祝辞綴り

□瞳色のとんぼ玉
1ページ/1ページ

   
「あにうえっ!あにうえっ!!」
「どうしたんだい、弁丸」
「これっ!これをあにうえに!!」

小さな手のひらには、きらきらと輝く水色のとんぼ玉。

「おたんじょうびおめでとうございますっ!!」

とんぼ玉と同じくらい、きらきらと瞳を輝かせて満面の笑みを浮かべる弟。

「……ありがとう、大切にするよ」
「はいっ!!!」

このとんぼ玉も、君の笑顔も。
僕がしっかり、守るから――






「……………ん?」

蝉の鳴き声に意識が浮上した。
どうやらうたた寝をしていたらしい。

(随分と懐かしい夢を見た………)

遠い遠い、幼い記憶。
兄として、真田家の長子として、己の全てで“家族”を守ると誓ったあの頃。
辛く苦しい事の方が多かったはずなのに。

(思い出すのは、いつもあの笑顔だ……)

どこまでも真っ直ぐ、どこまでも澄んだ笑顔。
それが曇ることの無いように。
その想いがいつだって、自分を支えて強くした。

「兄上、いらっしゃいますか」
「ああいるよ、入っておいで」
「失礼します」

夢に見た姿とは比べようも無く逞しくなった弟。
毎日欠かさず行う鍛錬といくつもの戦場を駆けて出来た傷。
矢面に立ち真田を守る役を担った彼の目は、それでも今も、ただひたすらに澄んでいる。

「兄上、お誕生日おめでとうございます」

優しい笑顔と共に差し出された贈り物。

「……幸村、これは?」
「とんぼ玉で作った御守だそうです。城下で見つけ、兄上に似合いの色だと思って」

照れた様に笑うその笑顔は、あの頃と変わらず輝いている。

「そうか……ありがとう幸村。大切にするよ」
「はいっ!あ、でも祝の宴ではまた別の贈り物もご用意してます!」
「それも楽しみだね」
「はいっ!!」

戦乱の世。
不変など願う事すら叶わない筈なのに。

(全く……幸村には適わないな)

強く優しく真っ直ぐなこの自慢の弟が、どうかこれからも変わることのないように。
二つのとんぼ玉を掌に。
幾度となく誓った想いと、そっと強く閉じ込めた。
   

ーーーーーーーーーーーー

とんぼ玉、1つ目は幸村様の瞳の色
2つ目は信幸様の瞳の色です

   
次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ