小説
□今日はお休みなのです!
1ページ/2ページ
唐突に命じられた休暇にオスカーは戸惑った
「オスカーちゃんたまには休むことも大事よ?」
「はぁ」
「ちなみに、鍛錬は休みに入らないからね」
まさにそうしようとしていたのに、心を読まれ少しばかり目を見開いてしまう
しかし、休暇など鍛錬が禁止された時間なんてどう過ごしたらいいのかわからなかった
本を読む。勉強する。寝る
何をしようかと、考えているとジーノは更に言葉を続けた
「貴方、休みの取り方が下手くそそうだから名無しさんちゃんもお休みにしてあげたわ。是非二人で外にでも行ってらっしゃい」
「……名無しさんと?」
「そうよぉ〜〜ンフ♡デートってところかしら」
「……」
「コラコラ。怖い顔しないの」
オスカーは名無しさんのことが苦手であった
苦手、というのは近寄りがたいことではなくウンザリしてしまう方の苦手だ
いつも巫山戯て、軽い口は止まらず、テンションが高く、目を離せば何をするかわからない
悪い子供がそのまま何も学ばず大人になってしまったかのような人物なのだ
しかし、職務はびっくりするほど真面目にこなすので何も言えない
「っというわけで!この名無しさんちゃんがついているので、オスカー隊長はそりゃもう楽しいお休みを満喫できるはずですよ!」
「頼んだわよ、名無しさんちゃん」
「任せてくださいジーノ管理官!」
オスカーは頭を抱えた
こんなうるさい奴と休日を共にするくらいなら、一日寝ていたほうが全然マシだ
しかしジーノの命令なので逆らうことはできない
憂鬱な気持ちを抱えながら眠りに入った
次の日
例の休みの日である
ジーノに無理やり起こされ、普段とは違う服を着させられ、玄関へと向かわされた
心境は操り人形だ
「名無しさんちゃんはもう先に外で待ってるわよ。じゃ、いってらっしゃ〜い♡」
背中を押されて外へ出る
乗り気ではないオスカーに反し、空は清々しいほど綺麗であった
寒くもなく、暑くもなく丁度いい気温である
こんな日はランニングでもしたかった、と思っていると横から声をかけられた
キャンキャンうるさい、あの声だ
「オスカー隊長!おっはようございまぁーす」
「朝からうるせぇ」
「そんなオスカー隊長は朝から顔が悪いですね」
「おいそれはどういう意味だ」
「いやぁ何でしょうね。ささ、行きましょう!時間は有限ですよ」
名無しさんもやはり普段とは違う恰好をしていた
オスカーは名無しさんの警官服とトレーニングウェアしか見たことがない
ので、ふんわりとした白いワンピースにいつもはまとめている髪を下ろしている姿には、少しばかりドキリとしたのは事実である
そういえば名無しさんも女だったな、と今更になって気づいた
どうして彼女は、よりによって警察という職業を目指したのだろう
名無しさんぐらいの年齢ならばこうして遊びたい年だろうに、と思う
しみじみ考えていると今日ぐらいは付き合ってやってもいいかという気持ちになった
「で、何するんだ?」
「ショッピングしましょうショッピング!」
そう言われて連れられた場所は人が多い繁華街
オスカーはあまりの人の多さに眉頭を顰める
あまりこういった場所には馴染みがなかった
やはり女子というものはこういうところが好きなのだろうか
名無しさんは目を輝かせてキョロキョロしている
目を離せば一人でどこかへ行ってしまいそうだ
「オスカー隊長!オスカー隊長!まずあそこに入りましょう」
「わかった。わかったから引っ張るんじゃねぇ」
名無しさんがまず入った場所は、門に髑髏が飾ってありワンレッドのカーテンがボロボロに垂れ下がっているお店だった
中は一点明るいシャンデリアがあるだけだが、そのおかげでアクセサリー一つ一つが、シャンデリアの光を反射し輝いていた
なんとも……ゴシックなお店である
店員も個性的な恰好に、関節が曲げられないんじゃないかと思うぐらい指輪をつけている
黒い口紅が塗られた唇から「いらっしゃいませ」と呟かれ、居心地が悪い
名無しさんはこういうのが趣味なのか……とオスカーが名無しさんの新たな面を知り複雑だ
「オスカー隊長これとかどうですか?」
掌にちょこんと乗せたのは牛の頭蓋骨をモチーフにした金色の指輪
「いや、え……。……名無しさんにはもっと大人しいのが似合うんじゃねぇか」
「え?」
「そもそも俺たちは警察だ。その、見た目というか治安というか、でも人の趣味にあれこれ言うのもあれだが」
言葉が上手くでないのがまどろっこしい
名無しさんが相手なのだから言葉に遠慮する必要がないのは分かっているが、どうも名無しさんを深く傷つけてしまう予感がして言えなかった
「え、私じゃなくてオスカー隊長にですよ」
「は?」
「いやオスカー隊長こういう、V系ロックバンドが好きなのかと」
「は?」
「え?」