さうす小説
□クレイグとアイス
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「なあ、この部屋暑っつい。」
窓の外では冷気が漂い、草木の表面にうっすら霜が張り付いている。
それなのにガラスに映るのは、こんな気温に不釣り合いな、半袖姿の2人だった。
買ったばかりの厚手のパーカーも、せっかく着てきたのに今やソファの端でしわくちゃだ。
というか話しかけたつもりの相手から応答が来ない。
顔を向けると、コントローラーを握ったクレイグの意識は、画面にしか向いていないようだった。
「おい〜〜聞いてんのかよ〜〜〜。」
「お前負けるぞ。」
「あっ!なんでそんな攻撃力上がってんだよ!」
「リークがよそ見してる内にアイテム奪った。」
「はあ!?ざけんな返せ!」
俺のキャラはあっけなく倒れ、"K.O."の文字が虚しく残った。
対して、反対側に立っている屈強そうなキャラクターが、勝利の文字を掲げガッツポーズをしているのが、無性に腹立つ。
「あーーくそーーー!」
「楽勝。ケンタ奢りな。」
「待った、もう1回!」
「何回負けてんだよ。
俺1週間もチキンいらね。」
「もう1回だけ!な!」
「仕方ねーな。じゃ次タコス。」
ゲームでついつい本気になるのは男子の性ってやつで。
負ければ負ける程、勝ちたくなるものだ。
まあ今回に関しては、明らかに無謀でやけくそじみた挑戦だが。
面倒くさそうに再びコントローラーを手に取るクレイグは、何かを思い出したのか「あっ」と言ってソファから立ち上がった。
「え、何?クレイグー?」
そのままキッチンへ行ってしまった。
まさか飲み物取りに行ってくれてる?さっき貰ったコーラまだ飲み終わって無いんだけどな。
その予想が外れたって分かるのも数秒後。
クレイグはこちらに戻ってくると、右手側のそれを俺に向けた。
「ん、アイス。」
「わっナイスじゃん!マジで部屋暑くてさ〜。」
「これ食う為に暑くしといたんだよ。
この方がうまいじゃん。」
そういえばコタツでアイス食うのが良いとか、アジア系のヤツが言ってた気がする。
そんな感じなんだろうか。
受け取ったアイスが、手元の空気を冷やしていく。
1口齧ればいつもより一層バニラの香りが広がってくる....ような気がする。
「おし、リーク、始めようぜ。」
「絶対勝つからな。タコスは俺のだからな!」
「アイス食いながらタコスとか言うな。」
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.....強すぎ。こいつこのゲームやりこんでるな。
チート紛いな攻撃に追いつけない俺のキャラクター。
悔しくて、睨むように隣を見やる。
クレイグは片手でコントローラーを持ちながら、時折溶けて柔らかくなったアイスを舌ですくっている。
アイス舐める派かあ....。
「ぁっ」
流れ出たバニラはクレイグの手首を伝っていった。
追いつくようにクレイグの舌がそれを丁寧に舐めあげる。
終着点で唇が軽く吸い付き、最後の1滴すら残さなかった。
その時聞こえた微かなリップ音にさえ反応し、どぎまぎしてしまう。
アイスの表面をなぞる赤い舌が、唾液と溶けた物が混ざり合い白濁に染まっている。
やがて口の奥に流れていき、喉を上下させ飲み込む様子はなんだか扇情的だった。
そもそも、この色がアレを連想させるような色のせいで、まるで
まるで.....。
「おい、盛ってんじゃねえよ。」
「へっ?
...................ちち、ちげーーわ!!!!!」
「あそ。あ、ソファには垂らすなよ。」
「わっ!!やば超溶けてる!!」
見ると俺のアイスは中心の棒だけを頼りに、ぶら下がっている状態だった。
それを棒ごと舐めとると、さっきの光景がフラッシュバックしてしまい、思わず片手で顔を隠した。
....てか、盛ってるって何だよ。
こいつ、もしかして分かってやってたんじゃ...。
「俺、クレイグのそーゆーとこ嫌い。」
「は?なんもやってねーじゃん。」
「そーゆーとこだよ。」
「意味不。
あとお前負けるぞ。」
「ああああぁぁぁああああ!!!!」