* novel

□good boy
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まだだ、まだだ




僕は必死に体を動かす。




なのに、脳みそから送る指令に、もう体が付いて行ってないのが、疲労として伝わってくる




動け、動け。




無理やりにでも、足を前に、腕を横に




歯を食いしばりながら、鏡の中の自分だけを見つめた。




「お前のダンスには感情がない」





その言葉を思い出すだけで、心臓の鼓動が速くなって、息が上手くできなくなる




踊るのと、こなすことは違う。





僕なりにうまくやって来たと思っていた、唯一の僕の武器が、ボロボロと崩れたように思えた。





もっとうまく踊れるようにならないといけない。




感情というものを、ダンスに反映させなければいけない。




暗い練習室で、練習し続けた。





もう、足も腕も、何もかも動かない。




息が上がって、その場に崩れ落ちた。




足がけいれんして、激痛が走る。




昨日からの熱のせいもあって、いつもよりずっと体が重い。




僕は震える腕で、近くに転がった水の入ったボトルを手に取った。




「お前のダンスには感情がない」




そういわれたのは3日前のダンスのレッスンの時だった。




ダンスレッスンの講師は何人かいて、その日も昔からレッスンをしている講師の先生たちが来ていた。




僕はダンスには自信を持っていた。




勝手にだけど、体もよく動く方だし、そもそもダンスが好きだった。




そのおかげかは分からないけど、ダンスでセンターをすることも多かったし、次の新曲のダンスでも、センターに居ることは多かった。




でも、その3日前のレッスンで、何人かいた先生が口を揃えて僕に言った。





「何か足りない」




そして、昔からのダンスレッスンの先生が口を開く




「お前のダンスには感情がないんだよ」




そう言われた瞬間、僕の中の何かが割れたような気がした。




「体で踊ってるんだよ。とても上手だ。でも、心がない。ジミンを見てみろ、ホソクもだ。彼らのダンスには感情があるのに、それに比べて...」





そう言って、先生は、ジミニヒョン、ホソギヒョンにはあって、僕にはない「感情」というものが何なのかを教えてくれた




正直、ひとことも耳には入ってこなかった




頭がぼーっとして「はい」という返事しかできなくなった




僕のダンスには、感情がない。





不安と焦りが、僕の中に、わっと押し寄せてきた。










その日から僕は、ずっと一人で練習室に籠った。




態度には出さなかった。




ヒョンたちに対して、落ち込んだり、いらついたり、そういう雰囲気は一切出さないようにした。




ヒョンたちが悲しむのが、僕が一番悲しいことだから。




それだけは避けたかった。




いつも通り笑った。いつも通りふざけた。




でも、僕の心の中は荒れていて、どうしようもなかった。




どうしようもないはずなのに「感情」を、踊りとして出せなかった。




才能も何も僕はない。




天性の運動神経で乗り切ってきただけなんだ、って。





身に染みて実感した。




ごはんも食べる気にならなくて、昨日からは熱も出て




ヒョンたちには「ダイエットしてるから」と嘘をついた。



急にどうしたんだよ、と頭を叩かれた。




叩かないでよ、と笑った。









手に取った水を飲もうとして、くちを近づけると、震えた手から、ボトルが滑り落ちた。




床にびしゃっと、水が跳ねる音が、暗い部屋に響く




僕は、もう、何が何だか分からなくて、そのまま床に横になった。




僕の荒い息だけが部屋に響く。










視界がぼおっと遠くなって、ゆらゆらした




僕はなにしてんだろう。




なんだか笑えて、でも、目からは涙が出てきた。




なんにもできないじゃないか。





震える指で、床の水に触れる




「お前は何を考えてんだかわからないな」




ヒョンたちによく言われる。




言いたいことがあったら言うんだよ、と。




ヒョンたちは僕に気を使って聞いてくる。




今気づいたけれど、僕はその時点で感情を表すことが苦手だった。




自分はこう思っている。心ではそう思ってても、それを言葉としてうまく出せないから、にこっと笑って終わりになる




ふざけて終わりになる。




ダンスだって、きっとその延長線上なんだって。




僕には無理なんだ。






視界が揺れる。





僕の体も、大きく揺れている




何かに僕の肩を揺すられている感覚がして、そのまま僕の意識は遠くなった





....

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