番外編 2
□甘い災厄 2
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深海魚は好き。
深い底で生き延びる知恵がそのまま形になっているようなあのストレートな逞しさにドキドキする。
「なんか、まつりに似てる」
「何それ……」
存在しているだけでしかない。良いとか悪いとか、そんなんじゃなくて生きてきた。
生き抜いただけ。
たくさんの努力と、多量の痛みを、全部抱えて、押さえ込んできた。
ただそれが、普通はそうまでしなくてもいきられたんだっていうその違いだけなんだ、ぼくらは。
その姿が、不気味に見えようが、嫌に映ろうが、それは何も知らないってだけ。
かわった形をしていたって、生きるべく特化するのに必要なことだったっていうだけの話。
――こんなにも、シンプルな話。
「とても純粋で、綺麗な存在だと思うんだ」
まっすぐ、そいつを見て言う。
「気色悪い、いつからロマンチストになった」
まつりは、ばさっと切り捨てた。
あう……
ぼくを放置したまま、そいつは歩き出す。
長い上着の裾が、ひらりと翻るのを見ながら、ゆっくり後についていく。