奥州ホールディングス資料室

□社長と恋する十二月
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「アラ?今日は随分とご機嫌ネ?」


ここは社内の一室。
今日のクリスマスパーティーは近場で行われるので、社内で変身してから政宗様と一緒に会場に向かう事になっていた。


「そ……そんなことないよ?」


おかしいくらいに声が上擦った。


「ン〜?お相手が政宗様だかラ、ってだけジャなさそうダケド?」

「政宗様と上手く行ったノカ?」


二人が鋭いだけなのか、私が分かりやすすぎるのか、とりあえず真っ赤になった顔を覆った。


「本当ニ〜?おめでとう姫!あの政宗様ヲ落とすなんてすごいジャナイ!」

「ヤッタナ、玉の輿ダ!」


「そんなんじゃないよ!からかわないでっ………」


沈めた顔を上げることができない。

昨日の今日で、政宗様に会うことだって恥ずかしいのに、こんな風にからかわれたのでは心臓が保たない……。




昨日はあのあと、私の気持ちが落ち着くまで、政宗様は優しく抱きしめて下さった。
腕の中は暖かくて、そっと頭を寄せた胸からは私と同じくらい早い鼓動が聞こえてきて、それにとても落ち着いた。


「大丈夫か……?」

「はい……すみません、ありがとうございます……」


見上げれば、優しい笑顔で。


「………離れ難いが、ケーキを食べなければな」


くすりと、笑われてまた鼓動が跳ねる。


(も……反則………)


二人でゆっくりケーキを食べて、終電は終わってしまったので政宗様に車で送っていただいた。


「明日、楽しみにしている」


離れ際にそう呟かれて、今この準備に緊張している事は言うまでもない。



「じゃアとびっきり可愛く変身しなキャ」

「コノ間も政宗様の為ニ頑張ったケドナ」

「………え?どういうこと?」

「ちょっとルイス!!」

「モウくっついたんだしイイんじゃナイカ?」


前回のパーティーでは、急に成実様がお相手を変更されたから政宗様のパートナーになったはずじゃ………


「ルイちゃん?」

「ンー、成実様から、元々頼まれたンダ」

「はぁ……ソーなのよ、ドレス決めた後にお電話頂イテ、政宗様と組ませるカラドレスの色を緑に変えてほしいっテ」

「そうだったの……!?」


成実様が何を思ってそうされたのかは分からないけど、少なくとも私の気持ちに気づかれていたんだろうと思う。


(私ってそんなに分かりやすい……!?)


社長秘書としてお側にいる手前、これでも必死に隠してきたつもりだった。
現に政宗様には昨日やっと思いが伝わったのだ。


(ああでも………小十郎様にはバレてたんだっけ………)


自分の不甲斐なさにクラクラする。


「政宗様の視線が痛クテ耐えられないッテ、成実様言ってタゾ」

「へっ………?」

「アラ姫本当に全然気づいテ無かったノネ?」

「政宗様、成実様にヤキモチやいてたんダッテサ」


かぁっと頬が熱くなる。



(そんな素振り………全然…………)



無かった、とはちょっと言い切れないかもしれないと、あの時のことを思い出した。


(確かにあの頃ご機嫌が悪くて……大変だった気が………)


そう思ったら、なんだか政宗様が可愛くて、早く会いたくなってしまう。
こんなところであの時の答え合わせが出来るだなんて思わなかった。


「マ、そういうコトだかラ、あなた達がくっついテ嬉しい人は周りにちゃんとイルってコト」

「ザビちゃん………」


心がじんわり暖かくなる。

気持ちが通じて嬉しい反面、政宗様のお相手が私なんかじゃ釣り合わないのではと不安は確かにあるのだ。

きっとこのまま上手くいくなんてことはない。

だけどこうして応援してくれる人がいてくれるのなら、少しだけ強くなれる気がした。


「ありがとう………」

「ホラ泣かない!お化粧トレちゃうワっ!」

「ん、ごめんなさい…」


不安な気持ちにとりあえず蓋をして、私はまた一夜限りのお姫様に変身させてもらった。





コンコン

最終チェックも終わったところで、扉がノックされた。


「苗字、準備は出来たか?」


控えめに開かれた扉からは小十郎様の声が聞こえた。


「あ、はい!お待たせして申し訳ありません!」


側に寄ろうとすれば、止められた。


「待て、コートは着ているか?頼むから政宗様が見る前にその姿を俺に見せるな」

「………はい?」

「いいから、とりあえずコートを着て来てくれ。政宗様も車でお待ちだ」

「はい………畏まりました」


言われた通りコートを着て、ザビちゃんルイちゃんと前回もお世話になったスタイリストさんにお礼を言う。


「ありがとうございました、行ってきます!」


「楽しんデきてネ!!」



小十郎様に連れられて、人の少ない裏口からエントランスロビーに向かう。
小十郎様もパーティーに出席される為、すでにドレスアップされて通常の三割増で格好良かった。


「本当は政宗様が迎えに行きたがったんだが、色々あって俺になったんだ、すまないな」

「えっ!?いえあの…大丈夫です……」


(この方は何処までご存知なんだろう……)


今日一日、私達はなるべくいつもどおり過ごしたつもりだったし、もちろん私は何も言っていない。


「…昨日の夕食は随分と豪華だったらしいな?」


ニヤリ、と意味有り気な笑顔でそう言われ、私はきっと全てご存知なのだと悟ってしまった。


「あの…小十郎様………」

「政宗様の幸せは俺や成実の幸せでもある。………頼んだぞ苗字」


慈しみ深い笑顔でそう言われて、政宗様の為とはいえ心強い味方がここにもいるのだと安堵する。

「……はい」

「ん?政宗様の為だけじゃないぞ?俺も成実も、苗字の事を買っているから応援するんだ」

「へっ!?あのっ………あ、ありがとうございます………」


くすくすと笑って前を歩かれる。
ここまで来ると私が分かりやすいのではなくて小十郎様はきっと人の心が読めるのだと本気で思った。


「政宗様、お待たせしました」


エントランスに着くと、政宗様は寒い中コートも羽織らずに凛と立っていらっしゃった。

毎日写真で見ているにも関わらず、やっぱりドレスアップした姿はどこかの王族なんじゃないかって程格好いい。


「お待たせして申し訳ありません!」


ペコリと頭を下げれば、「気にするな」と優しい声が頭上に降った。

頭を上げればすでに小十郎様はいらっしゃらない。


「上着を」


そう政宗様に促されて、着ていたコートを脱がせて頂く。
その動作もスマートで、本当に女性が苦手だったのかと疑いたくなってしまう。


「………この間色を聞いたのは、この為か?」


瑠璃色のドレスを見て、やっと気づいてくださったらしい政宗様についくすくすと笑ってしまう。


「はい、出来るだけお好みに合わせたくて」


そう言えば少しだけ顔を赤らめて


「……今日も綺麗だ」


と私にだけ聞こえる声で囁かれた。


「行こう。姫、今日も頼む」

「っはい!」




不安も問題も山積みだけれど


始まったばかりのこの恋は、きっとたくさんの暖かさに包まれてる


その温もりと貴方を信じて、私は一歩、煌めく舞台に足を進めたーー
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