dream


□紡がれた始めた糸
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「クレハ、いい加減起きなさい!

もう漏れ鍋からでないと、列車に乗れなくなるわよ!」


「女の子の友達はもう駅に向かったぞ?」



ホラ、ホラ!!と母親が手をパンパンと鳴らす音が聞こえる。



え〜・・・?


ん〜…もう少しだけ…




「まったくこの子は…」



「お、母さん。クレハは良いものを持っているようだよ」


「あら、やだ。またイタズラグッズ?」


またこんなものばかり…
ふふっ、使ってみようかしら、あなた?


あぁ、きっと飛び起きるぞ…










ジリリリリリリリリリリリリィッッ!!!!!!






「ッうっひゃふぅぅぅぅぅッ!?」




まるで古い目覚まし時計のベルの音のような騒音にクレハは飛び起き、咄嗟に右手に杖を握りしめ、構える。

寝惚け眼で周りを見渡し
まだ起ききれていない脳みそをフルに稼働して
外から聞こえる音の原因を探る。

テントから身を乗り出して確認すると

目の前には昨日仕掛けた落とし穴のトラップに何かが引っ掛かった形跡があった。


ポムポムさんのシートが消えている…


この騒音の原因は
どうやら落っこちた動物を感知した鈴虫のおもちゃだったようだ。

てっきり私はチリーンチリーンと鈴の様な音で知らせてくれるものかと思っていたので
予想外の音に耳を塞ぐ。

こんなにうるさいとは…

たかが動物ごときでこんなに大騒ぎされたらたまったもんじゃない。


《フィニート・インカンターテム 》


ジリリリリ!と羽を一生懸命動かして
騒音を響かせていた鈴虫は何事もなかったかのように
ピタッと止まる。


鈴虫の警告音を止め、二度寝でもしようかなぁ…と
「ふわぁ〜…」と欠伸をしながらクレハがテントに戻ろうとしたその時

静かになったその場から思いもよらない声が響いた。



「ねぇ!!誰かそこにいるの!?

お願い!ここから出してよ!!!」





「えっ…人間!!???」




急いで落とし穴に駆け寄り、覗き込むと

そこには綺麗な顔をした可愛い少年がいた。


しまった…!
昨日イタズラグッズを仕掛けるのに夢中で
マグル除けの魔法を掛けるのを忘れてしまっていた…



「ご、ごめんね!私てっきり動物かと…」



私は急いで彼をそこからすぐに引き上げる。

どうやら彼は身体中に傷を負っているうえに
落とし穴に落ちたせいで足を痛めたらしい。

整った顔立ちが苦痛により歪んでいる。

でもそんな顔も綺麗だと私は不謹慎にも思ってしまった。



「ごめんね、私のせいで…

今治療してあげるからこっちにおいで!」


痛みに必死に耐え、無言になる彼の肩を担いでテントに入ろうとするが
私は彼のあまりの軽さに驚いた。


かるっ!何この子…ちゃんと食べてるの…?
成長期真っ只中の男の子だよね?

なんだか少し身なりも汚いし…


色々と心配になりながらも治療優先、と
寝袋をクッション代わりにして彼をそこに寝かす。
すると、降ろした衝撃で痛みを感じたのか下からは呻き声が聞こえた。
一言私はごめんね、と謝る。



「…よし。

それで…今から治療をするのだけど

先に言っておくね。驚かないでください。」


あと、私は悪魔でも妖怪でもないし
君に危害を加えるようなことは誓ってしないから。約束する。


そう言い切ると私は杖を取り出し彼の身体に向けた。


彼は首を傾げながら意味がわからないという顔をしたが
それは数秒後に理解することになる。



《ヴァルネラ・サネントゥール 》



すると彼の破れた服や、その隙間から見えていた全身の傷
そして負傷して出血していた足も徐々に癒え
何事もなかったかのように彼の元の姿に戻った。


その様子を見て彼は口をポカーンとあけ
固まってしまっていた。

やはり、彼は魔法の見慣れていないマグルだったようだ。


彼が何か言葉を出そうと口を必死にパクパクしているが、驚きすぎて声が出ないようだ。

でも、彼がなんて言葉を出そうとしてるかなんて…なんとなく想像がつく。


きっと、悪魔…「天使だ!」って…


「…へ?」


思わぬ言葉に、思わず間抜けな裏声が出てしまった。

私の耳が腐ってしまったのかな?

いま、なんて…「天使だ!!」


「君は神の使いで、僕を救いにきてくれたんだね!!!」


僕が昨日神様に助けてって、お願いしたんだ!

彼はそういうと、私に抱き着いて

「ありがとう!」嬉しそうに喜んだ。


…プッ


今までなかった新しい反応に私はアハハッと声を出して彼を抱きしめたまま後ろに転がって
盛大に笑ってしまった

この私が天使って…!


笑う私をどうしたの、天使さん?なんていう彼がまた可笑しくてひーひーお腹を抱えて笑う。



「ごめんよ、少年。私は神の使いでも天使でもないんだよ。」



…私は魔女なの。と杖を一振りして彼の手の中に一輪の花を咲かせて見せれば
彼はキラキラした冒険心溢れる無邪気な瞳で私を見つめた。


「…すごい、魔法使いや魔女は本当にいたんだね…!
僕、信じてたんだ!チュパカブラや魔女も天使もいるって!!!」



チュパカブラ、その言葉を聞いて私はブッ!と思わず噴き出した。

なんで魔女と天使のチョイスにチュパカブラがいるんだよ…面白すぎるこの子。



「ふふっ…そっか、君が怖がらなくてよかったよ」


初めて魔法を見る人は大体怖がるもんだよ、と
笑いを堪えながらいると

彼は???

と不思議そうな顔をして
身を乗り出し私をジッと見つめてきた。

彼は私より明らかに年下だが、
それでもこんな綺麗な顔立ちの男の子に見つめられてはドキッとしてしまう。



「どうして?僕は魔法が使えるアナタがすごいと思うよ、もっと自信を持つべきだ。
だってアナタはその力で僕を助けてくれた」


そうしてニコッと笑った彼は少し恥ずかしそうにそっと、私に手を差し出してきた。


なあに?どうしたの?とその手を握ると
彼は顔を真っ赤にして


「僕と…友達になってくれる?」


ともじもじと友達申請をしてきた。




【美少年から友達申請が来ています】


 申請を承諾しますか?


  ・イエス
  ・イエス
 ⇒・イエス


イエスしかなくねえええええええええええええええええええええええええええええええ!?!?!?




「イイヨイイヨモチロンダヨ!!!!」


私が彼の手を握りしめてぶんぶん振っていると
彼は嬉しそうにヘヘッと笑った。


あぁ…スコーピウスと違ってかわゆい…


あ、そうだ…



「ねぇ、そういえば君の名前をまだ聞いていないよね?私はクレハ・スカーレット。君は?」


そうだった、友達になる前に自己紹介だよね…と彼は立ち上がり私に向きなおして
再び手を差し出しながら自己紹介をした。



「僕の名前はダリル。

ダリル・ディクソンっていうんだ」




よろしくお願いします、

そうペコリと頭を下げる彼の手を私はもう一度握りしめ


こちらこそよろしくね、ダリル!


と彼の頭を優しく撫でた。






お母さん、お父さん

どうやらここに来て私

やっとモテ期が来たようです。













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