コースター//(カレー)

□9.死者を食らう者たち
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[11.死者を食らう者たち](1/10)

「みんな、作者は身元不明の遺体だ! これはお前らのものになる!」

「やりましたね!」

「俺ほしい!」

「私も!」

 イベントが始まった。
イベントと呼んでいるが、此処はつまり、セミナーを装っての作品の素材提供会――
通称『96(クロ)』のための会場。

その中でも《9》と言われる集まりは《あるツテ》から流れてきた、作者とは連絡の取れない、または意図的に取れなくした『作品』を素材として希望者に売り渡す強制持ち出し品を意味している。
いくらかの物は、ときにオークションになることもあった。


2019.10/15.11:26


「芋荒井さん、ほんっっと、本日もありがとうございますっ!
これで今月も食いつなげる!」

「俺、カンドーしてます」

 目を輝かせる青年に芋荒井は美しい笑みを浮かべた。今日の素材販売も好調そのもの。
表向きは、暗合資産の販売。
名を売るのに苦労している作家志望の若者たち、落ち目になっていた老作家たちは歓喜した。

「いいのよ、みんな……あぁ、青葉君たち暇なら、これから飲みに行かないかしら。新しい素材の相談があるの」

「あたし行くーっ! 焼き鳥頼んで良い? 舞は手羽元だったよね」

「そうそう、今月ピンチなんだもん」
舞と呼ばれた小柄な女性が元気に跳び跳ねる。

「どんな素材なんですか?」



 どうしても手元に置きたいものを見つけた。
許せないものを見つけた。
大体は、出品された物を落としてそれを作家に売るのだけど……

「それが、生憎、売り物でも、出品されたものでもないの」

だから――今回は木の葉でチョイと隠す予定。

「安之くんは池上大和が事前頼んだ通りにお願い」

安之はこくこくと頷く。

「もし断ったら……」

「妹大好きなシスコンだってことも、ネットに隠し撮り送ってたことも、全部バラす」

ごくり、と唾を飲む。
女性との関わりのほとんどない安之にとって恋愛対象は妹である。それを気味悪がられ距離を置かれているのを知っていてもつきまとうのをやめることは困難だった。暴力、隠し撮り、ばれたくないことはたくさんある。焦りが浮かんだ。

 一方で青葉と呼ばれた青年は、対照的に笑顔をうきうきと今日の素材の生データが入ったCDを思い浮かべていた。
講習会のCDだが、復元すると、おっとびっくり、原稿になってしまう。デジタルの利点はこういうときにあるのだろう。



2019.10/17.16:33
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