企画用(短め)
□仙道✖マネジ
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「名前ちゃーん」
『?』
「寄り道して帰ろー」
夏休み。午前中から部活が始まっていたこともあり、この日は早くに練習が終わった
夏なだけあって外はまだ暗くはない
そして今、寄り道して帰ろうと誘って来たのは同級生で、バスケ部のエースでもあり、この夏からキャプテンとなった仙道彰
マネージャーである私は何かと絡まれる
部活終わりのお誘いも珍しくはなく、いつも断るのだけど…
『…いいよ。どっか連れてって』
「おっ?やった、マジで?」
いつも断るのに今回は了承したからか一瞬、驚いた表情を見せたがすぐにいつもの調子のいい笑顔を見せた
―――そして私の返事を聞いた仙道は何故だかすぐに消えていなくなった
『……は?』
呆然と立ち尽くして数秒後
「名前ちゃん、お待たせ」
自転車に乗った仙道が現れ、安堵の溜息を吐いた
後ろに乗って、と言われたので言われるがまま荷台に乗って仙道の服をぎゅっと掴んだ
「よし、行くよ?名前ちゃん」
『うん』
仙道が自転車をこぎ始めた瞬間、後ろの方で「仙道!俺のチャリ返せー!!」と叫んでいる越野の声が聞こえたような気がしたけど気のせいかな、気のせいだよね、うん
「危ないからちゃんと掴まって」
『え?』
「こーこ」
キッとブレーキを踏んでわざわざ自転車を停め、私の手を掴んで自身の腰に回させた
またされるがままな私はしっかりと仙道の腰に手を回して掴まり、それを確認した仙道はまた自転車をこぎはじめた
『どこ向かってんの?』
「海」
『海!?な、なんで?』
「なんとなく。海、見たい気分かなって」
『え?』
「今日は落ち込んでるみたいだったから」
『…………』
―――ファーーーーーン
「名前ちゃんのことずっと見てたからわかるよ」
『え、なんて?』
タイミング悪く車道を走るトラックが通り、仙道の声はかき消されて聞こえなかった
聞き返しているのに仙道は軽く首を横に振って、「いや別に」と言い放った
それにしても仙道は何故、私が今日は落ち込んでることがわかったんだろ…
朝から家や学校でも理不尽なことがあって嫌なことが続いていた。それは部活の時でも…。
今朝のこともあって家には帰りたくないなー…と思っていた矢先に仙道からのお誘い。どこでもいいから連れてって欲しかったから仙道のお誘いに今回は乗ってみた
…………
……………………
『足、気持ちー!』
2人とも靴も靴下も脱いで足だけ浅瀬のところで海に入っていた
練習で汗をかいて蒸れた足は、海にさらされれば気持ちが良かった
「そりゃ!!」
パシャン!と仙道が海を足で蹴り、その際に舞った水しぶきが名前の制服に少しかかり『あああ!』と声を上げれば仙道は口を大きく開けて笑った
そんな仙道に名前はムッとし…
『お返しじゃい!!』
「パンツ見えるよ!?いいの!?」
名前が海を蹴る前に仙道が身構えながらそう声を上げれば『バーカ』と言って手で思いっきり仙道に海の水をぶっかけた
「顔は反則だよ、名前ちゃーん」
海水が口の中に入ったのか「しょっぱ!」と眉を顰めながら呟いた仙道に、名前はケラケラと笑う
そんなお腹を抱えながら笑っている名前を見て、仙道は眉を下げて安堵したように口角を上げた
「今日は何があったの?」
『えっ?』
突然の仙道の優し気な声に名前は素っ頓狂な声を上げた
そして仙道を見つめると、仙道の目はとても優しい目をしていて…
『今日は…』
「うん」
『今日は…色々あったよ…』
顔を伏せながら告げる名前に、今日あった出来事を言う気がないと悟った仙道は無理に聞こうとは思えず、それなら今日あった嫌な出来事を忘れさせるほどのことをしようと名前を見据えた
「名前ちゃん」
『ん?何?』
「…ごめんね」
『え、何が』
仙道が真っ直ぐ名前を見据えて謝ったかと思えば、名前の身体をヒョイッと米俵のように持ち上げて、バシャバシャとそのまま海の深い方へと歩いていく
『は!?何!?降ろして!!』
困惑して落ちないように仙道に抵抗をしてみるが「暴れたら落ちるよー」と軽く告げて名前のお尻をポンポンと叩いた
『ふざけんな!イケメンだからって許されることじゃないz…
バシャン!!!と名前が最後まで言いきる前に海の中へと落とされた
『………意味わかんないんだけど。』
「はははっ」
『はははっ!…じゃないよ!!』
全身がびちょ濡れとなった名前のイライラは絶好調
砂浜へと向かって歩くが、全身濡れたまま一人で帰るわけにもいかないことに気づいてまたイライラ
『もう!!どうにかしてよ!!!』
イライラしてどうしようもない名前は仙道に向かって叫ぶ…が
「あははは」
そんなイライラした名前にお構いなしにヘラヘラと笑う仙道に、誘いなんて断ればよかったと激しく後悔した名前は頭を抱えた
「でもさ、今日イチ腹立ったでしょ?」
『当たり前じゃん!!!』
「じゃあ成功」
『…は?』
「名前ちゃん、今日は俺のことしか考えられないね」
へへ、と笑う仙道に名前は目を見開いた
今日の嫌な事を忘れさせようとしてくれたのかと…
だけど。
『ねぇ、海の中に落とす以外の方法もあったんじゃないかな』
「あ、名前ちゃんの今日の下着は青か…陵南の青だね」
『うわあああああ!!!!!』
名前は恥ずかしさと苛立ちにワケがわからなくなって、ドン!と仙道の胸に突進した
仙道もそれを受け入れて、そのまま二人は海の中…と言っても浅瀬でボチャンと浸かった
「ははっ押し倒された」
『そのまま倒れると思わなかったから』
仙道に馬乗りになった名前は仙道を見下ろす
『てか頭打ってない?大丈夫?』
「大丈夫…じゃないかも」
『え、うそ』
「イテテテテ……」
『嘘やだゴメン』
頭を抱えて痛がる仙道の顔を覗くと、素早く仙道の手が名前の後頭部を支え、ちゅうっと唇を重ねられた
一瞬のことで何が起こったか頭で処理するまで時間がかかり、理解したとしても何と文句を言えばわからず…
「うそだよー」
『…………』
「魚みたいに口パクパクさせちゃって可愛いね、名前ちゃん」
カッ!となり、すぐに文句が出なかった名前は、バシャン!!と仙道の顔の横の海を叩き、仙道の顔に水しぶきがかかった
「ああ!鼻に!鼻に入った!海水が鼻に入った!痛い!うあ!目にも入った!痛い!」
『ざまぁ』
名前は声低く、そう告げて仙道の上を退いて砂浜に立ち、幸い、部活で使っているタオルがあることを思い出してそのタオルで簡単に拭き、肩からタオルをかけてできるだけ濡れたシャツから見える下着を隠した
しばらくして復活した仙道がこっちへと歩いてき、名前はキッと仙道を睨みながら息を大きく吸い込み…
『海に落とすわ、キスするわ、頭湧いてんの!!?』
「かもねー」
やっと文句を言えた、と安堵する間もなく、ニコニコと笑う仙道にまた腹が立って名前はプルプルと怒りに身体を震わせる
『ファーストキスだったのに!!』
「お、マジで?やったー」
『あ、あやまれ、バカ!!』
「イイじゃん別に」
『よくないから怒ってんの!!』
「え、怒ってるの?」
『どっからどう見ても怒ってるでしょ!!』
「あはは、そっかー」
名前は『ふぁっく!』と心の中で呟き、濡れていなきゃ今すぐにでも一人で帰れるのに、と地団駄を踏んだ
「落ち込んでる名前ちゃんは嫌だけど怒ってる名前ちゃんは好きだなー」
『…は?』
「ずっと俺のこと考えててほしい」
ジッと見つめられながら言われて名前がまた口をパクパクとさせていると「顔、真っ赤っか」と笑う仙道
「ずっと俺のこと考えててほしいから、ずっと怒ってていいよ」
『……………』
「あれ…でもずっと怒ってたら俺のこと好きになってくれないか…じゃあダメだ」
『さ、…さっきから一人で何言って…』
名前は口先を尖らし、目を泳がしながらボソリと呟くと…
「仲直りしよ?」
仙道はギュッと手を掴み、名前の顔を覗き込みながら告げた
カッカッと熱くなる顔に気づかないフリをして名前は手を掴まれたまま…
『仲直りも何も私は許さないから…』
「えー?許してよ」
『許さない…』
「どうしても?」
『ど、どうしても…』
「うーん…」と困ったように声を出し、名前の顔を覗き込むのをやめ、空を見上げて頭を悩ませた仙道は「じゃあ…」と何か思いついたように声を出した
「許してくれるまでチュウしちゃおっかな?」
『…頭、湧いてるね。』
「かもね」
そう言って顔を傾けながら近づいてくる仙道の口元を名前の手が覆い、阻止する
『わ、わかった…許すから…』
「うーん…それはそれで残念」
仙道は名前に近づけていた顔を離し、名前も仙道から一歩、二歩と後ろに下がって距離をとった
「帰ろっか」
『…うん』
仙道は先程、浅瀬の方で倒れ込んだのでまだまだ乾いてはいないが名前はまだ、仙道と倒れ込んだとはいえ、仙道の上に倒れ込んだため、足しか海には浸かっておらず、夏ということもあって乾いてきていた
濡れた髪は団子にしてくくり、海へ来た時と同様に仙道の後ろの荷台に乗って家の前まで送ってもらった
「あ、そうだ名前ちゃん」
『なに?』
「好きだよ」
『…………』
「来年は、恋人同士として海に遊びに行こうな」
私達の忘れられない夏はまだ始まったばかり…
Fin