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□XYZ
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街の喧騒から少し離れて数分
入り組んだ道を何本か進んだところ

等間隔に並ぶ電柱の明かりの下

私は、人ひとり肩に担ぎながら
ぱたぱたと不規則に歩く千鳥足のその人の
歩みに合わせて細い道を歩いている



『ほら、ちゃんと歩いてくださいよ』



2軒目のお店へ意気揚々と向かった会社の人達とは、ついさっき別れたらしく

私はまた今回も盛大にお酒を飲んで
また今回もお酒に呑まれたこの人を
あと少しで着くはずの家まで連れて帰ろうとしていた


本当になんで毎回この人は
飲み会があるたびにこうも
飲み過ぎてしまうんだろう

ここまでくれば
自制もなにもあったもんじゃない

今に始まったことではないし
そんなこと、考えたところで
今更どうしようもないのだけれど


毎度飽きもせず繰り返されるこの状況に
どうにかならないものかと
心の隅の方でぽつり、小さく呟いて

力の抜けて人一倍扱いづらくなった
華奢なその体を支えながら
もう随分と通い慣れた家へと向かっている





『なんで毎回そんなになるまで飲むんですか』



意味もないことだとわかりながらも
ふわふわ眠気まなこな彼女に尋ねてみる

ゆっくりとこちらを見上げたかと思えば
澄んだ眼差しで心を覗き込むように
見つめる瞳と視線が重なると

不覚にも私は少したじろいた


例のごとく、この目に私は弱いのだ




「それはもちろん、目の前にお酒があるからよ」


『それでも加減というものがあるでしょう』


「だって美味しいから」


『…私いつも言ってますよね』



そう言って、もうずっと前から
ゆるゆると緩みつづけている頬を
きゅっと、指でつまんでみても

へらへらと笑う彼女は私にされるがままだ






「…ふふふ」



ぶつぶつと文句を垂れる私の言葉は
多分もう彼女の耳の右から左へ
通り抜けているのだろう

にんまり、頬を緩ませるその顔は
今のこの私の表情とは対照的で
なんの悪びれもなくて憎たらしいけど


でも憎めない程、よく笑う



ほんと、敵わないなこの人には

また今日も飽きもせず
私はそんなことを思う



肩からずり落ちる2人分の鞄を
ぐっと、また掛け直した





「あんたがいるからいいじゃない」



そう微笑む彼女の頬には
ずいぶんと満足そうに笑いの皺が刻まれていて

信頼しきった様子で私に体を預けて
懐いた猫のように肌を寄せ、擦り寄る




私がいてよかったですね

と、今日もそう心の中で思った



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