こっそり政宗様BDCD2019

□30 思う事は同じ
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「小十郎ーっ!」

賑やかな足音にそれと分かってはいたが、大声で呼ばれてやれやれと振り向く。

「成実、廊下を走るんじゃない」

「まぁそう言うなって!」

悪びれも無く、この暑い中にこにこと笑顔を振りまく幼馴染は、本当にこの季節が似合うといつも思う。
……言葉には出してやらないが。

「ところでさ」

「どうした」

少し声を落として真剣な表情になる成実に、こちらも何かあったかと身構える。

「今年はどうするか考えたか?」

「…………なんの話だ」

「政宗の誕生日だよ!流石に去年みたいに姫と二人きりで、とかしてやれないだろ?俺はやっぱりそれが一番だと思うから他に浮かばなくてさぁ!」

「…………まぁ、そうだな」

「だろー?何してやるかなぁ……宴はもちろんだけどさ、他になんかこう、なんか想い出になるような事をさぁ」

一人でああでもないこうでもないと頭を抱えている様に、思わず苦笑する。

「あ、なんだよ、小十郎だって悩むだろ?」

「まぁな。だがあとひと月ある。また案を出しておくから、お前は少し落ち着きなさい」

「あとひと月だから焦ってるんだろー?まぁ、小十郎がそう言うなら、大船に乗ったつもりで待ってるけどさ!」

にかっと笑って「じゃっ!」と何処かへ掛けていく後ろ姿に、またも苦笑が漏れる。
自由に見えて人の事ばかり気にかける幼馴染。

(全く……その前にお前の誕生日だろうに)







「………と、多分小十郎は思っているだろうな」

「それは、政宗様もですよね」

政宗様の執務室。
休憩中、風通しを良くするために開け放っていた襖から聞こえてきた会話に、二人でくすくすと笑ってしまう。

「本当に、仲がよろしいですね」

「……そう見えるか?」

「はいっ。御三方ともそれぞれに大切に想われていらっしゃるのが、見ているだけでいつもとても伝わって来ます」

それは、主従や血縁を越えた特別な何かで。

「………そうか」

そっと嬉しそうに微笑まれる横顔に、心が温かくなる。

(今年は御三方で過ごされる時間を、ご用意できないかな……)

去年のお誕生日はもちろん、小姓として私が来てから、三人で過ごされる時間を随分と邪魔してきてしまった自覚はある。

(いつも自然と中に入れて頂けているのは、とても幸せだけど……私からのお祝いは別にこっそりするとして……)

ほんの少しだけ寂しさを感じながら、皆様の予定を合わせられないかと考えていると

「……俺は、幸せだな」

「え……?」

穏やかな笑顔のまま、ぽつりと零された声。

「あの二人と……今は、お前が居てくれて」

そう仰っしゃりながら、ひどく優しい眼差しを向けられた。

(……全部、お見通しみたい………)

そんな事はないのだろうけど、いつも一瞬で幸せを満たして下さる政宗様に、きっと私は一生敵うことはない。

(でも、だからこそ……)

政宗様はもちろん、小十郎様や成実様、そして私も幸せだと思えるお誕生日にしたい、と、改めてひと月後の為に、思いを巡らせるのだった。

  
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