小説

□取り戻したいものはいつだって
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精神が狂ってしまいそうだった
久しぶりに会った幼馴染達は変わっていた
オスカーには拒絶され、フーゴは違法となる悪魔と契約し魔人となっている
何をどうすればいいのか、名無しさんにはわからない
自分にできることが何なのか考えても考えても答えは見つからなかった
喉は固形物を許さず、ほとんど水だけで過ごしていた


【――またしても爆弾魔が現れました。今回の被害は――】


けれど、いつまでも自宅に引きこもっているわけにはいかない
日々流れるニュースに、ついに名無しさんは体を動かした
向かう先は警視庁。オスカーに会いに行くのだ
オスカーもフーゴが魔人となっていることは知っているだろう
・・・なら、一緒にフーゴを取り戻してあげたい
協力して正気に戻してあげたいと願う
オスカーが自分を嫌っていても、拒絶していても、今だけは力になりたい
名無しさんの気持ちは今までより強い


「今、隊長は仕事で手が離せません。また今度」

「そんな・・・少しでいいんです!オスカーと話しを」

「お引き取りお願いします」


ほぼ追い出されたようなものだが名無しさんは諦めないし、こんなことは想定済みであった
裏に回り壊れている窓から中へ入った
早めにオスカーのことを見つけなければならない
素人の名無しさんが訓練された警察に見つかるほうが当たり前の出来事だ
どこに何があるか知っているわけがないので適当に歩くことしかできない
なんとなく、地下へ降りてみる
そして声が聞こえる部屋へとたどり着いた
・・・オスカーの声である
だがその声は苦しそうだ


「・・・オスカー?」


普通の扉なのに重く感じた
中は電気がついていない
その中で、オスカーがたった一人中央に立っていた


「・・・ハァッ!・・・?誰・・・だ・・」


嫌な汗が、伝う
鼓動がゆっくりとなり一回一回の血液の送り出しが大きくなる


「オスカー?」


ゆっくり、ゆっくりと振り向くオスカー


「・・・あ」


漏れ出たのは声とも息とも言えない
目が合ったオスカーの足元には、見慣れない魔法陣
魔法陣は顔にも描かれ、黒いオーラを纏い、赤く光る瞳が名無しさんを見つめた
気づけば、外へ飛び出していた
あぁ、あぁ、あぁ、あぁ、あぁ
名無しさんはあまりにも受け入れたくない現実に、海にこの身を投げてしまいたかった
あれは悪魔との契約だ
何故、どうして、オスカーが
もちろん原因はフーゴであろう
走っていて名無しさんはそう思う
自分はどうしたらいいのだろう
オスカーを助けたかった。謝りたかった
それだけなのにどうしてこんなことになっていえるのだろう
フーゴも生きていたのに、喜ぶはずなのに
あの時の、オスカーの気持ちがわかる気がした
今、名無しさんは誰も頼れない
どうしたらいいのかもわからない
現状の絶望。先が読めない不安
オスカーも同じような気持ちだったのではないか
あぁ誰か、私を助けてください








名無しさんはどうすることもできなかった
だからこそ、この方にお願いするしかなかった
この街の最高権力者――ラプラス市長ラッセルバロウズに
彼の元へ訪れた名無しさんは、追い出される覚悟で懇願する
神へ縋るように


「・・・成程。それは大変だったな」


ラッセルは、地べたに這いつくばり泣きながら助けを求める名無しさんに顔を上げるよう命令した


「ドレッセル兄弟をどうしても、助けたいか」

「はい」

「そのために、何をしてもいいか?」

「はい」

「社会で生きていけなくなってもか?」

「はい」

「禁忌を犯してでも、その覚悟はあるか?」

「はい」

「解毒剤のない毒は毒で消せー・・・」

「・・・?」


バロウズの優しい笑みが名無しさんの心へと近づく


「なら、お前も魔人となりドレッセル兄弟を救ってやれ。大丈夫だ・・・俺も、協力する」


愚かにも、まだ名無しさんは子供の分類であっただろう
大人の立場にいたとしても、先を生きる大人の考えは読めない
差し伸べられた手に、名無しさんは自分の手を重ねる
バロウズの笑みが強くなったのに名無しさんは気づかないままであった
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