dream


□真夏のスイカボンバー
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その場所は今朝の公園とは同じ場所とは思えないほど


沢山の人たちで溢れかえっていた


ルシールとクレハはあまりの人の多さに驚愕しながらも周りを観察しながら歩き出す。



日本の学校も夏休みだからだろうか、


友達同士で来る小学生

親子やおじいちゃん、おばあちゃんと手を繋ぎ
ながらクジをねだる子供たち。

部活終わりだろうか、ジャーシ姿の中高生。



この時間はまだ浴衣を着ている人はそんなにいないようで私たちは少し目立っていた。




「クレハ、私たちちょっと来るの早かったかしら??」



あまり同じ年代の女の子がいないのに不安を感じながらルシールがコッソリ耳打ちしてきた。



「大丈夫だよ、この時間帯は皆私みたいにダラダラしてるの!それにね、来るの遅いと損するよ」



損?と聞き返すルシールに私は

「ふふん、聞きたまえルシール君」

と自信ありげに理由を教えてあげた。



実はお祭りは涼しくなる夕方に行きがちだが
結構損することが沢山ある。


まず食べ物。


人気な物は売り切れになってしまう事もあるが
段々売れていく中、
無くなりそうなのが読めてくると
お店の人は若干量を調節し始める。

私の経験で
お好み焼き、焼きそばは高確率で最初の時より夕方に頼んだら少なかった。


そして電動でないかき氷機を使うお店では
午後になるとみんな疲れてしまい
そのせいで注文したものが中々でない&量が少なかったりする

綿菓子も暑い&ベタ着くの最悪コンボで段々お店の人のやる気が落ちてきて上と同じになる。



クジは割と最初の方にいい景品が置いてあり
当たりも割とでているが
夕方になると数を補充するためにハズレ玉を多く追加するのだ。

一応午後用にアタリもあるがハズレを多く追加するもんだから中々当たらない。


そして金魚掬いも〜




と熱弁していると
隣にいたはずのルシールは消えていて


「クレハ〜!早く早く〜〜!!」


と早速焼きトウモロコシの列に並んでいた。


なんと、
初っ端焼きトウモロコシとは中々いいチョイスだ。



「っはぁ〜すごくいい香りね!」


待ってるだけでお腹すいちゃうわ!と
お腹をスリスリしながらルシールは過呼吸並みに
息を吸ったり吐いたりしている。



「この焼きトウモロコシが食べれるのも日本のお祭りくらいだから存分に味わってね」


「そうね、ソイソース(醤油)で食べるなんてはじめてだから楽しみだわっ」

そんな会話をしていると


はいよっ!お嬢ちゃん!


おっちゃんがニカッ眩しい笑顔で
焼きトウモロコシを2本渡してくれた。


着物を着ている私たちへの気遣いか、
おっちゃんが隣のイカ焼きの屋台からトレーを借りて態々トウモロコシに割り箸まで挿してくれた。

私たちはお礼を言い受け取ると
その香りに我慢ができず、すぐに思いっきりかぶりつく。



「「おいしい〜!!!!!!」」


ルシールと顔を見合わせクスクス笑った。


「どお?はじめての日本の屋台の味は?」

「もう…っ最高よ!!」


でもこんな立ちながら手でご飯を食べているのを両親に見られたら卒倒されそうだわ、と苦笑いするルシールがなんだか面白くて私は笑った。


その後も
色んな屋台を見ながら私たちは食べ歩きした。


焼きそば、たこ焼き、チョコバナナ、かき氷
フランクフルトにジャガバター
牛串に綿菓子…

ほぼ制覇したんじゃないかと思うくらい食べまくった。


輪投げや射的、くじ引き、金魚掬いなども一通り遊びつくした。

ルシールの手にはクジの景品である柴犬のぬいぐるみと金魚すくいの金魚の袋が握られていた。


私はというと…


残念賞のやすっちい駄菓子で手がふさがっていた…くやしぃ。


ちなみに射的が得意な私はルシールに景品の可愛い天然石のブレスレットをプレゼントした。

実は色違いで私とお揃い。

私は紫のアメジスト、ルシールはピンクのローズクォーツだ。

ルシールは右手に、私は左手に
左右対称で手首を着飾った。



ふと、空を見上げてみると辺りは暗くなり
それを合図として
昼間とは比べ物にならないくらい人が押し寄せ
場所取り合戦が繰り広げられていた。


これからメインイベントの花火が始まるのだ。


すでにシートをひいて場所取りをしていた私たちは歩き疲れたのもあり

最後にラムネと焼き鳥を買って席に着いた。




「はぁ〜…なんだか久しぶりに夏を満喫したって感じだよ」


私が寝ころぶと背中側にいたのか
浴衣の中の黒猫のブニャッ!という声が聞こえて慌てて体制を直した。



「私もこんな楽しい休暇ははじめてよ…」


ルシールも疲れたのか、猫の二の舞にならないよう気を付けながら私のように寝ころぶ

先ほどまでの沢山の人で溢れていた
ごちゃごちゃとした景色が一気に変わり
私たちの瞳には広い空だけが映る



「ねぇ、クレハ」


「んー?」


「私、クレハと出会えて本当に良かった…」


そうルシールが言い終わる前にヒュゥ〜〜〜と独特な音が響き周りの人たちが


《待ってました〜!!!!!》


と、騒ぎ出す。



花火が始まった。


目の前で一発目の大きな花火がバァンッと大きな音をたてて咲き誇る


わぁっ…!と二人はあまりの迫力に言葉がでない。


選んだ場所が良かったのもあるが
下に寝ころんで見る花火はそれは迫力があり
まるで目の前で太鼓を叩かれているような
ドーンという衝撃が花が開くたびに身体に走る。


心臓が驚いて鼓動が早くなる。



次々と繰り広げられる職人たちの魂が注ぎ込まれた可憐な花たちのパレード


私たちはきっとこの夏一番の思い出となるだろうその光景をしっかり瞳に焼き付けた。


大きな音が鳴り響く中、私は先ほど聞き逃したルシールの言葉を思い出す。


「ねぇ、ルシール。さっきなんて言ったの?」


そういいながら
今度は聞き逃すまいとクレハは耳に手を添え身を乗り出す。

しかし
いつまで待ってもルシールからは返事が来ず、
おーい!と目の前で手を振ればこちらに気づいた彼女に


「なーいしょっ♪」


と、はぐらかされてしまった。


え〜!気になるじゃん!と花火そっちのけで騒ぐ私を見てルシールは口に焼き鳥を押し込んできた。


うん。うんまい。


「大したことじゃないの、今は花火を楽しみましょうよ」


ルシールがクレハの頭をよしよしと撫でる。

彼女の言葉が気になったが、そうしてる間にも数多くの花火を見逃してしまった。



ルシールの言うとおり今は花火を楽しもう。


それから迫力ある花たちをを観賞するも

気づけば花火は部門が変わり

花から色とりどりのアートに変わっていった



ハートや動物



色んな色の星・・・・





私たちはその美しい光景がいつか終わるとわかっていながらも


心の中で『まだ終わらないで』と繰り返し呟く。



話せることを忘れたかのように




ただただ、最後の華が散るまで無言で見つめていた。














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