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□heal my mind
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行き先をマンションに変えてから
道なりに、しばらく歩くと

5、6階建てのビルや、細身の建物が立ち並ぶ閑散とした大通りに入る



さっきまで歩いていた街道と比べると
辺りをどれだけ見回しても
人の姿や気配は全くない

とても静かで、ひっそりとした場所



そんな貸切状態の道を、私と手を繋ぎながら歩くジヒョちゃんはというと

お泊りできるのがよほど嬉しかったのか

歩く時の腕の振り幅が
さっきよりも明らかに大きい


ゆるゆるに緩みきった笑顔で
鼻歌を歌いながら、歩みを進める






それにしても


ジヒョちゃんから「泊まりたい」
と言ってきたのは、意外だった


なにせ、いつも泊まる時は
私からジヒョちゃんに
声を掛けることしかなかったし

今日みたいにちょっとしたデートでも
どこかに旅行へ行く時だって

なにかしら言い出すのは、大体私からだ




積極的に、という
彼女なりの心境の変化なのかな

特に理由はないけれど
気になるからちょっと聞いてみる




『そういえば、ジヒョちゃんから泊まりたいって言ったの今回が初めてやんな」


「うん」



『何でまた急に?』



「そ、それは…サナと、二人きりで
もっと一緒にいたいからに決まってるでしょ」





あからさまに顔を真っ赤にして
ジヒョちゃんは目合わせようとしない





サナと、二人きりで、
もっと一緒にいたい、か…




付き合い始めたときは
何するのにも恥ずかしがって
甘えるのも下手だった
そんなジヒョちゃんだけど

最近は「一緒にいたい」とか
「もっと構って」とか


思ってる事をその時に
ちゃんと言ってくれるようになった



こうやって可愛く甘えられるたび
彼女に対する愛情が
どんどん湧いてくるのが分かる





サナも、と返事をしようとすると
ジヒョちゃんは、急にうなりだした






「んー…」





どうしたの?と顔を覗いてみると
なぜか顔を真っ赤に染めていた




まさか、さっきまでは
頑張って我慢してたけど

実は体調が悪いんじゃ!?


と勝手な解釈で、慌て始める私



そんな私を横目に、
ジヒョちゃんは立ち止まって
ほんのり潤んだ瞳で

あわあわと慌てる私の腕を掴み
じっ、と視線を合わせる



意を決した気持ちの表れなのか
掴んだ私の腕をぎゅっと握ると

小さな小さな声で、話し出した




「サ、サナ、あのね…」



『どうしたん?』




「サナと…、一緒に住みたい」




『…え?』




「も、もう!二度聞き禁止!」





あまりにも恥ずかしかったからか
それとも耳まで真っ赤になった顔を見られたくないのか

たぶん両方なんだろうけど


彼女はそのまま
ふいっ、と私から顔を背けた



さっきの言葉、はっきり聞こえてたけど

もう一度聞きたくて
思わず聞き直してしまった




後からちゃんと聞いたら、
どうやら最初から

「一緒に住みたい」

って言いたかったみたいだけど



勇気が出なかったり恥ずかしかったりで

「泊まりたい」

って言っちゃったんだとか



いつもなら、笑って
からかってあげるところだけど

今回はそうはいかない



さっきからすでにうるさかった
私の心臓の音が
さらにその鼓動の速度を上げて、
おさまらなくなって

もうそれどころじゃなかった





ふたりで、一緒に暮らす


私自身も、いつか
そうなる時が来ると良いなって
ぼんやりと思い描いていた


同じ屋根の下で、二人きりの生活
家に帰ると、ジヒョちゃんがいる

食事中も、お風呂も、寝る時にだって
すぐ隣にジヒョちゃんがいる




私たちにとって大切な一歩を
今から踏み出そうとしているのに


まだ始まってもない
彼女との生活を想像すると

どうしても、あんな事やこんな事が
しきりに脳裏に浮かぶ



ジヒョちゃんに玄関でいってらっしゃいと見送られる、そんな微笑ましい生活を想像するよりも先に

生まれたままの姿のジヒョちゃんが
ベッドの上で乱れる
官能的な場面を想像してしまう



だめだ、なんかもう
いつ、どの場面を想像しても

ジヒョちゃんが
可愛くて可愛くて仕方がない





「サ、サナ?」




そうやって思考停止した私に
なにか危機感を感じたのか

私を呼び戻すように
ジヒョちゃんは目の前に手を伸ばして
ひらひらと私の顔の前で振っている






『…しよっか!』


「え?」



『しよっか、ジヒョちゃん!二人暮らし!』





低速になった頭で
何とか返事をひねり出せた


危うく、「二人暮らし」
の5文字が抜ける所だったけど





「そ、そんな即答でいいの?」


『もちろん』



「でも、いろいろほら、サナの都合とか…」


『そんなんない!サナもいつかジヒョちゃんと一緒に暮らせたらって思ってた」



「ほんとに?いいの?」




『二度聞き、禁止なんやろ?』





不安そうに、でも期待の色をした瞳で
そう問いかけるジヒョちゃんの
赤く染まった頬に、そっと手を添えると


その瞬間、彼女は今日一番の
とびっきりの笑顔を見せてくれた




そしてその喜びを爆発させるように
ものすごい勢いで
胸に飛び込んできたジヒョちゃん

私は少し、よろめきながらも
しっかりと支えてあげる





「ありがとう、サナ」


『いやいや、こちらこそ!』



「でも良かった…、自分で聞いたくせに断られたらどうしよって思って」



『断る訳ないやん、言うたやんサナも一緒に暮らしたいって思ってたって』



「…うん!」





私の体に回した腕にぎゅっと力が入り
お互いの密着度が、より一層増す


それに比例するように
腕の中にいる彼女から伝わる温もりも
甘い匂いも増してきて

心臓の鼓動がまた加速し始めた





するとジヒョちゃんの腕から
ふっ、と力が抜ける

それと同時に、
ぱっと顔を上げて私を見上げた



イタズラを思いついた子どものように
楽しそうに、期待を持った表情で




「サナ、すごいドキドキしてる?心臓の音すごい」


『…どうやろなあ』



「ふーん」




少し体を離したかと思えば
にひひ、と笑って

今度は腰に腕を回して
私の懐にすっぽりと入ってくる



そんなジヒョちゃんが可愛くて可愛くて
思わず緩んだ顔を、両手で隠した





「あ、ねえ、サナ」


『んもー、今度はなに…』




てのひらで覆って隠していた顔を
ぱっと出して、そう言おうとした時

ジヒョちゃんはその両手を掴んで
私に向かって少し背伸びをした



唇に感じる柔らかい感触が
私の胸の奥を、じんわりと温める





「はい、今日のお礼」




ジヒョちゃんはゆっくりと顔を離すと
にっこり笑って、そう言った





突然の出来事に
目を見開いて、驚いたまま固まる私

そんな私を置いて
ぱたぱたと走って行くジヒョちゃん


少し先の、電柱の前で止まって
こちらにくるりと振り返る






「サナ!プリン買って帰ろ?」





ほらはやく、と私に伸ばす
彼女のつめたく冷えきった手を

いつのまでも
温めてあげられますようにと


私は、その手を強く握った









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リクエストで頂いていた
サナちゃんとジヒョちゃんの話です!


どれも寒い季節にしがちなので
そろそろ夏っぽい話を
書きたいと思うこの頃…

また、みなさん温かいコメント
ありがとうございます励みになります!



ではまた!


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