心の容量

9話
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轟side



2週間なんてのは実際
ビックリするほど、早く過ぎる。



あっという間に体育祭の当日だし
今朝のSHRがつい30分前のようにも思える。



これが、変な緊張のせいなら
俺はその程度で緊張してるってことになる。



......その程度。





ついさっき、緑谷に言った言葉。



“お前には勝つぞ”





それは、たしかに、俺の中で
ひとつの“重石”として留まった。

...というよりは、自らの意思で留めた。




...その重石からの緊張なら...。







轟「...俺は所詮、その程度のヒーローにしか...なれねぇ。」






* * *






体育祭の会場の入場口の前に立つ。





それぞれ適当な場所で待つクラスメートの中で
俺は、緊張した面持ちの哀瀬を見つけた。








轟「...哀瀬、この2週間ずいぶんとバタバタしてたのは...その...。

..........大丈夫なのか。」







この2週間、哀瀬は放課後は特に
忙しそうに走って帰っていた。


体育祭前なのもあったし
走って帰る時の哀瀬の顔も気になったから。




けど、俺が思うほど深刻ではないらしく






「.....ん?

...ああ、大丈夫だよ。
ちょっと病院側にお母さんのことで呼ばれてただけ。」





と、さらりと答えた。



その後に、どう返したらいいか迷う俺を
じっと見て、くすくすと笑った。





「...気になってるの、バレバレ。

...なんかね、よく分からないんだけど...。
........いい方向には、向かってるらしい。

...意識ないのに、いい方向がなんなのかすら分からないけどね。」





言葉の割には、哀瀬の表情が明るくて
内心、ホッとした。







「...とにかく...!

もう、体育祭本番だよ!気合入れないと!」







さきほどの面持ちは
緊張からではなくて、気合からだと納得する。



哀瀬は、グッと拳を握って
俺の肩を軽く叩いた。








「...緑谷くんに、宣戦布告したばかりでしょ!

あーあ...ずるいなぁ、緑谷くん。
私も轟くんの目につくくらい目立たないとなー。」







わざとらしくそう言うと
チラリと舌を覗かせて、また笑った。



今度は俺も、つられて笑ってしまった。








『1年ステージ、生徒の入場だ!!』







俺が笑ったことに満足したのか









「......頑張ろうね、お互い。」








そう言い残して、哀瀬は俺より先に
会場へ入って行った。















轟「.........ああ。

.........お前にも、負けねぇ。」

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