スラダン(短め)

□洋平✖夜逃げ同級生
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「それで?本当は?」
『ううん…どうでもいい理由…』
「そうか…」

本当にどうでもいい理由だった
水戸くんにここまで連れてきてもらっておいて言えるような理由じゃなかった

『ねぇ、あのバイクって本当に盗んだの?』
「まさか」
『え?じゃあ、あれは水戸くんのバイク?』
「いーや?」
『じゃあやっぱり…』
「バイト先の店長のバイクだよ。貸してもらったんだ」

ホッとしたような…つまらないような…
そんなにおかしな表情だったのか水戸くんがわたしの顔を覗き込んで吹き出した

「ガッカリしたか?」
『………ちょっと』
「正直だなぁ」

ケラケラと笑う水戸くんはやっぱり大人だ
同い年なのに人生の経験の豊富さが滲み出ているように思うのはわたしの気のせいじゃないはず

『水戸くんがバイクを走らせた瞬間、違う世界にきたような気がして…"今はわたしが主役だー"って思えた!』

馬鹿みたいに興奮して話せば、水戸くんは首を傾げた

「自分が主役なのは当たり前だろ?」
『え?』
「自分の人生なんだから自分が主役なのは当たり前さ」

平然と言いのける水戸くん
…そうだろうか。
わたしの人生はわたしが主役なのだろうか。

『わたしは…主役じゃないよ…』
「なんでバイク乗った時に主役だと思ったんだ?」
『それは…非現実的だったからかな…』
「非現実的?」
『うん…非日常的ともいう』
「ふーん」

聞いてきたくせに砂遊びに戻る
わたしもそれをジーッと見つめる

「こんなことで非日常になるならいつでも付き合ってやるぜ」
『それだと、いつかはそれがに日常になっちゃうよ』
「そうだな…ちぇっ」
『?』

何故か拗ねる水戸くん

「俺も結構、楽しかったからよ」
『え…水戸くんが?』
「なんだ?おかしいか?」
『いや…そうじゃなくて…水戸くんは好きなように遊んでる気がするから』
「まぁ、好きなようにやってるけど…いつもの奴らじゃなくて苗字さんといるからかな」
『…?』
「苗字さんといるから楽しいって言ってんの」

ニシシと笑う
水戸くんはやっぱり高校生だ

『実はさ…』
「んー?」
『引っ越し…するんだよね…』
「……………なんで?」

砂をかき集める手が止まる

『離婚…するんだって…』
「………………」
『お母さんの実家に行くから…ここからは遠くてド田舎…』
「………そうか」
『嫌だなぁー』
「嫌だな」
『うん。嫌。』
「俺も嫌だわ…」
『うん…ありがとう…』

水戸くんの優しさに鼻の奥がツーンと痛む
しばらく2人でそのまま海を眺めた





「よし!」

どのくらい経っただろうか
完全にもう朝になっていて…
水戸くんは突然、立ち上がる

「逃避行しようぜ」
『と…とうひこう…?』
「そ!」

何の冗談だ?と思っていたら手を差し出された

「ていうか実はもう逃避行だったり」
『どういうこと?』
「帰り道わかんねぇ!」
『は!?』

口を大きく開けて笑う
水戸くんって…こんな人だったの?

「つか早く、手!」
『え…』

ん。と手をよりわたしに近づけさせるので、手を取る
グイッと引っ張られて立たされる
そのまま手が繋がられる

「なんかさ…」
『うん』
「苗字さんと初めて話したとは思えねーな」
『…わたしも』

しばらく無言で手は繋がられたまま、バイクを停めてある方へ向かう
バイクのもとにたどり着けばヘルメットを渡されるわけではなく乱暴にズボッと被せられる
髪がぐちゃぐちゃになるからやめてほしい…けど、今日で最後なんだからいいかと納得させて2人で跨る

「なぁ、苗字さん」
『なに?』
「今日だけ俺を苗字さんの彼氏にしてくんない?」
『え?何で?』

怪訝そうに聞けばブルンッとエンジンがつく

「だってさ、今日のこと5年後には忘れてそうじゃん」
『…忘れないよ』
「なんだよ、今日だけなのに俺のこと彼氏にすんの嫌かよ」
『いや、そうじゃないけど…』
「じゃあいいよな?」
『え…うーん…』

濁せば、水戸くんはわたしの下の名前を聞いてきた
""名前""だと答えればニカッと笑ってみせる

「名前!行くぜ!」

そう叫び、バイクを走らせる

『どこに向かうの!!!』
「てきとー!!!」

行きとは違い、今は不安なんて全くなくって、水戸くんの大きな背中を信じてみようと思った






全くすれ違う車もなく、真っ直ぐ走っていると…
前から見るとあんまりわからなかったけど、対向車線にいるトラックがふらついているように思える

水戸くんは気づいてるかな…

トラックが近づくと不安が募る
けど、きっと大丈夫だ。考えすぎだ。

なんて思ったのが間違いだった


ドカン!!!!!!
















































≪水戸くんお元気ですか?
身体の方は如何ですか?
ずっと手紙を出せなくてごめんなさい。
何度も書いたんだけど、何を書いても満足しなくて…

あの日のことを何度も思い出しては何度も後悔しています。
水戸くんを巻き込んだこと、本当に申し訳なく思っています。
本当にごめんなさい。
お金を貯めて会いに行く準備をしています。
その時にちゃんと謝罪させてください。
本当に申し訳ありませんでした。

次のページには、あの日のわたしの思いを書きます。
わたしを許せないと思っているなら読まないでください。≫


ペラッ…


≪水戸くん。もし読んでくれるのならありがとう。
あの時、水戸くんが声を掛けてくれた時、わたしは本当にうれしかった。
水戸くんの後ろに跨った時、永遠にこの時間が続けばいいと思った。
それは水戸くんじゃなくてもよかったのかもしれない。

でもね、水戸くんがあの日に言った""自分の人生なんだから自分が主役なのは当たり前""という言葉が今のわたしを動かしてくれています。

だからやっぱりあの日、水戸くんでよかったなって思います。

わたしは親に敷かれたレールの上ばかりを歩いてきました。
何もしたいことはさせてもらえなくて何でも親の言う通りにしてきました。
あの日、水戸くんが入院になったあとも、母にきつく言われ、あの町を離れざるを得ませんでした。
でもずっと水戸くんが気になって仕方がなくて
それで水戸くんのあの言葉を思い出して、こう思ったんです。

わたしの人生、わたしが主役。

母に反抗をしてアルバイトを始めました。
水戸くんに会いに行くために。
正直、会いに行くのは怖いです。
でもわたしを許してくれていても許してくれていなくても、水戸くんを一目見たいのです。
最後まで自分勝手でごめんなさい。

水戸くんはトラックとぶつかった直後、意識はなかったけど救急車に乗る時に意識が戻ったことを覚えていますか?

わたしは鮮明に覚えています。

水戸くんはわたしを見てこう言ったんです。
「心配すんな。彼女を守るのは当然だろ?」

あとから警察の方に聞きました。
避けることはできたはずだと。
でも避ければ、わたしが危なかったと…
だから彼は君を守るために避けなかったんだよ。と…

1日だけの彼女のために命をかける水戸くんにわたしは会いたくて会いたくてたまりません。
でも、一目でいいから会いたいのに、
どんな顔をしていいかわかりません。
でも会いたくて会いたくてたまらないんです。

退院したとクラスの友達に聞きました。
留年も心配ないと聞きました。

本気で会いに行きます。
わたしに会いたくなかったら逃げてください。
でもわたしは一目でいいから会いたいです。≫




「待ってるよ…いつまででも…」




fin
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