スラダン(短め)

□沢北✖先輩彼女
1ページ/1ページ





‐‐‐秋田空港



どこかへ旅でに出る者

帰省する者

仕事の出張で行く者…



たくさんの人々で溢れている



「………………」

『………………』



このカップルもそうだ

どこか重苦しい雰囲気に2人の周りは人が避けている



「…はぁ。いつまでだんまり決め込んでんの?」

『だって…』



今日、彼氏がアメリカへ旅立ってしまうのだ

彼女は笑顔で送り出そうと思ったのに、目に溢れる涙が出ないよう必死に耐える

そんな顔を見られないように俯いたままでいると彼氏は不満な面持ちになった



「しばらく会えないんだしさ。ちゃんと顔、見せてよ…名前先輩」



肩に手を置かれてピクリと反応をする

名前先輩と呼ばれるこの彼女、名前は優しく名前を呼ばれて胸がきゅう…と苦しくなる

溢れそうな涙をグッと堪えて、顔を上げる



『……………』



優しく微笑む栄治にせっかく堪えた涙が頬をスー…と流れる



「泣かないでよ…」

『ごめん…』



栄治は袖でゴシゴシと涙で濡れた頬を擦る



『い、痛い…』

「えッ…ご、ごめん…」



彼女はこういう不器用な彼が大好きなのだ



「名前先輩さ、言いたいことあるなら言ってよ」



言葉にしなきゃわからない…そう言われている気もした

人は心が読めない

言葉にしなくてもわかってほしいなんて無理なことだ



『いざ見送るってなると……』

「………………」



口篭もる名前に彼氏の沢北栄治は手を握った



「わかるよ…俺だって…」

『………………』

「………………」

『………………』



また沈黙が訪れる

2人とも俯いてしまう

だがその沈黙を破り、先に口を開いたのは栄治



「なぁ…そりゃ俺だって先輩と離れるの寂しいけどさ…ちょくちょく帰ってくっからさ!」



できるだけ明るく話す栄治

名前だって理屈では理解できているものの頭では理解できなかった



『何でそんなに平気なの?』

「平気?」

『ずっと…ここ1週間もずっと沢北は楽しそうで…わたしは不安でしかなかった…』



名前が自分の気持ちを吐露する

栄治は他人事のように「ああ…」と納得したように頷いた



「俺にとって挑戦するってことはさ、生きがいなんだよ」



そう子供をあやすように言われて名前は下唇を噛んだ



『(わかってる!わかってる!)』



名前だって栄治のことは理解しているつもりだ

栄治のことを応援したいのは本当だ

でもやっぱり…

いつも「先輩!名前先輩!」と笑顔で駆け寄ってくる栄治が忽然といなくなってしまうのはどうしても…受け入れられないのだ



「俺は名前先輩と離れても全然、不安じゃないよ?」

『……?』

「もう1回言うけど…俺だって先輩と離れるのはめちゃくちゃ寂しい。でもさ、名前先輩以外に俺をこんなに好きにさせる人ってぜってーいねーもん」



名前は俯いていた顔を上げる



「だから泣かずに待ってて」



いつも自分より子供な栄治が微笑みながら諭す栄治



『わかんないよ?わたしが浮気するかも…』



名前は少しムッとして可愛い気もない言葉を吐いてしまった

それでも栄治は楽しそうに笑った



「えー?名前先輩、浮気すんのー?んー?」

『しないと思ってんの…』



顔を覗きながら、からかうように話す栄治

また名前は可愛い気もない返しをする



「うん、しない。先輩は浮気なんてしない。」

『な…なんで…?』

「だって名前先輩だって俺のことめっちゃ好きじゃん」



してやったりな顔をする栄治に名前は顔が熱くなって何も言い返さずに栄治に肩パンを入れた

「痛ッ!本気のやつ!」と騒ぐ、いつも通りの栄治にもう一発、肩パンを入れる



『あのさ、お願いがあるんだけど…』

「ん?なになに?」

『先輩って…いつまで呼ぶの?次に帰ってくる時にはもう卒業してるかもしれないでしょ…?』

「………………」



目を伏せる名前に栄治はキョトンとするも、顔を背けて黙ってしまった



『沢北?』

「いや…なんでもない…」



栄治は口元を手で覆い、名前に向き合う



「じゃあ…名前…」

『……うん』



またぎこちなくなってしまう2人



「名前も、俺のこと栄治って呼んでほしい」

『え…』

「名前だけずるい」

『うッ…』



最もな言い分に名前は1つ深呼吸をした



『えい、じッ!?』


‐‐‐ガバッ


名前が口を開いた途端、栄治は名前を強く抱きしめた

驚きはしたものの抱きしめられた瞬間、栄治の胸の中で止めどなく涙が溢れた

隙間がないくらいに強く強く抱き合った



「ダメだ!これ以上はダメだ!」



暫くして突然、栄治の方から離れた



「これ以上は連れて行きたくなるから…」

『え……プフッ』

「うッ…笑わないでよ…」



やっと女々しい栄治を見れて名前は嬉しくもあり、笑ってしまった

そんな名前を見て、ばつが悪そうな顔をして後頭部をボリボリと掻いた



「じゃあ、名前。」

『うん…』

「行くから。」

『うん!』



今度は優しく、袖で名前の頬を拭った

目の前の搭乗口とわずかな距離でも2人は手を繋いだ



「名前せんぱ……じゃなかった」

『うん…』

「名前。風邪とか引かないようにね」

『うん…栄治もね』

「うん…俺またうまくなって帰ってくるから」

『それでもどうせまた行っちゃうくせに…』

「今はまだ先のことなんてわかんないよ」

『………うん』

「でも俺が、名前が好きってことは変わんないから」

『絶対?』

「絶対。」

『わかった。』

「だから不安にならないでね…」



栄治は名前の頬を撫でた



『わたしも栄治のこと』

「ストップ!!」

『え…?』

「言わなくていい。わかってっから。」

『うん…』

「じゃあ、またね!」

『うん…またね!』



名前の笑顔を見て栄治は背を向けた

ついに搭乗口へ



『……ッ、!』



離れていく栄治の背

栄治の腕を掴んで引きとめたい…!

そんな衝動を抑えるように自分の右手を左手で掴んだ



そんな名前の気持ちを知ってか知らずか、栄治は背を向けたまま片手をあげて手を振った







Fin






****おまけ****



栄治は名前に背を向けた瞬間、前をちゃんと見据えていたものの…



「………ッ、…」



眉間を寄せ、目頭を抑えた

栄治が何を思ったか誰にもわからない…



*******



沢北栄治がきっとアメリカでも挑戦をし続け

日本にその名を轟かせる日が来ることをわたしたちは願っている



.


次の章へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ