握手を求めると
彼は戸惑いながらもガッチリとその手を握り返してくれた。






「あぁ…、俺はメルルだ。メルル・ディクソン」




二人で固めの握手をしているとお前もしかしてハーフか?
なんてメルルが聞いてきたのでイギリスと日本のハーフだというと
さっきは言い過ぎて悪かったな、なんて謝ってきた。

私もゴリラって本当の事言ってごめんね、と謝ると「おいッ!」とチョップでツッコミされる



どうやら彼はスコーピウスのツッコミポジションらしい。





「俺は…弟以外であまり人を信用してねぇんだ。色々あってな」



ダリルに肩を組みながらそう言う彼に、
家族の事もあり、なんとなく理解したような気がしてしまい「あぁ…」とだけ返事する。



「だがお前は別だ。
弟を助けてもらった恩はキッチリ返す、何かあれば俺に言ってくれ」


力になる、という彼にダリルと同じように
男らしさを感じた。
もしかしたらダリルはそんなメルルをリスペクトしてたのかな、なんて思う。




「ありがとう、じゃあ早速だけど
ダリルと一緒に家に行ってあげてくれる?」



ちょっと…帰りづらいだろうし…と
ダリルの方をチラリとみれば彼は下を向いて俯いた。




「あぁ、勿論だ。」



じゃあな、とダリルを連れて帰ろうとするメルルに寂しさを感じながら二人の背中を見送っていると
途中ダリルが彼の腕から抜け出して、私の方に駆け寄ってきた。




「どうしたの?帰らないの?」


お兄ちゃんがついてるから大丈夫だよ、と少し屈んでダリルに目線を合わせてあげると
彼は私と同じように寂しそうな目をしていた。




「…クレハ、本当に外で一人でいるの?」




「なぁんだ、そんな事?」



私の事は大丈夫だってば〜!と笑い飛ばしても
彼は暗い顔をしている。
そんな様子を見て一人話が理解できないメルルが「なんの話だ?」と割って入ってきた。





「クレハは住むところがないんだ…」



「は?お前、親はどうしたんだよ?」



「…えっと……。」



…なんて説明したらいいのだろうと考えていると、ダリルがメルルに何も聞くな、と首を振って合図した。

それで何かを察したのかそうか…とメルルは黙って考え出す。




「いや、本当私は大丈夫だから…「来いよ。」



へっ?」




いいからついてこい、とメルルは私の腕を強引に引っ張ると
家の玄関とは反対側に私を連れだした。


ダリルに『一体なんなの?』と目で合図を送るも
彼も分からないらしく首を傾けている。



やがて到着すると
メルルは庭の倉庫から長いハシゴを持ち出してきて
屋根に立て掛け始めた。

彼があそこだ、と指さす先には
屋根裏部屋と続く、小さな赤い窓がそこにはあった。



「あの窓がどうかしたの?」



「上にあるあの小窓から屋根裏部屋に入ることができる」



俺たちの部屋の上に天井収納のハシゴがあったんだが、随分前に壊れて使えなくなってから
あそこは手つかずだったんだ。
親も使わない。

俺とダチの基地にしてたんだが
お前にやるから、好きに使えよ。

外の窓からなら入れる、とメルルは私の肩をポン、と叩いてきた。





「え…でも、そんな迷惑を掛けるわけには…」




ご両親も家にいるのに…と、戸惑う私に





「大丈夫だよ、クレハ!外に一人でいるよりは断然いいよ!」



これでいつでも会えるし、とダリルは喜ぶ。

ハシゴをコッソリ直して
トイレやバスルームは僕たちの部屋のを使えばいいよ!とウキウキした瞳で私をみつめる




「親父たちは俺らには興味ねぇから上まで来ない。安心しな」




本当にいいの…?と遠慮する私に
さっきからいいって言ってんだろ?とメルルがニッと笑う。

あ、初めて笑った顔みた…




「じゃあ、バイト見つけて生活できるまで…よろしくお願いします」



「おう!」




「クレハ!何でも困ったら言ってね!」




ようこそ我が家へ、と
二人が肩を組んで私を迎え入れてくれる。

まるで新しい家族…兄弟ができたようで
不思議な感覚だ。
男兄弟がもしいたら、こんな感じで和気あいあいとしてたのかな…と想像してしまう。


そうして私はそんな彼らの優しさに素直に甘え

一つ屋根の下でダリル、メルルと共に、一緒に住むこととなった。











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