コースター//(カレー)
□9.死者を食らう者たち
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「そういえば、もうじき高齢者さんの個展がありますね」
誰かの口にした言葉に、芋荒井はにやっと笑った。
「『会場』に、プリンが来るかもしれない」
「また、プリンですか? 芋荒井さんはプリンがお好きですね」
プリンというのは数年前に行方不明になった若きパズル作家……の弟子だ。数年行方不明になっていた、というのに、先日生存報告が部下から入ったのだ。謎多き人物で、女性ということだけわかっていた。
「町中に仕掛けられていたという『爆弾探し』も、あっと言う間に終わってしまった……その話だけを、後に聞かされた私は、たまらなく悔しかったわ」
「でも、プリンが高齢者さんを知っているとは……その、噂では相当に世間知らずらしいですし」
「ところがどっこい」
「は、はぁ……」
この人、どっかリアクション古いよなあと思いながら、誰か、が相づちを打つ。
「高齢者和歌子が、プリンをネタにしようと長年目論んで居たことを我々はリサーチしている。
プリンが喜びそうな事件――近頃の美術館での異変についてもね!
二人が出会うのは、前田のクラッカー並みに、当たり前なの」
やっぱ、古いよなあ……
近所のじじばばがジョークでしょっちゅう言ってるの聞いてたからわかるが、今の子はわかるのか?と彼は考えた。
「俺リッツ派です」
「はあ、あなたって、深きものども みたいな顔してリッツ派なの!?」
「いまいち伝わらない!!!
あとクトゥルフ系苦手なんすよ!
いかにも驚かせられそうな雰囲気苦手なんすよ!! 」
強く握りしめた拳。
ペットボトルのお茶が舞う……そして――ばしゃっ。
芋荒井はお茶を被った。
「いやああああっ! 被った! 私お茶被ったあああん!
ねえ拭いてはやく!!!」
何が悲しくて、元気いっぱいなおばさんの髪拭かなきゃならないんだ?
お茶に被ったのは悪いけれど……
「あー、せめて、利発で童顔で無邪気な、あの子ならなぁ……」
とか言いながら机に戻り鞄からタオルを出しに行く彼。
童顔で無邪気な、あの子は自分の髪を拭いたり自発的に自分の行動をするのが苦手だという設定があるんだけど、おばさんはおばさんじゃないか。
何が悲しくて!!
元気なおばさんと!!
あの子を重ねなくちゃならないんだ?!
「あと、私おこだから!
甘いもの買ってきて!
ねっ。おねがぁい」
歳・考・え・ろ・よ!
「……うぃっす」
タオルを持って、芋荒井のところに戻る。
舞が、やだぁー、とけたけた笑う。先行ってるね、らしい。
あぁ、手羽先でもなんでも食らうが良いさ!
「あの……髪を拭かせて楽しいですか?
自分で拭いたらどうです?
理由があるならともかく、
逐一、むかつくんすよ」
と、言う妄想をしてみたが、どうせ……どうせ……聞き入れられない!
「さっきからだんまりだね?
もしかして、私と二人なの気にしてる?」
あぁ――暑い、みたいな感じでわざとらしく上着を脱ごうとするな!!
今気になるわ!!
痴漢に仕立てられる算段か!?無駄な露出演出要らない!!!少なくとも今、此処に要らない!!
「いえ、ドライヤーもドラえもんも居ないのが、嘆かわしいっす……マジで」
2019.10/21.2:38
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