スラダン(短め)

□深津✖同級生
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みなさん、こんにちは
わたしはしがない女子高校生です
え?誰に話しかけているかって?
いやまぁ、とりあえず聞いてくださいよ。

わたしには負かしたい男がいるんですよ。


「苗字。何考えてるピョン」
『うるさい。今、""語り""やってるから。』


そう、お察しの通り…
隣の席の男、深津一成を負かしたい

この男、深津一成はどうやら何事にも動じないらしい
いつも何を考えているかわからないこの男をわたしは動揺させて負かしたいのだ

ただ、この男を動揺させたくて今まで色んなことをしてきたが動揺しない
どうすれば動揺させられるのか…


「苗字。」
『うるさい、今…』
「俺をどう負かすか考えてるピョン」
『え…?』


何故わかったんだ、この男!
深津を見ると心なしか笑っているような笑っていないような…
いや、笑っていない…か?


「笑ってるピョン」
『!?』


心の中を読まれている!?


「お前はわかりやすいピョン」
『は、は?な、ななな、何が?何がデスカ?』


完全に動揺しているわたしに深津一成は頬杖をついてジッと見てくる
わたしが目を泳がせていると…


「わかりやすくて可愛いピョン」


ボッと顔を真っ赤っかにしてしまったわたしが本日も負けのようだ




『イチノくん。どうしたら深津一成を動揺させられる?』
「動揺…?深津を動揺させたいのか?」
『うむ』


同じクラス、同じバスケ部のイチノくんを味方につければ我らが敵、深津一成を成敗することができるのかもしれない!


「何でそんなことしたいんだ…」
『イチノくん。とにかく深津一成の弱点を教えてくれ!!頼む!!!もう何でもいい!蛙が苦手とか、う●こする時は全裸にならないとできないとかそういう些細なことでいい!!』
「何でそんなに必死なんだよ!」


イチノくんの肩を掴み、前後に揺らす


「つかお前ならいくらでも動揺させられるだろ!」
『…は?何で?』
「何でって…そりゃ…え?」
『え?はこっちの台詞だよ。』
「いや…えっと…」


イチノくんが動揺してどうすんだ…と思っていたら、わたしたちの前に我らが敵…
▼深津一成が現れた


「イチノ」
「え?」
「イチノは今日、外周20本追加だピョン」
「…え?なんで?え?」


それだけ言って深津は席に戻った
イチノくんは口をポカーンと開けて絶望している
わたしは、我慢強いイチノ君なら大丈夫だよ。と掴んでいた手を離してウインクをして親指を立てた
イチノくんはお前のせいだと言っていたけど何のことかわからずにわたしも席に戻った

すると突然、お腹の痛みに襲われた
朝に飲んだ薬の効果が切れだしたかも…


『……………』
「……どうしたピョン?」


お腹を抑えて机にうな垂れるわたしに深津が声をかけた
わたしはこんな状況にも関わらず、ほくそ笑んだ


『え?わからない?あの深津一成でもわからない?え、わかんないの?』
「………………」


煽る言い方をするが深津一成は一切、表情を変えない
さぁ、深津一成!!!
「生理」と答えてみるがいいさ!!
言えないだろ?いくら男子高校生とはいえ、「生理」なんて言えないだろ?恥ずかしいだろ?
言ってみるがいい!!!

深津はしばらく、ほくそ笑んでいるわたしをジッと見て深い溜め息をひとつ漏らした


「こんな時まで何言ってるピョン」
『……え?』
「薬はあるピョン?」
『え、あ、あるけど…でもお茶忘れちゃって…』
「飲んでいいピョン」
『え…あ、ありがとう…』


心配してくれる深津に思わぬ展開だが、わたしは素直に深津からお茶を受け取る
優しい深津一成なんて調子が狂っちゃうんですけど…
薬を取り出し、ペットボトルに口を付けると


「関節キス」
『ッ、!?!??!』


思わずお茶を零して睨みつけているわたしに深津は「ん?」と首を傾げるが鼻で笑っている
そんな深津一成にイラッとしながら、動揺なんてしないぞ?とわたしは足掻く


『べ…別に…そんなの中学生やあるまいし?な、何も気にすることはないよねー』
「関節じゃなくていいピョン」
『は…?』
「直接してやってもいいピョン」
『ば、ば?!?!』


動揺して取り乱すわたしに深津は反対の方を向いて、肩を揺らし声を押し殺して笑っている
こんなに笑う深津一成が珍しくもあり、顔を真っ赤っかにして狼狽えるわたしに爆笑しているかと思うと体がワナワナと震える


『馬鹿じゃないの?!』
「本気にして狼狽えるお前が馬鹿だピョン」
『〜〜〜ッ!!』


こちらを振り返って真顔に戻る深津だが、わたしが何も言えないのを見てまた反対の方を見て爆笑しはじめる

やっぱりわたしはコイツを負かしたい!!!!!




『もう!深津の野郎、許すまじ!』
「最近、深津深津ってさー…名前、あんたもしかして深津のこと好きなんじゃないのー?」
『は!?そんな訳ねーし!何言っちゃってんの!?』


放課後、教室に残って話しているとそんなことを言われて否定し続けていると無理矢理バスケ部のいる体育館へ連れて来られた

ギャラリーに上がり、たくさんいる中で深津を見つける
ちゃんとキャプテンらしく指示したりして何だかいつもと違う深津が面白くてジッと見てしまう


「名前、やっぱり深津くんばっかり見てるじゃ〜ん!」
『い、いや違うよ!アイツの弱点を探してるから!!』
「そんなこと言っちゃって〜!」
『本当に違うからヤメロ!?』


ギャーギャーと騒いでいるとギャラリーの柵にボールがバコンとあたってビックリしてコートに目を向けると深津がこちらを見上げていた


「うるさいピョン」
『ご、ごめん…』
「見るなら静かに見るピョン」
『う、うっす…』


見てるのはいいんだね?よかった…

それにしても弱点なんて見つかるわけもなく、ただただ真剣にバスケに打ち込んでいる深津が違う人に見えて退屈しなかった
時々、目が合う気がするけど気のせいかな?


「ふむ…」
『ん?どうした?』
「あのさ…わたしにいい作戦あるよ」
『え!なになに!?深津をギャフンと言わせることができる!?』
「多分ね。これはあんたにしかできない。」
『?』







「昨日は何で見に来たピョン」
『深津の弱点がないかなーと思ってさ』
「ふーん…それで弱点わかったピョン?」
『ううん、わかんなかった』


鼻で笑う深津
だがしかし今日は作戦がある
今日のわたしは一味、違うぞ?


『弱点は見つけられなかったけどさ、2年生の沢北くんってなんか凄くない?バスケのこと詳しくないけど、彼だけズバ抜けて上手かった気がする』
「うちのエースだピョン」
『エース!?格好いいね〜』
「………………」
『沢北くんって彼女いるのかな〜』
「………………」
『え、彼女いるの?知ってる?』
「………………」
『深津?聞いてる?』
「………………」


突然、黙ってしまった深津の顔を覗き込む
なんだかいつも以上に無表情を決め込んでいるように思えるのは気のせいかな…?


『ねぇー、深津ってばー』
「うるさいピョン」
『えぇ〜?沢北くんにわたしのこと紹介してよ〜』
「………………」


眉をしかめた深津にわたしは作戦を決行すことにした


『深津、なんか怒ってる?』
「………………」
『わたしが沢北くん褒めてるから?』
「………………」
『そうなんでしょ?嫉妬でしょ?』
「………………」


よし、トドメだ


『もしかして深津ってさ…わたしのこと好きなの?』
「は?」


深津はわたしに振り返った
その顔は徐々に真っ赤に………え?なんで真っ赤に?

てっきり、昨日わたしが友達にやられたように深津も「は!?そんな訳ないピョン!!」とかちょっと乱れるかと思ったんだけど…


『………え、そうなの?』
「ちがう。んなわけないだろ。」
『""ピョン""付け忘れてますけど』
「!!」


深津は気まずそうに目を泳がせた


『へぇ〜?深津一成はわたしのこと好きなのか〜』
「違うピョン」
『照れんな照れんな』
「…うざいピョン」
『へぇー…深津がねー…』


そっぽ向いてこちらを見ない深津一成にわたしはニヤニヤが止まらない


『ねぇ、深津?』
「…ピョン」
『顔は隠せてるけど、真っ赤なお耳は隠せてないよー?』


坊主だから丸見えな耳が真っ赤で可愛いと思ってしまった


『深津、可愛いとこあるじゃん』
「………………」
『告白、いつでも待ってるよー?』
「………………」


ついに黙ってしまった深津にわたしはニヤニヤが止まらなくて口元を隠す
さすがにこのニヤケ顔は気持ち悪いから誰にも見られたくない

深津がわたしを好きってのは半信半疑だけど恥ずかしくてここまで真っ赤になってる深津一成
を…わたしは…ついに……ついに………

ついに我らが敵、深津一成を負かした!!!

深津は動揺したら""ピョン""を忘れちゃう!!!

このネタでしばらくわたしが負けることはないでしょう!!!

はっはっはっはっはっは!!!!!!


「苗字。お前は可愛い。」


押し殺して笑っていた顔も声も一瞬で、止まったわたし
深津を見ると、さっきまでとは打って変わって、いつも通りの無表情に変わっていた


「一々、しょーもないことで狼狽えるとこも感情が表に出やすいとこも俺を負かそうとしてるとこも負けず嫌いなとこも、鈍感なところも。全部、可愛くて好きだピョン」


わたしが口をポカーンと開けて放心状態になっていると、深津は鼻で笑った


「その間抜け面も好きだピョン」
『ッ、!?!』
「好きな女には俺は容赦ないピョン。覚悟しろピョン」


さっきまでの喜びはどこにいった…?

ただただ目の前で笑っている深津、そして自身の顔の熱さに今はただただ敗北感を感じている



とりあえずわかっていることは…

これからもわたしと深津の勝負は続くってこと



そしてわたしは勝てる気がしない



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