俺今、猛烈に腹が立っている。
もはや、言葉に表せないくらいな。
『んでさぁ!聞いてるの!?乱馬!』
「…へいへい。聞いてますよぉ。」
嫌味っぽさを含めて言ったつもりだったのに効果無し。全く意味のねぇ反抗だった。オレンジジュースをストローで吸い込むと氷で冷えていて、なんとも丁度いい味と冷たさ。グラスの水滴を指で弾いてみた。
『んもう!良牙ったらいつ帰ってくるのよ…』
「んなこと俺に聞くな!どっかで道に迷って野垂れ死んじまったんじゃねえのか?」
右手をヒラヒラさせて見せると向かい側に座った名前は瞳を少し濡らした。
…やってしまった。
『どーしてそう酷いことばっかり言うの!?乱馬のバカ!』
「バカっておまえなぁ…」
軽く2時間は話を聞いてやっているというのにこの扱い。酷くねぇか?お前じゃなかったらとっくに逃げ出してるってのによ。
『良牙…どこいっちゃったのかな』
そう言って長いまつ毛を伏せる名前。こいつの言う良牙は何かと俺をライバル視してくる面倒な奴だ。そしてその良牙という男はあろう事か俺の想い人であるこの名前を惚れさせた。しかしその良牙は修行に出ては帰ってを繰り返す男な上に引くほどの方向音痴。いつもより帰りが遅いと名前は無駄な心配をして俺に2時間くらい半べそですがり付いてきたのである。
「…あーあ、面白くねぇ」
俺の小さな嘆きなんか知らん顔して良牙どこいっちゃったの…と机に伏せる。柔らかい髪から香るシャンプーの優しい香りが鼻をくすぐる。どっから見てもやっぱ、かわいいな…
(ほんっと、なんで俺じゃねえんだよ)
こいつの口から他の男の話を聞くだけで腹立つしその相手が良牙ってのも余計腹立つ。なんで良牙なんだよ、くそ。もし俺ならこんなに悲しい顔させねーし、もし俺だったら良牙みたいになくなったりしない。…多分。
あー、くそ、その可愛い顔とか、余計腹立つ。人の気も知らないで。
『ねえ、乱馬?乱馬はこんなにあかねを悲しませるの?』
やっぱり格闘家はみんなこうなの?と続けた。
「あのなぁ?格闘家を一括りにすんな。それから、あかねは親同士が勝手に決めただけだっつーの!」
『…でもよく考えたら私良牙のこと一方的に好きなんだった』
またため息をひとつこぼす。あー、見てらんねぇ。だいたい良牙はあかねしか見えてねぇのに。なんて言える程俺の心は鬼じゃない。こーゆう時どーすりゃいいんだよ。女心なんてはっきり言っちゃわかんねーし、何より相談とかされても修行ばっかりの俺は恋愛とかしたことねーしアドバイスどころかいい言葉なんて一つもかけてやれねぇ。と一人で頭を抱えていると名前はこう呟いた。
『次にね、良牙が帰ってきたら好きだって言うつもりなの。』
「は!?」
だめだ!そんなことだめだ!それに良牙もいつここに帰ってくるかわかんねぇ。あーもう、こうなったらヤケクソだ。言っちまえ!俺も男だ!
「あ、あのよ!俺だったら良牙みてぇに悲しませねぇ!から!1週間!そんだけありゃお前のこと惚れさせてみせっからよ!だから!」
こうして1週間が始まったのだ。