さうす小説

□スタンとキス練
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放課後、スタンは暗い面持ちで僕の家に来た。

そして部屋に入るなり、ベッドに倒れ込んで顔を伏せたまま

「.................ウェンディと...別れた。」

なんて、クッションを口に噛ませながらボソボソと言った。



なんだか今日はいつも以上に滅入っているみたいで、鉛に押し潰されているかのようにベッドに沈みこんでいる。

正直『またかよその話...』とは思ったけど、仕方なく頭の横に座って、励ましのつもりで背中を軽く叩いた。



「で...えっと、何で?」

「....方向性の違い。」

「解散間近のバンドか。」


その返答に至った真相をタラタラと長ったらしく話されたが、要約するとこうだ。

スタンは、ただ自分のことを好きでいてくれるだけでいいんだけど、ウェンディはそれじゃ物足りない。もっとロマンチックな恋愛がしたい、らしい。

だから、恋人らしい行為を迫るたび、すぐ吐き気を催すようなプッシーは呆れられてポイされたって訳だ。



「なあ俺どうしたらいいと思う?」

「やっぱキスくらい出来ないと。」

「そんなのいきなり出来るかよ!」

「じゃあ諦めて。」

「適っ当に言うな!この薄情者!」



何故か僕の方が怒られる始末。
言っておくが、スタンがやってるのは恋愛相談に見せかけたただの八つ当たりだ。

その後も色々言い合ってたけど半分腹が立ってて覚えてない。だが、とんでもない発言をされたのはしっかりと記憶に残っている。



「そんなに言うなら、お前で練習させろよ!」

「はあ?何を。」

「だから、リークでキスの練習させろって。」

「ぁっ......え!?頭おかしんじゃねぇの!?」



なんだかどえらい事になってきてしまった。
スタンは僕の否応なしにジリジリとにじり寄ってくる。



「冗談じゃない...!僕にゲロまみれになれって言うのかよ!」


もう何も発さなくなった目の前の奴はきっと本気だ。
硬直している内に腕を掴まれ、逃げ場なんてとうに無い。


「待って、なぁって....!わ、待っ、あっ!
...んんっ!」






ああもう。

ほんとに頭おかしいって。


僕は、現実に目を背けるかのようにぐっと目を閉じた。
スタンの勢いに負けた体は、重力に従って後ろへ倒れていく。


それにしてもキスってこんなに長いのか?
こんなに何度も繰り返して口付けるものなのか?
もっと一瞬だと思ってた...。

思考が追いつかず頭ははてなだらけ。

酸欠で息をすおうと開いた唇を無理やり割って、なにか熱いものが口内へ滑り込んで来た。


「ん...う..んん!ん....っ......!」


歯の裏をぬるりと撫でられる。


その瞬間、ふと我に返って、僕は自分の目をこじ開けた。



「ちょ、ちょっとタンマ!!!!何してんだよ!!?」

渾身の力でスタンを引き剥がし、息を荒らげる。
これはやばい。なにかがやばい。


「なんで舌なんか入れてんの!!?」

「え?キスってこんなんだって。シェフが。」


なんて子供に悪影響な遺言を残しているんだ。
危うく、踏み込んではいけないところへ行ってしまいそうになったじゃないか。



若干冷や汗をかきながらスタンを改めて見直してみると、あちらも口元を両手で押さえて、冷や汗を流していた。


「なぁ、俺キス出来...だ...ぁ...うっ」

「嘘だろ我慢しろってここ僕のベッドだからトイレまで...」

「ok分がっ...っ!おえぇぇえぇっ」

「Dude..!勘弁して。」


後味が悪いにも程がある。
まあ、こっちのが僕ららしいのかも。


とか脳内で自己完結をして、僕の中で未だ冷めない熱に気づかないフリをした。
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