dream


□魔女と少年
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「わぁっ!!!!」






・・・・ガシャンッ






急に振り向き声を荒げたクレハに驚いてダリルは持っていたカメラを
落として近くに転がっていた冷蔵庫にぶつけてしまった。


割れたレンズを見て

直せば使えたかもしれないのに…

と落ち込む彼に、素早く魔法でカメラを直し、彼の手に戻す。
「魔法ってすごい!」と興奮するダリルの肩に手を置き
それどころじゃないから!と落ち着かせる。




「ダリル!
これだけの不法投棄があるということは近くに道路があるはずよ!」



「なんで??」



「こんな重いものを遠くまで運べる!?
きっと近くに道路があってそこから捨てたのよ!」



クレハったらすごいや!

なんてダリルが私をベタ褒めするもんだから私はへへへっと天狗状態になる。


でもどこから運んで来たのだろう…
私は引きずられたような痕跡がないか探していると、ダリルがもしかしてあそこじゃない?
と指をさす。


彼が指をさす先を見てみれば、
4〜50メートルはあるであろう崖がそこには聳え立っていた。


確かに、引きずって持ち込んだというよりは
この位置で上から落としたような感じかもしれない。




「よく見つけたわ、相棒!
私が先に安全か確かめるからそこにいて!」



私が杖を取り出して自身に魔法を掛けようとすれば
ダリルがそれを手で制した。



「僕が先に行くから魔法掛けてくれる?」





『これでも僕はれっきとした男なんだ。』

『もう少し頼ってほしい』



そんな昨日の男らしい彼の言葉を思い出して
私はコクリ、と頷く。




「ちょっと浮遊するから気持ち悪いかもしれないけど…
準備はいい?」



「いつでもいいよ」と彼は頷き
着いたら合図を送るからその後にきて、と
杖を持つ私の手を自身の体に引き寄せた。


そんな彼にまたドキッとしてしまったが、悟られないように私は平常心を保つ。






それじゃあ、いくよ・・・





《ウィンガーディアム・レビオーサ 》





彼の体はゆっくりと浮上し、あっという間に高い崖の上までに到達するが
ここからでは彼の様子は見えない。

うまく着地できただろうか?


あとは彼の合図を待つだけ・・・






《キキィイイイイイイイイイーーー!!!!》






その時…大きく激しい、耳を劈くような
車のブレーキ音と、ダリルの叫び声が聞こえた。




「ダリル!? ダリル!!!!」



返事がないことに焦り、クレハは急いで自身に呪文を唱える。




《アセンディオ !》




私は魔法で急いで上まで昇り、その勢いのまま突っ込んで
クッション呪文を使う余裕をなくしてしまい
道をゴロゴロと転がった。痛い…



「ダリル、ダリル、どこ!?」


着地した際にぶつけた身体を擦りながら
辺りをキョロキョロと見渡せばそこには一台の車と
その車の前で地べたに座り込み固まっているダリルがいた。



「ダリル…大丈夫なの!?」



急いで彼のもとへ駆け寄り
クレハは怪我がないか手探りで確認する。
一通りチェックして大きい怪我が無いことに安心し
彼の顔を見下ろすと



「ヒッチハイクに成功したよ」




と彼はグッと親指を立ててニカッと笑った。


心配したじゃないか、バカダリルッ!
と、クレハは強めに彼の肩をバシバシと叩いた。




「お、おい!
一体全体お前たちはどうなっているんだ!」




私たちが抱きしめあっていると
車の持ち主らしい男性が降りてきて、私達に指をさしながら
恐るおそる近くに寄ってきた。


驚く男性に私は頭をペコリと下げて謝罪をする。




「急に飛び出してしまいすみませんでした…
車の方は無事ですか?」



「あ…ハイこちらこそ。無事で何より…って

いやいやいや!!!飛び出したってもんじゃなかったぞ!?

今飛んで来たんだ!この50メートルはあるだろう崖の下から!!!!」




こ、この、この下からだぞ!!!???


どういうことだ!!!一体なんなんだ!!!



軽くパニックになる男性に
まぁまぁ落ち着いて、ドゥドゥ、と私が近づけば
酷く怯えて「こっちに来るな化け物め!」と男性は車に逃げ込もうとした。




「ダリル!絶対逃がさないで!!!!」




「わかった!!」



逃がすかぁああぁぁぁ!!!!と私たちが二人で車に入ることを阻止すれば



殺されるぅぅぅぅ!!!

神様!!!!神さまぁああああ!!!!



と彼は余計にパニックになってしまった。
かなり酷く暴れる男性をダリルに任せて
仕方なく魔法を掛けて服従させることにした。




《インペリオ!私に従え!》





すると先ほどまで暴れていた男性は嘘のように大人しくなり
うっとりとした表情で『やぁ、こんにちわ』と私を見つめる




「これから彼、ダリルの言うところまで車で連れて行きなさい」




『はい、喜んでお連れ致します』




「安全運転で頼むわね」




私たちは車の後ろの後部座席に乗り込み
服従させた男にダリルが自分の家の住所を伝えると
ほわほわとした表情をしながらハンドルを握り車を走らせた。
まるで酔っぱらいのようにボーッとするそんな男を見て
どうやらダリルは心配なようだ。




「クレハ、この人大丈夫なの?
なんだか不安なんだけど…」




「服従してるから大丈夫よ。言うことは必ず聞く」




これでやっと家に帰れるね…と私はダリルに寄りかかり
頭をコツンとぶつける。



「うん…ありがとう。
でも、クレハはこれからどうするの?」



ダリルの質問に、私はう〜ん…と頭を悩ませる。


そういえば彼の家を探すことばかり考えていて
自分の事なんか何も考えていなかった。
この時代には私は戸籍もないわけで…お金も魔法界のガリオン硬貨と
日本のお金しか持っていなかったので普通に暮らせるわけがない。




「ん〜…まぁ、とりあえずテントがあるから。
ダリルの家の近くで寝泊まりするかな?」



ダリルの家って山の中なんでしょ?


少し離れていれば、ご両親にもバレないよね?



ダリルが私が近くにいて嫌だったら離れるけど…と言えば
「そんなワケないよ!近くにいて!」と子犬のような目で見つめられ
私の中の母性本能がくすぐられた。

ウン、としか言えねーべ、こんな顔されたら。




「私はどうにでもなるから、大丈夫だよ。安心して?」



ダリルの頭をそっと撫でてあげれば彼は不安そうに俯く…

彼の顔を覗き込むと、目には少し涙が溜まっていた。




「僕、なんとなくわかっているんだ。
父さんはわざと僕を置いて行ったんだって…」



僕はきっと帰っても喜ばれない、帰るべきじゃないのかも…と
弱々しくなる彼を私は力いっぱい抱きしめた。




「ダリル、誰でも過ちは犯すものだわ。
大事なものを失ってから人は気づくものよ」



「でも…両親は僕を探してくれなかった」



「大丈夫、きっと大丈夫よ。
もしなにかあれば私に教えて?」



アナタのご両親を魔法でブタにしてやるわ。と言えば
ダリルはやめてよ…と言いながらもニコッと笑った。



「いい?ダリル。
これから先、あなたに酷いことをするような奴がいれば私が絶対に許さないわ。
私がこの世界にいる限り全力でダリルを守る。約束する」



さぁ、ダリル、こっちに頭を傾けてくれる?

手で早く早く、そう急かすクレハに疑問を感じながらも
ダリルはゆっくりと頭を下げる



「本来なら破れぬ誓いを立てたいところだけど、
あれは立会人がいないとできないものなの」



だから…これが私の誓いの代わり、とクレハは
先住民族の村の女性、ナシャが私にプレゼントしてくれたネックレスを
彼の首に掛ける。



「これは…?」



「ある人がくれた物で私とペアなの」



これがあればどこに居ようと引き合わせてくれるはずよ。
でも…ちょっと細工をしちゃおうかな?
と私はネックレスにまじないを掛ける。これは古くからある恋のまじないだ
お互いが強く念じればネックレスが引き合うように反応するようにした。



「もし何か困ったらこれを頼りに私を探してね」



「クレハ…いいの?ありがとう!!」



彼は「大事にするね!」と
嬉しそうにネックレスをギュッと握りしめた。


そんな彼の笑顔を見て、渡してから私はハッと気付く。



少し前まで私は、彼に期待をさせてはいけないと考えていたのにも関わらず
あっさりとこのネックレスを渡してしまった…。

きっと彼もこれを渡したことにより、期待してしまうだろう。
(恋のまじないまで掛けちゃったし)



でも、これを私は母性本能で、同情で彼に渡したのではない。


一緒にいたい、そう心から願う自分の気持ちから
無意識で行動してしまったのだ。



私も…彼が好きなのかもしれない…



でも今は年下で、未来では私より遥かに年上で…


私は別の世界に戻るかもしれないし、戻れないかもしれない
そして戻ったとしても二度と会えないかもしれない。


とても、複雑だ。


そんな私がやはり彼を好きになってしまうのは…

どうなのだろうか…



チラッと横にいるダリルを盗み見れば
彼はネックレスを握りながらすやすやと気持ちよさそうに寝ていた。


そんな彼の横顔は、あどけなさがまだ少しあるものの
とても綺麗で、
年下にも関わらず見ているだけでドキッとしてしまった。


ダリルとは出会ったばかりだけど、こんなに異性でドキドキしたのは
ハリー様以外初めてのこと。



やっぱり、私はダリルが好きなんだ…



年下が好きなショタコンと思われようが
年上が好きな枯れ専と思われようが、私はダリルが好き…。好きだ、うん。





「ねぇ、目的地にはどれくらいで着く予定?」



『恐らく…一時間半程かと!』



「そう、じゃあ到着する5分前に起こして貰ってもいい?」



『はい、かしこまりました!
ゆっくりとお休みくださいませ!』




私はダリルに寄り添い、彼の肩にそっと頭を預ける。

両親を亡くしたばかりなのに、不謹慎かもしれないが
自分の気持ちに素直になれた今、私は幸福感に包まれる。



この幸せが…続くといいな…



少し開けられた窓の隙間から
心地良い風が二人の髪を撫でながら通り抜ける。


気持ちいい…



「ダリル、私、あなたのこと好きよ…」



ダリルの綺麗な横顔を最後にもう一度見てから
彼の前髪を掻き上げておでこにキスをした。

私は再度彼に寄りかかり、
居心地のいい風と、車に揺られながら
そっと目を閉じてそのまま眠りにつく…






車内には彼女の寝息だけが静かに響き渡る。













「…僕も好きだよ。クレハ」




















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