短編集
□想いを伝えて
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「このおさけおいしいれすね、まさむねさま」
「……大丈夫か?随分飲んでいるが……」
久しぶりに二人ゆっくりと過ごす時間。
成実が持ってきた酒を月を見ながら嗜んでいたつもりが、普段飲み慣れない姫は甘い飲み口に配分を間違えたらしい。
先程からにこにこと楽しげに話しているものの、完全に呂律が回っていない。
「……水を飲まないか?」
「んー……もうすこし、これのみたいれす……」
「……飲んでもいいから、お前はとりあえずこっちだ」
「んぅー………おみず……」
不満げに眉根と口を寄せながらこくりと飲めば、ほっとしたらしく穏やかな顔になる。
「落ち着いたか?」
「ん……ありあとうごらいます」
にっこりと染まった顔で笑う顔は愛らしいが、やはり飲ませすぎたと自省する。
「そろそろ休もう。明日が辛くなる」
そう言って立ち上がろうとして
「ん……?」
くい、と背を引っ張られた。
「……どうした?」
振り向いても、下を向いたままの姫の顔が見えない。
「姫……?」
離れない手を痛めたくなくて、そっと伺う事しかできない。
数拍、そのままの状態が続き、どうしたものかと悩んでいると
「……って、いってほし………」
「ん……?今なんて………」
「すきって、いって………?」
やっと合わされた潤んだ瞳に、蕩けた声に、どくりと身体が火照らされる。
それと同時に、はっとした。
(最近、伝えていなかっただろうか……)
愛おしさは日毎に増すばかりであるのに、夫婦となって日が経ち、傍にいることが当たり前になってしまっていた。
「姫……」
身体ごと向き合い、そっと染まる柔らかな頬に触れる。
先程よりも間近に見つめ合う瞳は、それでも強く訴えていて。
「好きだ……」
想いが、全て伝わるように。
気恥ずかしく思いながらも、心からそう告げた。
途端、蕩けるように微笑んで
「わたしも、まさむねさまがだいすきれす……」
言いながら、ぎゅう、と腕を回して抱きついて来た。
「……ほんとは、いっつも、いいたかったんれす……」
「……そう、なのか?」
「ん………れも、まさむねさま、いってくらさらないから………」
(……そうか……)
いつだって大切だと伝えてくれているが、色恋に控えめな彼女から直接的な言葉はそれこそ聞いていなかった。
(俺に応える形でしか、言えなかったのか……)
夫婦となって傍にいて、同じ時を重ねてきたのに、まだまだ気づけぬ部分があるなんて。
これからはまたしっかりと、この想いを告げていこうと心に誓いながらも、まずは、今――
「姫」
「ん………?」
再び視線を合わせて、きょとんとするその愛おしい顔を包み込む。
「あの頃から変わらず……いや、あの頃よりも、お前と共に時を重ねた分だけ、俺はお前を、愛してる……」