企画用(短め)

□福田✖幼馴染
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『きっちゃん、待って!待ってってばー!』

きっちゃんは歩くのが遅い私を振り返ることなく、足早に学校へと行ってしまう。
それでも私は重いランドセルを背負いながらも必死に吉っちゃんの背を追いかけた。
きっちゃんとは家が隣同士で幼馴染。一緒に登校するのが気づけば当たり前になっていた。

『わぁっ!!』

追いかけていたきっちゃんの背は小さいほど遠くに行ってしまっていて、それでも必死に追いかける最中、足がもつれてズサァッ!と転んでしまった。
転んだ拍子に擦りむいた膝はジンジンと痛んで血が滲み、その痛みに目に涙が滲む。
それでも泣くまいと歯を食いしばって起き上がろうとすれば…

「何やってんだ。立てるか?」

わざわざ戻ってきたきっちゃんは、目の前に手を差し伸べてくれた。
その手を取って起き上がると服の埃を祓ってくれ、また転ばないようにと手を繋いで学校まで歩いてくれた。
ぶっきらぼうに見えるきっちゃんは実は優しい。そんなところが私は大好き。



そんな私たちは幼馴染以上の関係になることなく高校生になった。

高校に入ってからはバスケに夢中のきっちゃんに寂しさを覚えながらも応援した。
1年で驚くほどの急成長をしたきっちゃんは2年生になって、あの人気の仙道くんと仲が良くなったらしく…そのせいか稀に私以外の女の子と話しているところをよく見かけるようになり胸中穏やかではない。

だって私はきっちゃんに対して幼馴染以上の感情を持っているから。


そんなこんなで高校2年の文化祭。
私は少し焦っていたのかもしれない。


『きっちゃんいいでしょ!?ね!?』

「何でお前と文化祭、回らないとダメなんだよ」

『いいじゃん、回ろうよ〜!』


朝も放課後も部活のため、休み時間にきっちゃんの教室へとやって来て来週の文化祭のお誘いをしに来た。
きっちゃんの制服の裾をクイクイと掴んでお願いをするも、鈍感なきっちゃんは面倒くさそうに眉を下げるだけである。
そんなきっちゃんの後ろにはニコニコと楽しげに微笑んでいる仙道くんがこちらを見ている。
仙道くんは私の気持ちに気づいている…と思う。ていうか気づかないきっちゃんが鈍感すぎる。

なかなかお誘いに頷いてくれないきっちゃんに痺れを切らした私は、禁断の質問をすることにした。


『誰か一緒に回る人がいるの…?』


いる、と言われたらどうしようと思いながら掴んでいる裾をギュッ…と強く握る。


「お前に関係ないだろ」


多分、他意はない…。
ないんだろうけど言い方に棘があって平常心でいられるはずがない。
それに、長い付き合いなのに””関係ない””なんて…傷つく。

きっちゃんの後ろで仙道くんも「あちゃー…」と困ったようにぼそりと呟いた。

居た堪れなくなった私は裾を放し、何も言わずに背を向けて自分の教室に戻った。
その時、きっちゃんが私を呼び止めてくれることはなかった…。



文化祭当日。

関係ない、なんてあんな棘のある言い方をされたのは初めてで、優しいきっちゃんのことだから「悪りぃ」って謝りに来てくれると思ったら………気づけば文化祭当日になってしまった。

誰か一緒に回る人がいるのかなー…とボーッと暇していたら教室がザワザワとし始めてドア付近に目を向けるとキョロキョロと教室を見渡す仙道くんがいた。

バチッと目が合うと一目散に私の前まで来た仙道くんは、私の腕を掴んでは強引に引っ張って教室を出た。


『仙道くん、何!?』

「福田のクラスに行こう」

『な、何で!?』


仙道くんのチカラに勝てるはずもなく引っ張られるまま、きっちゃんのクラスに向かう。







「名前…と仙道…?」

「2人なんだけど座れる?」

「あぁ……ここ空いてるけど」


きっちゃんの教室に着けば、何故かタキシードを着ているきっちゃん。
そして更に何故か席を案内されて仙道くんと一緒にその席に座った。
きっちゃんは私と仙道くんが一緒にいることに驚いているみたいだけど、私はきっちゃんがタキシードを着ていることに驚いている。…写真撮ってもいいかな。
ジッ…ときっちゃんを凝視していると目の前に座っている仙道くんがクスクスと笑う声が聞こえた。


「福田のクラスの出し物が仮装喫茶なんだよ」

『それは知ってたけど…まさか、きっちゃんが仮装してるとは…』


当然、きっちゃんのクラスの出し物が仮装喫茶ということは知っていた。
けどまさか、きっちゃんがタキシード着ているなんて夢にも思っていなかった…。
仙道くんはまたクスリと笑って「タキシードの福田、格好いい?」と問いかけてきたので『うん』とすぐに頷けばまたクスクスと笑われた。完全に遊ばれている。


「なんで仙道といるんだよ」


いらっしゃいませとお水を持って来てくれたきっちゃん。
私はここぞと言わんばかりに””きっちゃんには関係ないでしょ””と冷たく言い放ってやった。
きっちゃんは眉を顰めて黙ってしまい、””関係ない””と言われることがどれだけ傷つくかわかったか、きっちゃん!と私はきっちゃんをキッと睨んでやった。


「………あっそ。」


きっちゃんは注文を取ることなく不機嫌気味に裏へと戻って行ってしまった。
効果はてきめんのようだ。それはそれで何だか罪悪感を感じるけど…。


「福田さ、タキシード着てるから一緒に回るの嫌だったんじゃないかな」


頬杖をついて楽しげにそう呟いた仙道くんに私は首を傾げて見せた。
だって今日は文化祭だし、仮装している人はたくさんいるからタキシードを着たからって周りから浮くわけでもないのに…
それでもやっぱりタキシード着るの嫌だったんかな…似合ってるのになぁ…


「とにかくさ、許してあげてよ。福田の事。」

『別に怒ってるつもりはないけど…””関係ない””なんてもう二度と言われたくない…』


そう告げた私に仙道くんは困ったようにチカラなく笑った。
困らせて申し訳ないと思いながらもこれは私の本音なワケでして…。


「あ、福田!」


裏から顔を出したきっちゃんを見つけて仙道くんは一目散にきっちゃんの元へと行ってしまった。
私は1人、ポツンと座って待っている。

机の上に置かれているメニューと、飾られている一輪の花。

そういえばまだ注文していないな、とメニューを開いた。
メニューを見ているけど、頭の中はきっちゃんと仙道くんがコソコソと何を話しているのが気になって仕方がない。





「やる」


きっちゃんの声に顔を上げると、手には一輪のバラを持って私に差し出していた。
机の上には変わらず一輪の花が飾られていて、そのバラはどこから持ってきた?なんてキョトンとしてしまった。

きっちゃんがバラを私にくれるなんて夢?しかもタキシードを着ている。

そんなきっちゃんを映画のワンシーンの如く、変換している私が何も反応できずにポーッとしていると、きっちゃんの方からバラを押し付けられて現実に戻された。あ、ここ教室だったわ。


「関係ないって言って悪かった。仙道からお前がすげぇ傷ついてるって聞いたから…」


一見ぶっきらぼうではあるけど、申し訳なさそうに眉を下げるきっちゃんからバラを受け取る。


『ありがとう、きっちゃん』


このバラをどうやって保管しようか、と考えながらお礼を告げた。


私が傷ついてることを知ってちゃんと謝ってくれるきっちゃんが私はやっぱり好き。

きっとこのバラには、特に意味なんてないんだろうけど…


「俺がこんなことすんのお前だけだからな」

『え……?』

「30分後、休憩だからそれまで仙道と待っててくれ。」

『あ、え…?』

「一緒に回りたいんだろ?」

『あ、う、うん!うん!』


首を縦にブンブンと振る私の返事を聞いて、きっちゃんはまた裏へと戻って行ってしまった。


「バラの花言葉、調べてみたら?」


ニヤニヤとする仙道くんに言われて早速スマホを取り出して検索した。

検索結果を見て思わずきっちゃんを探すと、きっちゃんの顔はプシュー…と湯気が出るほど顔が真っ赤にふるふると震えて立っていた。





Fin


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