企画用(短め)
□沢北✖先輩マネジ
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『お待たせ、沢北』
たくさんの屋台が並び、たくさんの人で溢れているこの夏祭りが行われる地元の神社の前で待ち合わせをしていた沢北と名前は、待ち合わせの時間よりも少し早くに来ていた沢北を見つけ、名前は走って駆け寄った
沢北も名前に気づき、そちらに目を向けるとその目は見開かれた
「名前先輩、浴衣…!」
『せっかくだからさ。風情あるでしょ?』
初めて見る浴衣姿に、嬉しげにブンブンと首を縦に振る沢北に、くすりと口に手を当てて笑みをこぼす名前は、浴衣を着ているせいか普段よりも仕草が色っぽく見えて、沢北は名前の浴衣姿を焼けつけるように見つめた
「めっちゃ似合ってる…」
上から下まで見つめ、しみじみと言い放った沢北に名前はくすぐったくなり『さぁ、行こ!』と言って、カランコロンと下駄を鳴らして沢北の少し前を歩いた
「あ!待ってよ、先輩!」と駆け寄り、肩を並べて神社の中へと2人は足を進めた
部活終わりということもあって2人はお腹を空かせていて、屋台に立ち寄って買うのは食い物ばかり
「先輩、タレついてるよ?」
牛串を買った名前は、口を大きく開けてそれを食べるものの、それでも口の横にタレがついたようで、くつくつと笑いながら沢北が教え、慌てて名前は舌でタレを舐め取った
『…取れた?』
「取れた取れた。あ、写真撮ればよかったなぁー」
そう言うやいなや、沢北は自身のスマホを取り出して「はいチーズ」と2人で牛串を食べている自撮りをした
……
「ははっ」
沢北がスマホを見つめ、突然に笑い声をあげて名前はギョッとした顔で沢北を見上げた
『え、何?』
「深津さんにさっきの写真を送ったら、””牛串なんて色気がないピョン””って返ってきた」
『色気より食い気でしょ!』
「名前先輩はそうでなくっちゃね!」
沢北の言い方に全く嫌味など感じられず、楽しげに告げられた言葉に名前は感心した
元々、自身の女子力の低さを自負していた名前だが、強豪校のマネージャーをしていて今更、女の部分を見せるのも恥ずかしいというか飾る気にもならず、引くどころか楽しんでいる様子の沢北に安心した
そもそも今日の夏祭りは、深津と河田が強引に、2人で行くようにと仕組まれたものだった
以前から、この日は空けておけと深津と河田に何度も念を押され、名前はちゃんと予定を入れずに空けていると今日になって「浴衣で18時、神社に来い」とだけ言われた
どういうことだ、と思わず眉間にしわを寄せると、スマホが振動し、通知画面を見ると沢北からの連絡で、「18時に待ってます」とだけ入っていた
その連絡を見て目の前にいる深津と河田に目を向けると、2人は何ともまぁ楽しそうな雰囲気で、これは裏があるな、と感じながらも祭り自体は大好きな名前は流されることにしたのであった
けどどうして沢北と2人なのか…と名前は顎に手をあてながら考え始めた
名前と沢北は、部活の時に少し話しをするくらいで特別に仲が良いというわけでもない
それこそ、同学年の深津と河田の方が仲良く話すくらいだ
4人で行けばいいものの、何故2人っきりなのか…
ぐるぐると考えている様子の名前に気づいた沢北が、自身よりもずっと低いところにある名前の顔を、背を丸めて覗き込んだ
「先輩?どうしたんすか?」
『今日、何で私と沢北2人だけなのかなーって』
「えっ」
『別にみんなで来ればよかったじゃんね?』
そう名前が隣にいる沢北を見上げて告げると、沢北は前を向いて大きな溜め息を吐いた
「何で俺と2人か、わかんない?」
『うん。わかんない。』
名前が即答すると、「全然、意識されてないじゃん…わかってたけど…」と口先を尖らしてブツブツと呟く沢北に『なんか言った?』と聞こえなかったが聞き返すも、しばらく黙ってしまった沢北に名前は首を傾げて沢北から屋台へと目移りした
『あ!沢北、フランクフルト食べたい!………あれ?沢北?』
隣にいたはずの沢北に振り返るも、沢北がおらずにキョロキョロとあたりを探すが、人混みの中、いくら沢北が背が高いと言えど見つけることができず、とりあえず1人でフランクフルトを買い、スマホを見ながら食べた
「あ、先輩!寄るなら寄るって言ってよ!」
『言ったよ。でも沢北がいなかったんじゃん。』
「え、俺?」
何処からともなく現れた沢北は、自分を指さしてギョッと目を丸くした
『うん。沢北が悪い。』とさも当然のように告げた名前はフランクフルトを食らう
「…てか美味そうっすね」
『うん、美味いよ』
「一口ちょうだい」
『え。…自分で買いなよ』
「ちぇっ。ケチ。」
口先を尖らして「じゃあいいや」と食べることを諦めた沢北を他所に名前は沢北に取られる前に、と急いで食べ切ったフランクフルトのゴミを捨ててまた人混みの中を歩こうとすると…
「ん。」と沢北は名前に手を差し出した
瞬時に手を繋ぐために差し出された手だと理解した名前ではあるが、どうして手を繋ぐのか…
しばらく何も言わずにその手をジーッと見つめると、痺れを切らした沢北が先に口を開いた
「手。」
『…?』
「手、貸して」
『えっと…?』
「手。繋ご。」
ハッキリと言われたものの、何故に手を繋ぐ必要があるのかと云々と考える名前にまた痺れを切らした沢北は強引に名前の手を取って自身の手と絡めた
驚く名前を他所に、グイグイと繋いだ手を引っ張って人混みの波に乗って歩きはじめた沢北はほんの少し照れ臭そうだ
『恥ずかしいんなら繋がなきゃいいのに…』
「ち、ちがうっすよ!!」
『ふーん…?』
「うぐッ…」
つい図星に声が大きくなった沢北に、目を細めて見つめる名前は慌てる様子の沢北に思わず吹き出す
可笑しそうに笑う名前に、沢北は後頭部をガシガシと掻いて無意識に繋いでいる手の力を強めた
強く繋がれた手に気づいて、名前は沢北を見上げた
「だって名前先輩、ちっせぇーからすぐ見失うんすよ」
『なんだとー?』
嫌味っぽく告げた沢北に、いつもなら沢北の坊主頭をグリグリと撫でまわすのに、今は手が繋がれているためにそれは叶わない
屋台へ寄るたびに離れる手だが、人混みを歩く時は必ず手は繋げられ、名前も慣れた頃には2人の心の距離は近くなっていた
………
「へぇー!じゃあ先輩、漫画とか好きなんすね!」
『休みの日は漫画ばっかり読んでるねー』
「しかも少年系が多いんすね?」
『うん。』
「じゃあ今度、先輩の家にお邪魔して読みに行こうっと」
『じゃあ沢北も何か漫画、持って来てね』
「りょーかい」
しれっとお家デートの約束を取り付けた沢北は内心、ガッツポーズを決めていた
『結構、歩き疲れたなー』
「じゃあ神社出てすぐそこの公園で休む?」
『うん、そうする』
地元の小さな神社はすぐに周り終わり、屋台を満喫した2人はすぐそばの公園へと行き、ベンチに座って休んだ
夏なだけあって空はまだ明るく、沢北は自販機で飲み物を買ってそれを名前に渡した
『ありがと』
「…先輩、今日は楽しかった?」
『うん、楽しかったよ』
「よかったぁー…」
心底、安堵している様子の沢北に名前は首を傾げた
『沢北さぁ、深津と河田に何か言われた?』
「え、どういう意味っすか?」
『無理矢理、私と2人で夏祭りに行くように言われたんじゃないの?』
今だに、何故2人で夏祭りに行くことになったかわからない名前は考えていた
先輩後輩という関係にしてもあれこれと優しい沢北に、深津と河田のことだから何かを言われ、逆らえない沢北が仕方なく今日、夏祭りに自分と行かされているのではないか、と推理したのだ
「違いますよ…」
『え、違うの?』
あっさりと名前の推理は違っていたとわかり、ますますわからなくなった名前は、うーんうーんと頭を悩ませた
その様子に沢北はまた大きな溜め息を吐いた
「あの2人は俺のためにしてくれたというか…」
『え?』
「俺が…名前先輩を夏祭りに誘うのを躊躇ってたから協力してくれたんすよ…」
バツが悪そうな顔をする沢北に名前は目を見開いた
さすがの名前もここまで来ると段々とわかってきたのだ
『何で躊躇ったの?』
「先輩が俺の事なんとも思ってないのはわかってたし、もし断られでもしたら嫌だし」
後頭部をボリボリと掻きながら拗ねたように告げる沢北に、そういえばうちのエースはプライドが高かったなーと名前はくすりと笑みを零す
『沢北って女の子のファンいっぱいいるじゃん?なんで私なの?』
何故か面白くなってきた名前は他人事のように聞いた
だが沢北はすぐに「飾らないところ」と答えた
「先輩ってドジだけど一生懸命だし、やりたいようにやるし。だから飾らないところが好き」
『す……き……?』
「あ、やべぇ…オレ今、告った…?」
自分が吐いた言葉を思い出した沢北は、のああああ!と頭を抱えた
キョトンとしていた名前だが、あまりに激しく後悔している様子の沢北にお腹を抱えて笑った
「格好悪ィ!ちゃんと告りたかったのに…!」
『沢北らしくていいんじゃない?』
「それ、どういう意味っすか!!」
『すーぐ泣く』
「ちくしょー!」
スン…と少し泣く素振りを見せる沢北に、名前は呆れながらも口に弧を描いていた
『そっかそっか、沢北がね〜。あの沢北がね〜。ふーん?』
「……先輩、面白がってる?」
『ちょっと。』
「……………」
ちぇっ…と拗ねる沢北は少し考える素振りを見せて、名前に向き直った
「インターハイ…」
『ん?』
「インターハイ終わったら先輩は引退するんすよね?」
『うん、そのつもり』
「じゃあインターハイが終わってから返事、欲しい。」
『…そだね。それまではインターハイのことだけ考えよ』
「うん!」
インターハイまでにどうにかして名前を堕とそうと意気込む沢北であった
★おまけ★
「何やってんだアイツは」
「まぁ告白はしたピョン」
「ありゃあ告白かぁ?」
「沢北だピョン。仕方がないピョン。」
コソコソと覗いている人物がいたとか…
終われ