スラダン(短め)

□洋平✖夜逃げ同級生
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「え…?」
『だからね?わたし、人を殺したの』
「ははは。それがマジならシャレになんねーぜ。」
『………………』
「マジかよ…」

ハァ…と水戸くんは深い溜め息を吐いた

「誰、殺したんだよ…」
『お父さんの不倫相手』
「…は?」
『家に帰ったら居たからびっくりして…最初は泥棒かと思ったんだけどね、不倫相手だって言われて…あんまりその時のこと覚えてないんだけどね。気づいたら不倫相手が血まみれで倒れてた。』

まるで自分のことじゃないかのように話しているなーと自覚している
でもなぜか他人事に思えて仕方がない

「じゃあ今頃…」
『家に警察とかいるだろうね』
「マジか…」
『ごめんね…』
「いや…まぁ、びっくりだけど…もっとちゃんとした動機があるんだろ?」
『……………』
「不倫相手ってだけで苗字さんが人を殺すとも思えないしな」
『…水戸くんって怖いね』
「いや苗字さんの方が怖いだろ」

ケラケラと笑う水戸くんもやっぱり怖いと思う

『なんで…わたしを連れ出してくれたの?』
「なんでだろうな」
『後悔してる?』
「んー…不思議と後悔はないな」
『…ほんと?』
「ほんとほんと。むしろ俺も犯罪、犯してるから」
『え?』
「あのバイク…」
『え、本当に盗んだの!?』
「バイト先の友達の鍵をくすねた」

ニシシとバイクの鍵をわたしに見せる水戸くん
何故か、つられて笑ってしまう

「なんか信じられんねーな」
『え?』
「苗字さんが人を殺すなんてさ」
『あのね、水戸くん』
「へ…?」
『わたしが1番、信じられないよ』

ケラケラと話せば、水戸くんもケラケラと笑う
わたしに笑う資格なんてないはずなのにね

「…で?実際問題、どうすんだ?これから」
『まぁ、自首するしかないよね』
「そうだな…俺もそれがいいと思う」
『うん…』
「………………」
『………………』

しばらく沈黙が続いた
波の音がやけにうるさく感じる

「残念だなぁー」
『何が?』
「苗字さん話してみたら面白かったし…これからもっと仲良くしたかったぜ、俺は」
『………………』

""仲良くしたかった""
その言葉は嬉しい。
嬉しいけど…
何故か寂しい気持ちになる。…なんで?

「帰るの面倒くせーなー」
『…帰らなきゃ』
「だよなー」

砂浜に寝転ぶ水戸くん
今にも寝そうだ

「じゃあさ、俺が起きたら帰るか」
『…いいよ』

そう承諾すればわたしに背を向け、自身の腕を枕に横向きで寝始めた
水戸くんが寝ている間はひたすら波を見ていた
波は意外と荒い

そういえば何かのドラマで見たなぁ…
死体は、山ではなく海に捨てろと。
海に捨てれば魚が食べてくれると。

水戸くんが寝ていることを確認して、海に向かって歩いた

海の冷たさが足に伝わって、わたしは生きているんだなって実感する
わたしは死体ではなく、生きている

「苗字さん!!」
『………水戸くん』

振り返れば、水戸くんは砂浜に立ち尽くしていた

「何してんだよ!!こっち来い!!」
『………………』
「早くしろ!!!」

怒声に近い
水戸くんも声を荒げることあるんだ…なんて思いながら足が動かない

そんなわたしを見かねたのか、ズンズンとこちらに水戸くんが歩いてくる
それに逃げるようにわたしはもっと奥へ進む

「逃げんな!!」
『……………』
「目の前のことから逃げんな!!」

ピタッとわたしの足は止まる

『ここで終わり!』
「は?」
『ここで、わたしの人生は終わり!』
「……………」
『終わらせるの!』

不倫相手を殺したのも、親のため…
なんて理由にもならないし、言い訳に過ぎない
目の前で血まみれに倒れている不倫相手を思い浮かべては、わたしは何で生きてるんだろうと思う
わたしは死体ではなく、生きている
""わたし""を終わらせなきゃ…

「悲劇のヒロインぶるんじゃねーよ」
『………………』

気付けば、水戸くんがわたしの腕を掴んでいた

「そりゃ取り返しのつかねーことしたかもしれねーけど…この先、何があるかわかんねーだろ?良いことがあるかもしれないし悪いことがあるかもしれねぇ。賭けてみようぜ?」
『賭けなくていい』
「なんだ?怖えーのか?」
『………………』
「人を殺すこと以上に怖いことねーと思うけどな」

何でそんなこと言えるんだろう

「罪、償って…これから先も償えばいいじゃねーか。それも悪くなくね?」
『…そんなこと言うの水戸くんだけだと思う』
「そうかー?」

水戸くんはわたしの腕を引っ張り、砂浜の上に引き戻す

「じゃあ、行くか…」
『うん…』
「なぁ、苗字」
『ん?』

腕を引っ張られたまま水戸くんは振り返る


「一生分の"悪"したんだからこれからは良いことしかすんなよ」


わたしはこの先、何かツライことがあったら、この言葉を思い出そう
漠然とこの時はそう思った











『わたし…本当に生きてていいのかな』
「………いいんだよ」
『人の命、奪ったのに…?』
「だからこれからは良いことしかしたらダメだぜ?」
『………………』

目の前の警察署を前に2人で立ち尽くす
水戸くんは何でこんな平然としているんだろう

「お前はこの先ずっと殺した不倫相手を忘れることなく生きるんだろうけどよ…お前の人生はお前のもんだ」
『………………』
「お前の人生はどうやったってお前が主役なんだよ」

握っている手のちからが強まる
その手が離れるのが嫌になる前にわたしから手を強引に離した

警察署に向かって歩く
後ろを振り向かずとも、水戸くんがバイクに跨る音が聞こえる

親の上に敷かれたレールを文句も言わずに歩いてきた
いつか自分が主役になれることを夢見て…

ずっと鎖につながれているような…
小さい箱に入れられているような…
そんな毎日だったのに…

父が好き勝手していることを知ったらもう何も考えられなかった

いつもニュースなんて他人事のように見てたけど、所詮、人を殺す動機なんてしょうもない

警察署への入り口が近づくたびに足が鉛のように重くなっていく

一生分の"悪"したんだからこれからは良いことしかすんなよ

そうだ。償ったあとは良いことをしよう。
ボランティアとかどうだろう。
あれ?何年、償うんだろう。
出た頃には日本ってどうなってるんだろう。

あれ。
わたし、なんで殺したんだっけ。
わたし、なんで人を殺したんだっけ。

あれ…
なんで、わたし…
殺しちゃったんだろ…

後悔の分だけ足が重くなった気がした
思わず立ち止まってしまった

行かなきゃ。自首しなきゃ。













ブルン!!!


『み…水戸くん…?』
「乗れ」
『え…』
「乗れ!!」

わたしの前にバイクを停め、ヘルメットを被せた
あんだけ重かった足が嘘のように軽くてバイクに跨る

何も言わずにただバイクは走り続ける





‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

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「聞いた?苗字さんの家のこと…」
「え、なに!?知らない!!」
「苗字さんの旦那さんの不倫相手が、苗字さんの家で自殺したんだって!!」
「え!うそ、やだ!本当?!」
「らしいよ!近所じゃ凄い噂になってる!!」






カランコロン

喫茶店のドアが開けば鈴が教えてくれる
そこにはキョロキョロした水戸くんがいた
手を上げればわたしに気づいて近づいてくる

「よっ、待った?」
『ううん。待ってないよ。』
「えっと?引っ越すんだって?」
『うん…この町から離れることになった』
「そうか…まぁ、よかったじゃねーか」
『やっぱり学校で噂になってる?』
「それはもう…な」

ニシシと笑う水戸くんは相変わらずだと思った

『あのさ…』
「ん?」
『何であの時、…わたしをバイクに乗せたの?』

""あの時""とは…
わたしが警察署に自首しようとした時だ

あの後は、わたしの家まで行った
家の前には案の定、パトカーが停まっていて
母がわたしに気づいて、不倫相手が自殺をしたと言ってきた
わたしはしばらく何も言えなかった

包丁の指紋、刺さっている傷跡
どれも自分で刺さなければ説明のつかないものだったらしい


「俺さ…どうしても苗字さんが人を殺したように思えなかったんだよな」
『え………』
「だから家に行ってみようと思ったわけ。案の定…違ったろ?」

頬杖をついてドヤ顔をキメる水戸くん

『何でそう思ったの…』
「いやわかんねーけど。でもあんま記憶ねーって言ってただろ?揉み合って気失ってる間に自殺したんじゃねーの?」
『揉み合って…?』
「首の横に新しい傷あったから…相当、揉み合ったんじゃねーの?」

言われてみれば…襲い掛かってきてわたしもやり返そうとしたら頭に何かぶつかって…それで気づけば、目の前にあの女が血まみれで倒れてたかも…?

「ったく…お前の早とちりに俺の寿命がどんだけ縮まったと思ってんだよ」
『……ごめん。』

わたしのアイスコーヒーを遠慮なく飲み始める水戸くん
何か頼めばいいのに…なんて悠長なことを考える

「まぁ、でもほんとよかったぜ」
『うん…ありがとう』
「これでおきなく仲良くできんな」
『?』
「これからもっと仲良くしたかったって言ったろ?」
『で、でも引っ越すし…』
「これなーんだ」
『そ、それは…!』

水戸くんがニシシと見せつけてきたものはバイクの鍵

『また友達のバイク…』
「買い取った」
『え!?買い取った!?』
「新しいバイクが欲しいっつーから買い取ってやったんだ」

楽し気に鍵をくるくると回す

「引っ越しって言ってもすぐそこだろ?これで会いに行くぜ」
『………………』
「まぁ、今回のことで寿命は縮まったけど…過去じゃなくてこれからを生きようぜ!」

これからを生きる…
お母さんとお父さんにもこの言葉、言ってみよ…

「じゃ、さっそく行こうぜ!」
『え?どこに?』
「海に決まってんだろ?」

水戸くんに腕を引かれまたバイクに跨った
この時間がずっと続けばいいのに…て
何からも逃げる必要がないのに漠然とそう思った



Fin


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