パラレルワールド(短編集)

□勇気を出して
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私の名前は齋藤飛鳥。

今年、第一志望の大学に入った大学生。
でも、今は大学に行ってない。
今の私は、乃木坂46いう国民的アイドルグループのメンバーだった。

今の私の状況を説明するのはとても難しい。

私は齋藤飛鳥が乃木坂46に加入した世界に迷い込んでしまったのである。

話を聞くと乃木坂46のメンバーで最近、同じようなことに遭遇した人が何人かいるらしい。

『飛鳥ちゃん、最近の乃木坂のお仕事は大丈夫?』

私に声をかけてきたのは、苗字名前さん。

私のいた世界では、2年間私の家庭教師をしていた人。
そして、私の片思いの相手・・・・・

「先生には関係ないでしょ」

また、やってしまった。
名前先生にずっと片思いしていた私は、先生に強く当たってしまう時が多い。

『俺は先生じゃないんだけどなw そっか、なんかあったらいつでも言ってね。』

名前先生は、この世界でも優しい。

この世界に来る前もそうだった。
先生と同じ大学に入りたくて、必死に勉強した。
合格したことを伝えると先生は、喜んでくれた。

『飛鳥ちゃんが、俺の後輩になるのか。よし、お祝いに遊びに行こう』

そう言ってくれた先生に私は

「他に休みに行く女の人いないだけでしょ?しょうがない、遊んであげる」
本当は嬉しいのにそんな言葉を出してしまった。

先生は苦笑いしていたけど、いつものこと。
先生が私の家庭教師じゃなくなっても、連絡をとっていたのは先生に褒めてもらいたかったからだ。

そして、デート当日にこっちの世界に来てしまった。

最初は混乱したけど、こっちの世界の名前先生と事情を知ってるメンバーに支えられて何とかやってる。

先生は、私がいうのもおかしいが特別イケメンではない。
一緒にいると心がやすらぐ、そしてずっと一緒にいたい、そんな人。
高校のクラスメイトに先生の画像を見せたときは「やさしそうだけど、私のタイプじゃないなあ」と言われてしまった。

だから、先生の良さを分かるのはきっと私だけだと思っていた。
この世界に来るまでは

「名前君、今度のこの日オフなんやけど空いてる?」
「あ、西野さん!抜け駆けはだめですよ」

先生はこの世界では乃木坂メンバーにモテている。
私の先生のはずなのに。
私は先生を見つめる

『ん?飛鳥ちゃんどうしたの?』
「うっさい、鼻の下伸ばしてんじゃねえ」

またやっちゃった・・・・・

今まではこんなこと言っても大丈夫だと思ってた。
だって、先生のことが好きなのには誰にも負けない自信があったし、先生は私にとても優しい。

でも、この世界にきて気づいてしまった。
先生が私以外の女性を選ぶ可能性を・・・・・

怖くなった
そして、先生と話す機会が少しずつ少なくなった。
自分でもどうしていいかわからない。
私をもっと一人の女性として見てほしいのに、なんで先生は私を子ども扱いするんだろう?

こっちの世界の先生は私をいつも優しく見守ってくれて、私を守ってくれる。
なぁちゃんとまいやんと対立してまで私を守ってくれた時もあった。
こっちの先生にも惹かれる私がいる。
でも、先生は私を向こうでもこっちでも子ども扱いする、どうして?


そして、ある日私は名前先生に言われた一言で悟った。
『飛鳥ちゃんって、本当に向こうの俺を先生として慕ってるんだね。こっち来ても俺を先生って呼ぶんだもん』

そっか、私が先生って呼ぶから、先生は私を昔の教え子として接してたんだ。
恥ずかしさから、自分で壁を作っていたことに気づいた。

これを壊さないと先に進めない。


先生と二人で遊びに行く日を作ってもらった。
とても楽しくて、あっという間に時間が過ぎる。

『もう、そろそろ帰ろうか。飛鳥ちゃん、明日もお仕事でしょ?』
時計をみて先生が私に声をかける。

「・・・・・うん」
『ん?』

私が何か言いたそうなことを悟ったのか先生が私を見る。

「あの、先生・・・・・いや・・・・・名前さん」
『え?』
先生は突然私の口から先生の名前が出てびっくりした様子
なけなしの勇気を振り絞って、私はそのまま言葉を続ける

「私、もう教え子じゃ嫌なんです。子供じゃ嫌なんです。一人の女性として名前さんに見て欲しいんです。私を飛鳥って呼んで欲しいんです。」
『え?どうしたの急に。そもそも、飛鳥ちゃんの俺は家庭教師じゃ・・・・・』
「分かってます。あなたが向こうの名前さんじゃないことは!!でも、私はこの世界の名前さんも向こうの世界の名前さんも大好きです!!!他の世界の名前さんだって愛せる自信がある。だから、私を・・・・・」
そこまで言って私は涙が堪え切れなかった。

怖い。
自分の気持ちをありのままに相手に見せるのがこんなにも怖いものなの?
そして、名前さんの言葉を待つ



『そんな風に思ってくれてたんだね、ありがとう飛鳥』

いつもの優しい声が私の耳に届く。
その言葉で体中にあった不安が消えていく

「ありがとう、名前さん」
私は私の思いに答えてくれた名前さんに目に涙を浮かべながらお礼を言った。

『でも、もし元の世界に戻ったら、向こうの俺にもその言葉を伝えるんだぞ』
「え?」
『俺がとっても嬉しかったんだ、向こうの俺も嬉しいに決まってる。俺が保証する』
「もう、今はそういうんじゃないでしょw」

周りの幸せを考えてしまうのは、この人の悪いところでもあり、いいところ。

「ねえ、名前さん」

『ん?どうしたの?飛鳥』

「ギュッて抱きしめてほしい」
今までの私ならば「抱きしめさせてやる」とか「しょうがないから」なんて言ったかもしれない・
でも、いまなら素直に言える。

そして、名前さんは私をそっと抱きしめてくれた。
私は、名前さんの背中に手を回し彼を抱きしめた。



とある日の夜

とある世界の片隅で

勇気を出した私は

大好きな人の暖かさと優しさに包まれて、とても幸せだった。

FIN
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