祝辞綴り

□カエシウタ
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「……満開だ……」

目の前に広がる桜の美しさに、知らず音が零れた

風に運ばれた花びらにどうしてもじっとして居られなくて、想うまま歩みを進めた先は……いつかのあの景色に、とてもよく似ていると思う

(……持ってきちゃった)

私にとって初めての、恋歌

ずっと機会はあったはずなのに、私は返歌が出来なくて
頂いたこの季節になるとそのことが気になって、今もここへ来る前に手に取っていた

何度も読み返したせいで随分とくたびれてしまったそれを、そっと開いてなぞる
それだけで、想い出が全て溢れ出すようで


「……我が、命の……」


『我が命の全けむかぎり忘れめや
いや日に異には念ひ益すとも』


(……重たい、かな)

やはり自分には向いていないのだと思う
それでも、初めて詠んだこの返歌は、きっとずっとこの心に忘れない
それこそ、命が尽きるまで




「……大好きです、―――」


だから



貴方の笑顔がどうか絶えることのないように

   

   
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