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□雪の中に
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初対面なのに、ここ数日でわかるくらい
かなりマイペースで、元気いっぱいで
まるで太陽みたいに明るいサナ


今まで、転校を繰り返してきたからか
人見知りなんてほど遠いくらい

なんでも話せるような優しい雰囲気を持っている、そんな子だった



あの日から、クラスは違うけれど
自然と3人で帰るようになって

チェヨンとは途中で別れるから
そのあとは、サナとふたり



毎日、他愛のない話をした


サナは今まで5回、転校していて
あちこちの学校や友達の話を
たくさん聞かせてくれる

ここにしか住んでいない私には
そんなサナの話が
すごく新鮮で、面白くて



もしかしたら、それはサナが
話し上手だからかもしれない


逆に、私はとても口下手だけど

それでもサナはいつも隣で
楽しそうに、笑って聞いてくれた



次第に私は下校が楽しみになって

むしろ、早く帰りたいとさえ
思うようになっていった


















「チェヨン、ツウィ、帰ろ?」



教室の入り口からひょこっと顔を覗かせ
今日もサナは、こちらに手を振る

制服の上には厚手のコートを羽織り
首元には、ぐるぐると
淡い紫色のマフラーを巻いて
彼女の口元はすっぽりと隠れている



『あれ?もうマフラー?』


「だって寒いねんもん…」




そんな話をしていると
チェヨンは何かを思い出したようで
椅子から勢いよく立ち上がった




「あ、私先生に課題出してこないと…先行ってて!」


『ん、じゃあ図書室にいていい?』



「わかった、すぐいく!」



そう言って鞄をひるがえし
バタバタと音を立て教室から
走り去っていったチェヨンの背中を
静かになった教室からふたりで見送った




図書室は好きだ

空いた窓の揺れるカーテンと吹く風も
すこし遠くに聞こえる運動部の掛け声も

この約束された静かな空間に安心感を覚える


ふと、サナの方を向くとなぜか
不思議そうな顔してこっちを見ていた




「なあ、なんで図書室?」


『明日の朝読の本借りとこうと思って』



「ツウィ、本好きそう!」


『いや、全然苦手だよ』


「あれ?」


『あ、静かだからそう思ったんでしょ』



「それもある!」


『それしかないでしょ』



「へへ」




「あ、さなもな、今チェヨンに借りてんねん」



そう言いながら、肩にかけた鞄の中を
ごそごそと漁っているサナ

やっとのことで出てきたのは
ハードカバーの、いかにも重そうな本で




「じゃん!」


『わ、分厚いね』



「そうでもないで?」


『チェヨン地味に本好きだよね』



「な、見えへんよな」


『こっちは読みやすそうなのを探すので精一杯なのに…』



「やったらツウィもチェヨンに借りたら?オススメいっぱい知ってるし」



『んー…』




うーん、と唸る私の顔を
彼女は不思議そうに覗き込む




「あれ?あかん?」


『…サナのおすすめはないの?』



「えっ?さなの?」


『あ、無いなら別に…』




「…ある!!」



私の言葉を遮って、そう言ったサナは
おもむろにどこかの本棚の方へ行って

一冊の本を手に持って
ぱたぱたと、こちらへ戻ってきた





「これっ!」



そういって目の前に差し出されたのは
これまた分厚い、重そうな本




『これもまた…』


「大丈夫、これおもしろくて一気に読んでまうから!」



『…読んでみる』





彼女の手からその本を受け取って
ありがとう、と微笑むと

サナも私の顔を見て
優しく微笑み返してくれる






活字は苦手だし、長そうだけど
ちゃんと読むよ


せっかく君が
おすすめしてくれた本だから
















朝礼の後の学校で決められた朝読の時間


誰一人言葉を発することもなく
しん、と静まり返る教室で

私は彼女に勧められた本を
今日も、黙々と読み進めていた



すごい…これ本当におもしろくて
あと数日もすれば読み終わりそう

次もなにかオススメを聞こう




もう残り少なくなったページ

それを指で感じながら
また物語の中に戻ろうとしていた矢先

隣に座っているチェヨンが
とんとん、と私の机を指で叩いた




「ねえねえ」


『どうしたの、喋ったら怒られるよ』



「んー、もう読み終わっちゃって
なんか本持ってない?」


『持ってない、教科書読んでたら?』



「えー…あ、その本…なんだっけ?」


『ああ、これサナが…』





「あっ!そうだ!それ昔サナに貸したやつだ!」



私の持っているこの本を指さして

そうだそうだ!と
嬉しそうに笑うチェヨン




「サナもそれ面白かったって言ってたよ!」



にこっと私に微笑みながら、そう言った



そして思っていたよりその声は
教室に響いてしまったようで

教壇の方から先生の怒鳴り声が飛んでくる






あぁ…そうですか


まあサナもそんなに本読みそうにないし
どこかでそんな気はしてましたよ




してたけどなんだろう



…思ったより、ショックだな









-







今日もいつものように3人で歩く帰り道


私は今朝から、もやもやする心に
頭をひねりながら考え続けていた




なんでこんなにショックなんだろう



ふたりは、前から友達で
私は知り合ったばっかりだし

そんなの、仕方がないのに…





ああ、そういえば

こうやってチェヨンと別れた後
絶対にサナの口からチェヨンの話が出る






「―そしたらチェヨンがな」





ほらね






「先輩がそれを見てたんやって!」


『あの子はそういう子だからね』



「やんな!」





最初はそれも楽しかったんだけど
だんだんと、違和感を感じていた


ふたりきりなのに

ふたりでいる気がしない






…サナはチェヨンが好きなんじゃないか




そして私は、サナが好きなんだ





けど、きっと私は
「チェヨンの友達」でしかない

ああ、これからどうしたらいいのか分かんないな…



…そういえばチェヨンも言ってた
「わかんない」って



そっか、こういうことなんだ

チェヨンも迷ってたんだ



不毛な相手に
どうしようもできない怖さに





私のこれとは、少し
違うのかもしれないけど







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