スラダン(短め)

□沢北✖同級生彼女
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「苗字、お待たせー」
『うん。どこか寄って帰る?』
「俺の家で勉強しねー?」
『あぁ、いいね。そうしよ』


山王工業高校男子バスケ部エース沢北栄治
彼はわたしの彼氏である

1年生の時に同じクラスになり、お互い片思いから始まり、晴れて付き合い始めたのはクリスマス
それからはこれといったトラブルもなく、健全なお付き合いをしている

だが2年生ではクラスは離れてしまった
そんな2年生、初めのテスト期間
学校から少し離れた場所で待ち合わせて、沢北の家へと肩を並べて向かう

わたしたちが付き合っていることは内緒にしている


『あのさ、沢北と同じクラスの美川香恋さんってどんな人?』
「美川?どんな人って言われてもな…」


ウーンと考える白々しい沢北に眉をしかめる
美川香恋は学校一のマドンナで、その美川香恋とファンが絶えない沢北栄治が親密な関係であると、わたしの耳にまで届くくらいには他クラスにまで噂が広まっている

そもそも付き合っていることを内緒にしようと言ったのも沢北の方からだ

その噂を耳にした時、わたしはショックだった
沢北を信じたい思いとは裏腹に、悪いことばかりが頭に浮かぶ

ファンが減ってほしくないのか、わたしはあくまでキープで他の人にも手を出せるなら出そうとしているとか…

そんなことを考えてるともつゆ知らない沢北は「それより、」と何食わぬ顔で話しを反らした


「やっぱ今日は喫茶店に行かね?」
『喫茶店?別にいいけど…』
「行きたい喫茶店があってさ」


喫茶店の方に足を変え、2人で喫茶店でテスト勉強をした
喫茶店は可愛らしい雰囲気でウエイトレスの制服もとても可愛かった
沢北は喫茶店の中をキョロキョロとしていて、わたしを不安にさせるのは十分だった
可愛いウエイトレスがたくさんいたからだ
だがわたしも沢北に嫌われたくない
気になってることも聞けず、思っていることも言えず、勉強だけしてこの日は帰った






「沢北くぅーん!筆箱忘れてたよぉ?」
「え、あっ、悪ィ!」
「ううん!沢北くんってドジで可愛いねぇー」
『………………』


沢北はおそらく移動教室で廊下を歩いていたのだろう
そこに現れた美川香恋
わたしは嫌なものを見てしまった
それも美川香恋はそのまま「坊主も可愛い!」と小ぶりな体で精一杯、かかとを上げて沢北の頭を撫でている
沢北も嫌がることなくされるがままだ

わたしは拳を握りしめフルフルと震わせる
何が1番むかつくってわたしが見ていることに気づいていないこと


「なぁなぁ、隣のクラスの美川香恋マジ可愛いよな!」
「間違いない。でも沢北狙いって聞いたぜ?」
「俺も聞いた!アイツ、坊主のくせに何でモテんだよ!」


教室に戻り、イライラを抑えるには糖分の摂取だと、お昼休みに飲もうと思っていた紙パックのリンゴジュースを開封して、ちゅうっと吸い付けば後ろの席の男子がそんな話しをしているのが聞こえて、紙コップを握りつぶしてしまった

案の定、リンゴジュースは吹き出し、またイライラとしながら机の上を拭く

スマホが鳴り、画面を見てみると沢北からLIMEが入っていた
通知画面で内容を読むと、今日は一緒に帰れないとのことだった

バスケ部は日々、猛練習のためテスト期間でし
か会えないというのに…一緒に帰れない?
明日も帰ろうなって言ってきたのは沢北なのに…

イライラを通り越し、目頭が熱くなって机に顔を伏せる
今日は友達を誘ってカラオケにでも行こうかな…





「なぁ、昨日さ…見ちゃったんだよね」
「あ?何を?」
「沢北と、美川香恋が一緒に歩いてるところ」
『!?!』


翌日
後ろの男子の会話に、思わず顔を振り向かせた
男子もびっくりしていたがわたしはお構いなしに会話に入った


『どんな感じで歩いてたの?』
「苗字さん沢北のファンだったのか…いやそれがさ、美川さんが沢北の腕組んで楽しそうに歩いてたよ。あれは紛れもないデートってやつだ」


ギギギ…と持っていたシャープペンシルを握り震わせていたら「苗字さんって沢北の熱狂的ファンだったんだね…」と引かれた
そんなことはどうでもいい
付き合っている人がいながら他の女性と遊びに行くなんて別にいいって言う人もいるかもしれないけど、わたしは嫌だ

ちなみに昨日のLIMEは未読のまま
それなのにまたLIMEをくれない沢北に勝手に1人で怒っているわたし
何でわたしばっかりがこんな怒ったり悲しんだりしなきゃいけないんだ!

日々、続くイライラにわたしは崩壊していた



落ち着こうと教室を出てトイレへ向かっていると、腕を掴まれあまり使われていない非常階段の踊り場まで引っ張られた


『……沢北』
「何で既読にしないんだよ…」
『……………』
「昨日はほんとにごめん…今日は帰れるから!」
『……………』
「………何か怒ってる?昨日帰れなかったから?」


口を尖らす沢北に眉をしかめる
この際、言ってしまおう


『今日も美川さんと帰れば?』
「は…?し、知ってた…の?」
『知ってたらダメだった?』
「いや、そうじゃなくて…」


沢北の表情が真面目な顔に変わったその時…


「あ、沢北くぅん!昨日はありがとね!すごく楽しかったよぉ〜」


空気も読まずに美川香恋が現れた


「あれ…えっとぉ…苗字さんだっけ?何で沢北くんと一緒に?」


初めからわたしが見えてただろ!という怒りは抑え、わたしは下唇を噛み、その場を後にした
沢北も美川さんの前では何も言えないのかわたしを引きとめることさえしなかった





「よっ」
『………………』


あれからLIMEが入ってたけどそれも未読スルーしたわたし
とりあえず沢北の顔は見たくないと思ってたのに、一足先にわたしの家の前で待っていた


「この前の喫茶店に行こ…な?」
『………………』


わたしは無言で頷いた
もう終わりなのかな…早かったな…
去年のクリスマスに戻れないかな…

無言で肩を並べて喫茶店まで歩く
その道中、わたしは今までの沢北との思い出を思い出していた




「いらっしゃいませー…あ!沢北くん!…と、苗字さん…?」


喫茶店に着けば、可愛い制服を身に纏ってウエイトレスをしていた美川さんだった


「2人」
「は…はーい。こちらの席で…」
「どうも」


沢北はどこか冷たい
え?どういうこと…?


「苗字さ…昨日は確かに俺が悪かったけど、美川さんとは何もないから。ほんとに」
『……でも腕、組んで歩いてたって聞いた』
「あ、あれは…美川さんが強引にな…簡単に振りほどけないくらい強く掴まれてたから…」
『そもそも何で2人で歩いてたの…』


そう聞くと沢北は後頭部をかいて困った顔をした


「美川さんに…そのアプローチされてて…」
『………それで何で2人で出かけることになるの?わたしと約束してたのに…』
「今日一緒にデートしてくれたら諦めるって言ったからよ…」
『………………』
「それでも今日あんな感じだからさ…苗字と居るところ見せつけようと思って」
『え…?』
「ここでバイトしてるってことは聞いててさ。この前もそのためにここに来たんだけどその時はシフトに入ってなかったみたいだから」


わたしはすべてを納得して、ちからが抜けた
身体をずっと強張らせていたからか、力を抜くとドッと疲労感が襲ってきた


「ご注文はお決まりですかぁ…?」


美川さんがオーダーを取りに来てくれ、沢北が注文をしてくれた
だけど、美川さんはその場から離れずにいた


「あ、聞いたよぉ?苗字さんは沢北くんと1年の時に同じクラスだったんだよね?」
『え…う、うん』
「その時のよしみ?」


ニコニコと聞いてくる美川さんに顔が引きつる
あのあと、誰かにわたしのことを探ったのかな…?
見かねた沢北が口を開いた


「苗字は俺の彼女」
「………………………………えッ??」


なかなか理解できなかったのか間がとても長かった美川さんにワナワナと震える


「俺たちが付き合ってることは他のみんなには内緒にしてるけど美川さんには言っとく」


美川さんは目を見開いたまま「何で内緒に?」と言い放った


「美川さんには関係ない。それは俺たちの問題だから」


放心状態の美川さんに沢北は、じゃあドリンクお願いします。と笑顔で返した
美川さんはそのまま返事もせずに厨房の方へと消えた


「不安にさせてごめんな?俺が好きなのは苗字だから…な?」


ずるい。何もかもずるい。
そんなこと言われたら何でも許しちゃう。


「あと…内緒にしてんのは先輩たちにからかわれるのが嫌なんだ…」
『え…?』
「先輩たち…なんつーか僻みが凄いから…」


口を尖らし、告げる沢北にわたしは首を傾げる


『そんなの言ってくれたらよかったのに…』
「言えるかよ…先輩が怖くて言いたくないなんてさ…」


拗ねる沢北にブフッと思わず吹いてしまう
更に拗ねてしまう沢北にわたしの笑いは止まらなかった













「苗字ってあんま嫉妬深そうに見えないけど嫉妬するんだな」
『そりゃあんなに美川さんにデレデレしてたらね…』
「デレデレしてねーっつの!」
『頭撫でられてデレデレしてたし…』
「見てたの!?」


喫茶店を後にして、手を繋いで帰る帰り道

慌てる沢北に、わかったわかったと笑いながら返せばムスッと拗ねる沢北
ほんとよく拗ねるなーと思っていると…



ヒューーーーー………


「キャッ!」
「やだ!スカート捲れた!」


前を歩く女子高校生のスカートがめくれ、パンツが見えた
同性として、あらま…と同情しながら沢北を見ると…


「…………………」
『…………………』
「…………………」
『……沢北、今あの子たちのパンツを目に焼き付けてんでしょ』
「ッ??!!」


ジッとしてた沢北に冷たく言い放ち、図星だったような反応を見せた沢北
繋いでいた手を離して先々と一人で歩いた


「ち、ちげーって!!目に焼き付いてないって!!」
『……じゃあ右の子のパンツの色は?』
「黒だった」
『……………………』
「仕方ねーだろ!見えたんだから!」
『開き直るな!!』
「それならお前のパンツ見せろ!」
『うわ…』
「引くなよ!!」


ここ数日、悩んでいたことが馬鹿らしくなる


「苗字、待ってって!」
『なに?』
「ん…」


また差し出される手
この手に触れていいのはわたしだけ

それでもやっぱり、しばらく美川さんという存在は忘れられないと思う

わたしは沢北の差し出す手を無視して頭を乱暴にグリグリと撫でた


「ぅ、わ!何すんだよ!」


防御するために頭を抱える沢北
わたしが撫でる行為をやめれば沢北は顔を上げた

その顔は真っ赤になっていて…


『………………』
「……なんだよ」
『いや…なんでもない…』


沢北はわたしが思っている以上に、わたしのことが好きなのかもしれない


Fin


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