* novel

□형
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「違います、バナナ牛乳です」




電話越しのテヒョンは、どうやらコンビニの飲み物コーナーの前で迷っているらしかった




「や〜、イチゴじゃなくて。うん、バナナ、それ3つ、欲しいです。」




ジョングクが大好きなバナナ牛乳を見つけたらしいテヒョンは、続けてジョングクに、他に何か欲しいものはないかを聞く




「他は〜、大丈夫です。バナナ牛乳が久しぶりに飲みたくて。バナナ牛乳が俺を呼んでる」




電話の相手のテヒョンに、いつものように冗談を放つジョングクに、僕も笑った



「うん、待ってます。早く飲みたいから、200キロ出して帰ってきてくださいヒョン」




生意気な弟め、と電話越しにテヒョンの声が聞こえる。急いで戻るよ、という一言を残して電話が切れた。



ジョングクは携帯を手元に置いて、ふーっと大きく息を吐いた。




そして、ベッドに横たわったまま窓の外を見つめた。




「体、痛い?」




僕がそう聞くと、ジョングクは少し笑って「いや」と首を振った。




「バナナ牛乳ほんとに飲みたかったんですよ。ずっと飲みたかったんだけど、飲めなくて」




だから、これでテテヒョンが違うもの買って来たら僕暴れますよ。と、笑って、相手を殴る動作をする




じっとしてなって、と僕も笑う。





何だか、気のせいなのかもしれないけど、ジョングクが本当に元気に見えた。




ジョングクの背中の下には、たくさんの大きな枕が置かれていて、上半身を起こすような状態で、ベッドに横たわっている。




こうすれば、体が痛いのも、和らぐかな、と思って、そうした。



「ジョングガ、本当に身体、痛くない?」




僕のその言葉にジョングクはほほ笑む




「や〜。ジミニヒョンは本当に心配性なんだから。」




大丈夫だってば、と笑って、テテヒョンまだかな、と起こした上半身を玄関に向けた。




「まだだよ、たぶん。ここから一番近いコンビニでも車で20分かかる」




「そうなんですか?来るときの車の中、寝てたから気づかなかった。」




でも〜。本当にいい場所ですよ。




ジョングクはそう続けた。




「テヒョンのひいおじいちゃん?たぶん。その人が持ってた別荘なんだって。久しぶりに使うからカビだらけかもね、ってテヒョンイと一緒に鍵開けてみたんだけど、すごく綺麗だった」





「山奥だから空気もきれいだし〜。この時間なら、そろそろ星見えそう」





「見てみる?」




僕はベッドの横の椅子から立ち上がって、部屋の明かりを消した。




ぱっと部屋の明かりが消えると、僕とジョングクは、ベッドの横の大きな窓から入る月の明かりに照らされた。




外を見ると、大きくてまんまるとした月と、無数の星が、暗くなり始めた夜の空に浮かんでいる。




きれいだなあ。




思わず見とれてしまって、しばらく眺めていた。




目を横にやると、ベッドの上に座る、笑顔のジョングクが居る。



お月様とお星さまと、ジョングク。




写真に残したくて、僕は携帯を手に取る。




ベッドの横の窓枠に腕をかけるようにして、1回、シャッターをきる




どんなふうに撮れたかな。




写真を確認してみると、なんだか、目で見るよりも少し寂しいような、そんなお月様と、ぼやけたお星さま、真っ黒なジョングクの後ろ姿が写っていた。





僕は顔をしかめる。




「や〜、うまく撮れなかったですか?」




ジョングクは笑って、見せて、とベッドの上から手を伸ばす。




僕はその手に携帯を渡す。





「ジョングギならもっと上手に撮れるんじゃない?」




僕がそう笑うと「ヒョンは僕の100倍、よく写真撮ってますよ。ヒョンがとれないなら僕も撮れない」と携帯を僕に返した。




「ジョングギ、あんまり写真撮らないよね」




「あ〜、まあ、ジミニヒョンよりはだいぶ撮らないです僕。本当に撮りたい!ってもの以外は目に焼き付けるタイプ」





「本当に撮りたい!って?」





僕は少し笑う。





「ん〜、本当に感動したものとか、本当に心の底から残しておきたいものとか、忘れたくないものとか?」





「ほ〜。じゃあ最近だとどんな写真撮ったの」





「腕のほくろから毛が生えてる写真」





「なんだよそれ、」




ジョングクはまた僕を笑わせて、視線をもう一度窓の外に向けた。





「きれいだな〜。」





「きれいだよね」





しばらく星を見つめていると、潤った大きな瞳が僕を見つめた。




「ヒョン、この中のどのお星さまになりたいですか?ヒョンだったら」





予想外の質問に、僕の心臓の鼓動は少し早くなる





「どの、って?」





「例えばですよ。自分がお星さまになるんだったら」





僕は、ジョングクの目を見つめて、動けなくなってしまう。





ジョングクは、いたずらな、でも、寂しそうな顔をしていた。





その時、どん、と玄関が開く音に、僕ははっとして我に返る





ちゃりんちゃりんと鍵どうしが当たる音と、足音、そしてビニール袋の揺れる音が廊下を伝って近づいてきて




部屋の扉が開いた




「暗いんだけど...怖いんだけど...」




そこには、右手にコンビニのビニール袋をさげたテヒョンが立っていた





「わ!おかえりヒョン!バナナ牛乳は?」





「バナナ牛乳買ってきたけど...くらいよ、どうしたの」





そうテヒョンは笑って、バナナ牛乳が何個か入った袋を、ジョングクのベッドの上にそっと置いた。




暗い部屋を、どん、どん、と奥に進んで、キッチンの方にある車の鍵置きに鍵をつるす。




「いま、お月様とお星さま見てたんです、暗くしたらもっと見れるかもって〜」




「あ〜。車運転してて思った!山の中だからかな、すごい月も星もきれいだよね」





「や。よそ見しないで運転したくださいよヒョンは」





「200キロだして帰ってこいとか言ってただろ、ジョングガ」





テヒョンはジョングクの言葉に反論して笑ってう





「それで、いま、自分ならどの星になりたいか、っていう話してました。」






ジョングクはまた窓の外を眺める。




テヒョンはどんな顔をするんだろう。





僕は不安になって、テヒョンの顔を見る。





すると、一瞬目があった後に、テヒョンはキッチンの方から走って、窓に近づいてきて




「え〜〜〜。俺だったらアレ」





そう言って、お月様の横あたりを指さした。





「あの、月の横の、赤いやつ」





「なんでですか」




ジョングクは少し笑って、テヒョンの方を見た。





「え、赤いから。かっこいいだろ、ジョングガ〜」





ジョングクは呆れた顔をして笑う。僕もそれをみて笑ってしまった。





「ジミナ、車に荷物あるからちょっと降ろすの手伝って」





テヒョンはもう一度、鍵置きから鍵を取る。





「ジョングギ、ほら、バナナ牛乳3本も買ってきたんだから、たくさんのんで!」





そう言われてジョングクは袋からバナナ牛乳を3つ取り出す。





ヒョンたちと飲みたかったんです。ジミニヒョンのと、テヒョンイヒョンのと、僕の。





ひとつひとつ、ベッドの上に並べた。





「や〜、かわいいな!」





テヒョンはジョングクの頭をわしゃわしゃと撫でる。





「じゃあ、荷物とって戻ってきたら、3人で乾杯しよう。それ飲み終わったら、始まるころじゃないかな?花火大会」




僕の言葉に、ジョングクはくしゃっと笑う。





「よっしゃ。じゃあ、待ってます。」





うん、と僕もテヒョンイも笑って、玄関から外に出た。















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