《夢100》夢小説

□甘い口付けを君に
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魔術の国、ソルシアナ城内。


太陽が傾き始めた午後。
今日は初めて政務で他国へ行っているミヤが帰国する日。
名無しさんは厨房を借りて手作りケーキを作っていた。



名無しさん(ミヤが初めての政務を終えて帰って来たら、このケーキでお祝いするんだ〜)



焼き上がったスポンジにクリームを塗り、色とりどりの果物を飾り付けて行く。

ミヤが帰ってくるのが楽しみで、無意識に鼻歌を奏でてしまう。



仕上げにチョコレートのプレートに『初めての政務お疲れ様』の文字を書き入れて、そっとケーキの上に乗せて完成した。





名無しさん「…出来た…!…ふふ。ミヤ、喜んでくれるかなぁ?」




ミヤの太陽みたいな笑顔を思い出して、自然と口元が緩んでしまう。


そこへ女性の従者が笑顔で顔を出した。





従者「名無しさん様!ミヤ王子が到着した様ですよ!」


名無しさん「あ!分かりました!…じゃあ、予定通りお願いしても良いですか?」


従者「ふふ、お任せ下さい。ミヤ王子、きっと喜ばれますよ!」



ケーキの事はサプライズで、名無しさんと厨房の人間とこの従者以外は知らない。
この事の相談にのってくれた従者達は快く協力してくれて、秘密のお祝いが楽しみで、皆笑顔で頷いた。










その頃、ミヤは足取り軽く正門を通り、城内へ入る。
従者達がにこやかに頭を下げミヤを迎える。



従者「ミヤ様、お帰りなさいませ!ご無事で何よりです。」



ミヤ「うん!ただいまっ!」



ミヤはいつもに増して明るい声と眩しい笑顔で応える。




ミヤ(あー!早く名無しさんちゃんに会いたいっ!!)




着いて早々、名無しさんの姿が無い事にソワソワし始めるミヤ。




従者「ミヤ様、国王陛下がお待ちでございます。」


ミヤ「うん!」



逸る気持ちを抑えて、まずは初めての自分の政務の成果を国王に報告しなければ。

自分に与えられた責務をきちんと最後まで全うする為、真剣な面持ちに戻り、国王の待つ場所へと向かう。







暫くして国王の部屋からミヤが出て来た。
そこから少し歩き出し、国王の部屋から遠ざかった所で…





ミヤ「…ぃよっしッ!!!」



力いっぱいのガッツポーズをする。
そして、緊張で強張っていた身体からどっと力が抜けた。

そして1番に考えたのは名無しさんの事だった。




ミヤ(名無しさんちゃん、居なかったよな…。よし!部屋に行ってみよう!!)




早く名無しさんにこの事を伝えたいのと、とにかくこの数日会いたかったという気持ちで胸がいっぱいだった。

名無しさんの部屋目指して歩き始めた時、女性の従者がミヤの前に現れ、頭を下げる。




従者「ミヤ様、お帰りなさいませ!」


ミヤ「あ!うん!ただいま!!」






従者はミヤに近付き、小声で話す。





従者「名無しさん様より伝言がございます。」


ミヤ「え!!名無しさんちゃん?!」




ミヤのパァっと明るい笑顔に従者はつられて、ふふっと笑ってしまう。
その反応にミヤは自身のあからさまな態度が恥ずかしくなり、頬に熱を感じた。
小さく咳払いをして、問い掛ける。




ミヤ「そ、それで、名無しさんちゃんが何て…?」


従者「はい、名無しさん様がこの後、ミヤ様のお部屋に伺うので、自室でお待ち頂きたいとの事でした。」


ミヤ「俺の部屋に?…そっか。分かった!」


従者「では、私はこれで…」




終始ニコニコした従者は深々と頭を下げてミヤの前から去って行った。

ミヤは言われた通りに自室に戻る。
扉を閉めてソファーに腰掛け、深く息を吐いた。



ミヤ「やっぱり、初めての政務は少し疲れるんだなぁ〜」



そう独り言を呟き、暫し沈黙する。



ミヤ「名無しさんちゃん…まだかな…」






名無しさんがもうすぐこの部屋に来る。
ジッと待つ、と言うのが性分上どうにも苦手で、ましてや名無しさんが絡むと余計に難しい。


座って間もないソファーから立ち上がり、扉の前に立つ。






ミヤ(…いやいや!これじゃいかにも待ってました!みたいでちょっと格好悪いよな…!)



扉から離れてまたソファーに腰掛けるが、やはり落ち着かずにまたすぐに立ち上がる。

そのまま部屋の中をグルグルと歩き回り始める。



そしてピタッと動きを止めてしゃがみ込み、頭を掻く。
そして深く溜息をついた。





ミヤ「あー…もー…。なんで名無しさんちゃんの事だと、こう…ビシッと出来ないんだろうなぁ……情けない。」



しゃがみ込みんだまま頭を垂れてまた溜息が出る。









〈コンコン〉





ミヤ「っ!!!!」


部屋をノックされる音に驚き、飛び跳ねる様に立ち上がる。








名無しさん「ミヤ。名無しさんです。」


ミヤ(名無しさんちゃんだっ!)




弾かれたように扉へ駆け寄り、勢いよく開ける。
そこには突然開いた扉に驚いたように、クリッとした瞳を見開いた名無しさんの姿があった。






ミヤ「…名無しさんちゃん…」


名無しさん「ミヤ!お帰りなさい!!」











名無しさんは満面の笑顔でミヤに「おかえり」を言った。


ミヤはすぐにパァッと太陽みたいに笑って応える。




ミヤ「…うん!!ただいま、名無しさんちゃん!」


名無しさん(わぁ…ミヤだぁ…)




その大好きな眩しくて優しい笑顔に、胸が高鳴っていった。
少し早い鼓動を誤魔化したくて、会話を切り出す。





名無しさん「国王様とのお話はもう終わったの?」


ミヤ「うん!今回の成果、父上も喜んでくれていたよ!」




ミヤは自分が成し遂げた成果に、国王が満足してくれた事をとても嬉しそうに話した。




名無しさん「…よかったぁ!」




国王に認められたミヤはとても誇らしそうで、それを見ているこちらまで幸せな気持ちになった。






そんな名無しさんの手をミヤがそっと握ってきて、頬が少し熱くなった。





ミヤ「…帰ってきてすぐ名無しさんちゃんが居なくて、ちょっと焦っちゃった…」




少し眉を寄せて口元を緩めたミヤが顔を覗き込んで来る。




名無しさん「…あ…ごめんね…!実は…これを……」




そう言って背後にあるワゴンに視線を移す。



ミヤ「…?それは何??」




ミヤに促されて、ワゴンを部屋の中に入れて、扉を閉めた。
被せてある蓋をそっと開けると…





ミヤ「…ケーキ!うわぁっ…これどうしたの?!」



ミヤが瞳をキラキラと輝かせている。
恥ずかしくなりながらも笑顔でミヤに伝える。




名無しさん「初めての政務達成記念…というか…たくさん頑張ったミヤに、私が何かしてあげられないかなって思って…」


ミヤ「記念…?」


名無しさん「うん!」


ミヤ「…これ、名無しさんちゃんが作ったの?」


名無しさん「うん!」


ミヤ「…お、俺の為に…?」


名無しさん「もちろん!」



ミヤ「…………」


ミヤの顔がみるみる緩んでいって、瞳に涙が溜まっている事に気付き、驚いた。




名無しさん「…え。ミヤ…泣いて……っ!」



言い終わる前に、彼の腕が伸びてきて抱き締められた。



名無しさん「…っミヤ…」


突然彼の逞しい腕の中に包まれて、抑えていた鼓動がまた高鳴った。
少しの間そのまま抱き締められていて、やがて彼の身体が離れる。



ミヤ「…ありがとう…名無しさんちゃん!」


名無しさん「…うん!」



とても幸せそうな笑顔の彼を見て、胸にじんわりと温かいものが広がった。
つられて私も笑顔になった。






ミヤ「美味しそうだなぁ〜!…早速食べてもいいっ?!」



名無しさん「うん!お口に合うと良いんだけど…」



そう言いながら、小皿に取り分けてフォークを渡す。
それを受け取ったミヤはケーキをジッと見つめて無言になった。



名無しさん(…あれ…どうしたんだろ?)



心配になってミヤの顔を覗き込むと、彼と視線が交わる。
そして真っ直ぐ見据えられて、緊張してしまう。


名無しさん(…ど、どうしよう。なにか嫌いなもの入ってたかな…?)




すると彼は満面の笑みを浮かべて言った。



ミヤ「これ…名無しさんちゃんに食べさせて欲しいな…!」


名無しさん「…えっ?!」



思いも寄らない言葉に驚き、パチクリと瞬きをした。




ミヤ「頑張ったご褒美って事で…お願い!」


名無しさん「…わ、分かった…」



そんな恋人同士のやりとりを、まさか今やる事になるとは想像もしていなかったから……。
突然の事に鼓動が一気に速くなっていく。


緊張しながらも、一口分をフォークで取り、ミヤの口元に近付ける。



名無しさん「…ど、どうぞ…」


ミヤ「ふふ、頂きま〜すっ!」



ミヤがあーんと口を開けてパクッと口に含む。
ただケーキを食べる。
それだけの事なのに、なんだか妙に意識してしまい、ミヤの口からゆっくりフォークを離して視線を外す。


だけど、肝心なケーキの味が気になってミヤの顔に視線を戻すと…





ミヤ「…おい、しい…!!」



ミヤは大きく見開かれた瞳をまたキラキラ輝かせていた。
その事に安堵すると同時に、嬉しくて胸がキュンと一瞬苦しくなった。



名無しさん「喜んでもらえてよかった!」


ミヤ「すっごく美味しいよ!…もっと頂戴!」



名無しさん「…もぉ…」




そう言って口を開けるミヤに、頬に熱を感じながらも、またケーキを口に運んであげた。

ミヤ一人分の為に作った小さなケーキは、次々と彼の口に運ばれ、あっという間に無くなった。
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