CP

□depend
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皆が寝静まった静かな夜
窓から差し込む月の光をかき消すように
ベッドサイドのライトが輝く深夜1時

部屋に響く乾いたノックの音の後
ゆっくりと申し訳なさそうに開かれた扉


その扉の傍から小さく細々とした声で
私を呼んで、じっと見つめているのは
さっきまで寝ていたであろう
無防備な、華奢な体の女の子




「モモ」


『ミナ?どうしたん?』



「…」


『こっちおいで』




ぽつんとドアの前に立つミナに
手招きをしてこちらへ呼べば

それに応えるように真っ直ぐに
その細い両腕を伸ばして
ぱたぱたと歩み寄ってくるから


徐々に落ちてくる瞼が閉じないように
私も必死に目をこすって

まだ読みかけ小説をそのままに

最大限、自分の腕を伸ばし
彼女を腕の中へと迎え入れる


お互いに絡まった腕を引いて
ぐっと、その距離を縮めた




「どうしたん?怖い夢でも見た?」




ベッドの淵に腰掛けながら
私の前に立つ彼女の
しなやかな細い腰に両腕を回し

見上げるようにそう問えば

こくこくと、目に涙を溜めながら
小さな子供のように頷くから
その姿に私の心臓は、きりりと痛む





『…どんな夢やったん?』

 



気丈な彼女が涙を浮かべるほど
怖かったという夢の内容を
わざわざ言葉にさせるなんて
心底、気が引けるけれど

たぶんこうしないとミナは
しばらくその夢に
囚われることになるだろうから

そんなことは極力避けたい、と
私はあえてその内容を尋ねてみる





「いなく、なっちゃった」




ミナはまだ夢うつつで
現実との区別がついていないのか

それとも恐怖から逃れようと頭が本能的に拒んでいるのか

随分とカタコトで、それもまるで
何かに怯える子供のような口ぶり



だれが?と、下から顔を覗き込めば
みるみるうちに眉間に皺がよって

涙を目いっぱい溜めたそのつぶらな瞳から
ぽろぽろと小さな雫がこぼれ落ちた





「モモが、いなくて」



「いっぱい、いっぱい呼んで
いっぱい、いっぱい探したのに」



『うん』




「どこにも、モモが、おらんくて」




『悲しかったん?』



「う、んっ、」



『だから泣いてるん?』



「ちがっ、」




止まらない涙を両手で
ごしごしと必死に拭うミナは

私のそんな質問には、
しきりに首を横に振った





『…じゃあなんで?』


「モモが、おらん、」




『…ん?夢の中でモモがおらんかったから泣いてたんやろ?」





いまいちミナの言っていることがわからない私

その質問にはやはり頑なに首を横に振って
すん、と鼻をすすりながら
ミナは私の首にぎゅっと両腕を回す

ふわりと香る彼女の香水のかおりは
少し高くなった私達の体温に反応して
より一層、その甘さを増した





「怖い夢で、目が覚めて、こわくて」


『うん』




「手伸ばしたのに、モモがおらんくて」


「夢の中でも、夢から覚めても、モモが、おらんかって、」






ぽろぽろ、ぽろぽろ

その澄んだ目から溢れるそれは
私への依存の投影だろう

私がこうやって抱きしめなければ
凍えてしまう、と泣くように

私が言葉をかけなければ
涙を止める術も分からないと言うように

私が隣にいなければ
生きていけないの、と苦しむように






ああ、どうしたらこんな人を
手放せるというんだろう


ミナに出会ったことは
運命でも必然でも何でもなく
そう、ただの偶然でしかなくて

その相手だって本当は私じゃなくても
誰にでもそんな可能性があったんだと

その事にミナは気付いてないんだ




刷り込みのように、洗脳されたように

不安に口を閉ざすとき
悲しみに飲み込まれそうなとき

あたかもはじめから
"私はあなたを必要としていたんだ"と
そういわんばかりに



モモがいないとだめなの


何度も何度も、ミナは私に言う







『ミナ、大丈夫』


「うん、っ、」



『ここにおるやろ?』


「うん…」



『ほら、ちゃんと確認して』





そういってミナの両手首を取り
そのまま自分の頬まで導くと

ミナは震える冷たい掌で
私の顔を両手で優しく包みこむ




「…あったかい」




少しずつ正気に戻っていく愛しい人

目の前にある顔も徐々に血の気も戻り
震えていた掌も温もりを取り戻していく

さっきまで頬に当てられた手が離れれば
今度は自分の頬が冷気に晒されて
少しだけ、冷たく感じるけれど





「ぎゅってして」




『しゃーないなあ』





なんて、何でもないように振舞ってみて
折れてしまうんじゃないかというぐらい
その体を、きつくきつく抱きしめると





「…モモ、苦しい」



さっきまでの崩れた泣き顔が
まるで夢だったかのように

目元に、くしゃっとしシワをよせて
けらけらと無邪気に笑う






「モモ」


『んー?』




「ごめんな」

「またモモの優しさに甘えちゃった」





そんなことを言われると

私がいないとダメだね、なんて
少しだけからかってやろうと思っていた
イタズラ心はどこかへ消し飛んで


ああ、私も、この先ずっと
この子に振り回されるんだろうな

なんて、少しだけため息が出て


でもそれはたぶん、幸せなため息で






『ミナ』

「なに?」



『…好き』

「うん」



『好きやで』

「うん、知ってる」



『どこにも行かんとってな』

「行かへんよ?」



『ずっとそばにおって』

「当たり前やん、モモこそどこにも行かんでよ?」




そういってベッドに座る私に跨り
そっとキスを落とす彼女は
私を見下げ、妖艶に微笑んだ


酷くやさしくて、穏やかで、そして
何処に行くあてもないキスだった




気が付けば、ミナがいないと
もう呼吸の仕方さえ分からない

ミナがいないと生きていけないのは
多分、私の方で





そんなことに私はもう

ずっと前から、気付いてる










ーーーーーーーーーーーーー




有難うございました!短いですが!

mimo書くとどうしても暗くなる癖をやめたい、ね、ほんと

先日コメントで、close my eyes をwishing聴きながら読みましたって方がいらっしゃって、そうやって皆さん読んでくれてるんだなあと思うとすごく嬉しくなりました有難うございます、、


ではまた!

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