企画用(短め)

□藤真✖幼馴染
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高校3年生の夏。



健司の今年の夏は

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐終わりを告げた




『惜しかったね…』

「あぁ…」

『でも健司たちには冬があるから』

「あぁ。もちろんだ」


藤真健司は上を見上げて微笑んだ
既に前に向かっていることに安堵する

幼馴染として試合を応援するのは当然のことで、1年の頃からスタメンであった彼のことは、小さい頃から2番目に理解し支えていると自負していた

わたしはあくまで2番目…

何故なら…


『それで…妹ちゃんとはどうなの?最近』

「あー………彼氏ができてな…」

『え、そうなの!?いつ!?』

「結構、前に…」

『そ…そうだったんだ…』


健司を見ると微笑んでいるものの眉は下がっていた

藤真健司
選手兼監督で仲間から信頼され人望も厚く、彼は完璧に見えがちなんだけど…

実の妹に恋をしている

それを知った時はショックだった
クラスメイトならまだしも、実の妹に恋をするだなんて夢にも思っていなかったし実際にそういう人がいるとは思わなかったから

あまりにもシスコンがいきすぎているとは思っていたが…まさか妹相手に恋をするだなんて…と


『…大丈夫?』

「うーん…まぁ、思いの外な」

『嘘つけ…』

「本当だ」

『彼氏に会わせろとか言ったんじゃないの?』

「まさか…言うわけないだろ?そんなこと」

『え………本当に?』

「本当だって言ってるだろ?」


怪訝そうに言い放つ健司にわたしは首を傾げる
男の影が見えると、勝手にケータイを見るような男だった健司が妹に彼氏ができたのに何にも言わないだなんて…


「実はな…結構、前に諦めたというかな…」


前髪をくしゃっとした健司の横顔は、腕で見えないけどきっと泣きそうになってるんだろうなと思った
今まで健司が泣きそうになった時、どんなにわたしが抱きしめてあげたいと思ったか…

でもわたしはあくまで幼馴染で唯一、こういう話しができる女だから…

それでもいい
それでも都合の良い女になろうと決めたのはわたしだ

何も言わず、健司が口を開くのを待った


「アイツは俺のことを何とも思っていないのに一方的に気持ちを押し付けるのはいけないと思ったんだ」

『………………』

「それにアイツを幸せにするなんて無理だろ?常識的に考えて…」


どこか悲しげな声色にわたしの目に涙が滲む

いや、何でわたしが泣きそうになってんの…
でもこれは同情とかそういうのじゃなくて…

健司が真剣に妹のことを想っていたことを再確認させられたから…わたしが悲しくなってしまったの

何度だって思い知らされたのにどうしてこうも受け入れることができず、心の隅のどこか都合良く期待をしてしまっていたんだろう
健司は間違いなく妹のことが好きだったのだ


「いやでもま、俺にとってはもう過去のことだ」


健司は顔を上げてわたしに笑顔で言い放つ
その顔は本当に吹っ切れたように見える


「失恋を忘れるには次の恋って言うしな?」


わたしにニッコリと首を傾げながら言い放つが、さっきの健司を見てしまうとまだ引きずっていることは見え見えで…


「ところで名前。」

『へ?』

「お前は彼氏はいないのか?」

『今更…いないに決まってるでしょ』

「まぁ、知ってたけどな」

『ッ!!?』


ムッとするわたしに健司は嬉しそうにはにかんだ

健司は…ずるい
それだけでわたしの胸はきゅんきゅんとうるさい


「俺…試合に負けた時、何故か名前を探した」

『え…?』

「そしたらお前…客席で泣いてただろ?それなのに俺の前では笑っててさ…」

『……………』

「そん時になんかホッとしたんだ」

『?』

「そういえば、いつも俺のこと見てくれてんのも気にかけてくれてんのもお前だなって」


鼻の奥がツーンとして、溢れだしそうな感情を必死に抑える


「俺、名前がいないとダメみたいなんだ」


優しく微笑む健司にわたしは下唇を噛んだ


『そんなこと言われたら…わたしが次の恋に進めなくなる』

「進まなくていい」

『でも…さっきの健司はまだ引きずってるように見えたから…』

「いや。もう過去のことなんだ。アイツよりも俺はお前と居たいって思うよ」

『……本当に?』

「本当だ」

『信じていいの?』

「信じろって言ってるだろ?」


ついに流してしまった涙を健司が優しく親指で拭き取ってくれた


「信じてもらえないかもしれんが…俺にはお前が必要なんだよ」


わたしの髪をサラッと掴みキスを落とした
そんなことができてしまう健司をわたしは信じようと思う


「……返事は?」

『信じる…健司を信じてあげる』

「何で上からなんだよ」


フンッと鼻で笑い、頭をぐりぐりと乱暴に撫でられて手が離れる瞬間には軽く頭をポンッと押された

この時間が永遠に続いてほしいのに昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響く


「今日は部活ないから下駄箱で待っててくれ」

『仕方ないなー。待ってあげる』


また上から伝えるわたしに健司は嬉しそうに先に空き教室を出た

先ほどまで2人で外を眺めていたために開けていた窓を閉めてわたしも空き教室をあとにする



健司に上から出るのはせめてもの今までの仕返し…


なんつって…



Fin


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