らんま

□花咲くいろは
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『…乱馬のばか。』


夕立上がりの夕方。雲と雲の隙間から夕方の日差しが顔を出している。私の虚しい呟きは蝉の鳴き声と共に電車のブレーキで消えてしまった。

待ち合わせ場所にはぴったりの駅は人で溢れ返り、その中でも同じ歳くらいの男女で賑わっていた。何を隠そう、今私たち学生は夏休みなのだから。


私の目の前を浴衣姿のたくさんのカップルは行き来し、夏を感じさせた。


今は夏。夏と言っても夏らしいことどころか私の恋人、早乙女乱馬とは恋人らしいことはこれ一つとして出来ていない中であのぶっきらぼうな乱馬が今日、花火を見に行かないか?と誘ってくれたのである。浮かれた私はタンスの奥底に眠る浴衣を引っ張り出し、髪をまとめ上げ慣れない下駄を履いて出掛けたはいいが、乱馬との待ち合わせの時間からはとっくに1時間後を指そうとしている。


『あいつが言い出したくせに…もう帰ろうかな。』


肩を落としてがっくりした私はもう帰ろう…と家へ足を進めた。



「…こら!待て!」


聞き覚えのある声にはっとして振り返ろうとするも、意地が許さなくてつい、聞こえないふりをしてしまう。


(1時間も遅れてくる乱馬が悪いんだから)


声のする方に背を向け、人の波を避けて帰ろうとすると私の恋人は華麗な身のこなしによって容易に私の道を塞いでしまう。


「ったく。やーっと捕まえた。」
『乱馬が、遅いのが悪いんだから!』
「あー…それは悪かった。」
『だいたいなんで1時間も遅れるわけ!?』


抜が悪そうな乱馬はだから、それはその…と顔を赤くして何やら口篭る乱馬。困り果てる私。



『もう!なんなのよ…』
「これだよ!!これ!!」



そう言って後ろに回した両腕からは乱馬の広い腕の中で溢れる向日葵の花束。整った顔立ちの乱馬にはとってもよく似合っていて、思わず見とれてしまう程。


『これは…?』
「お前に…名前にやろうとおもってさ。昨日あかねから向日葵の花言葉聞いてよ、そしたらなんかお前にあげたくなったっていうか…なんていうか…」


とにかく!貰え!!


とぱさりも私の腕に押し込められた向日葵達が眩しいくらいに綺麗で、目の前の赤く染まった乱馬は少し照れくさそうに笑う。


嬉しくてつい目頭が熱くなるのを感じると、少し遠くの方でぱん、と花火の開く音がした。


「いっけね!始まっちまった!行くぞ、名前!!」
『え、ちょっとどこに…』


言い終わる間もなく私をお姫様抱っこした乱馬は屋根を目掛けて高く飛び上がった。


『ちょっと乱馬?どこに行くの?』
「いっちばん、花火が良く見える特等席を見つけたんだよ。特別な?」


ぱちん、と微笑むと私を抱いて屋根から屋根へと飛び移る乱馬。その私の腕には夜空に照らされて色を重ねる向日葵の花束がゆらゆら、夜風に当たっていた。



(あなただけを見て。)




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