短編集

□春を待つ日
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(あれ……甘い香り………)

風に乗ってふわりと届いたそれに辺りを見渡せば、庭の一角に沈丁花が咲いていた。
取り込んでいた洗濯物をそっと置いて、間近に見に行く。

「最近暖かい日も続いたもんね……もうすぐ春だなぁ………」

白く可愛らしい花にそっと触れて、上を見上げる。
まだ、蕾の膨らみも分からない枝だけの桜。

(……見えないだけで、ちゃんとここにあるんだよね)

桜から染め物を作る際、花ではなく枝や幹からその美しい色を取り出すのだと、昔近所の反物屋に聞いたことがある。

目に見えるものだけが真の姿ではないのだと。



"今年も一緒に、桜を見よう……"



そう言い残して、戦に向かった背中。
何の報せもなくすぎていく日々に、その声だけが希望となって、日に何度も心が想い出す。


「……………まだ、もう少し……待っていてね………一咲き目から、二人で見たいの………」


優しい温もりに生きる全てが目覚める頃。
想い出も、木漏れ日のように重なり合う日を夢に見てー

   
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