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□アマンテ
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指示された部屋の前で
ドアをノックする事に
かなり躊躇して
本当なんだろうか?
俺を抱くって……
ただ、抱き締めるだけ
って訳ではないよな……やっぱり。
大きく溜め息をついて
踏み出せずに考え込んでいると
「 遅かったね。」
後ろから腰を抱かれ
耳に息を吹きかけながら囁く言葉
また、後ろ……から…?
驚きを隠せずに慌てる俺を見て
クスクスと笑いながら
そのままの状態で
カードをスキャンして解錠させた。
押されるように部屋に入ると
足がもつれて転びそうになる
壁に手を着いて
なんとか体制を立て直したのに
後ろからホールドされると
強く壁に押し付けられ
首筋を甘く噛まれた。
「 待ってたよ
翔ちゃん………良い香りだね。」
彼の手が太股を
ゆっくりと撫で上げる。
「 ……ちょ、っと……。」
「 俺に抱かれたいんでしょ?」
腕を掴んで
行為を止めようとするのに
力強いそれを
止めることが出来ない
「 抱かれたいって……
君、が………、」
「 雅紀って呼んでよ。」
スーツのジャケットのボタンを
片手で器用に外し
シャツに手を掛けるから
「 待って………相葉さん。」
「 何で、相葉さんなの?
雅紀だよ、ま・さ・き。」
ボタンを外そうとする手を掴み
強引に身体を反転させ
彼へと向かい合う。
「 冗談じゃ、ないの?」
色素の薄い茶色の瞳が
琥珀のキャンディーのよう
見つめられる それが
眼を奪われるほどに とても綺麗………
「 本気だよ。
俺を救ってくれるんでしょ?
それにさ、
ここに来たって事は
そのつもりだからでしょ?」
言って小首を傾げるから
いちいち可愛い仕草に
胸が小さく音を立てた。
「 だけど………。」
俺の髪に長い指を挿し込み
顔を傾けて唇に息がかかる距離
「 翔ちゃんてカッコいいよね。
…………カッコいいのに
肌が白くて この赤い唇って
卑怯にも思えるよ。
女の子だってさ、
出来れば付き合いたいって
そう思われてるの、知ってた?」
答えるまもなくキスをされ
それがあまりにも優しくて
飲み込まれていく
………そんなの知らない
だって俺は君しか見てないから
「 少し、その気になってきたね。」
不意に離された唇が
もっとって望んでるように
それはあまりに心地よくて
自分から求めるように
抱きついてしまった。
「 翔ちゃんから?嬉しいなぁ。」
そうしてまたキスが落ちてきて
シャツがスラックスから抜かれると
裾から指が直接肌へと触れてきて
その感触に震え唇を離しては
「 あ…の……シャワー…は?」
離れた唇をもて余すように
首から耳へとキスをしながら
「 入るの?
俺はこのままが良いけど……。」
「 いや……さすがに
……ないで、しょ?」
ゆっくりと身体が離れ
壁に両肘を着いて
視点が合わないくらい近くで
俺の顔を覗き込んでくる
「 仕方ないな………
じゃ、一緒にはいる?」
一緒に入るなんて………
まだ、覚悟すら出来てないのに
そのまま流れ込むように
最後まで行ったらと思うと
流石に想像でもキツくって
好きと言う感情だけでは
そう容易く乗り越えられない
壁のように感じる。
「 何 難しい顔して、行くよ?」
強く手を引かれて
焦る俺の気持ちを置いて
バスルームへと行く
そう思っていたのに
「 焦れったいよ。」
ベッドへと押し倒され
取られた両手首
腰を跨がれ
完全に動きを封じられた
「 待って、待って雅紀。」
「 やっと呼んでくれたぁ。
フフフ……嬉しい……。
でも もうね、観念して。」
言うなりワイシャツのボタンが
辺りに飛び散り
優しい印象とは違う荒々しさに
こんなのって……もがくと
「 ごめん、乱暴にして。
だけど……抵抗されるくらいが
俺、燃えるから………。」
俺だって男だし、
それなりに力だってある。
ジムに行って身体も鍛えて
雅紀からみたらずっと
ガッチリしているのに
こんな華奢な身体に
どこにそんな力があるのか
抵抗しても叶わないまま
強く肌に触れる唇が胸の先を捉え
思わず漏れた声に
「 その掠れた声
堪んないよ……翔ちゃん。」
恥ずかしくて
肩を押す手に力が入る
だけど、辞めて欲しくない
そんな気持ちもあって
結局は流されるままに
行為に溺れて行く。
ゆっくりと溶かされる身体
与えられるままの刺激に
「 俺、だけじゃ……。」
自身の硬くなったそれに強く触れ
舌先で唇をなぞりながら
「 いい、よ……俺がしたい
………って言うか
そろそろ、良いかな?
なるべく苦しくないように
してあげるからね。」
優しくそう言うけど
それって……
想像から急に身体が強ばってくる。
「 ……い、や……だ……。」
口では言っても
『 俺さ……逃げらんないの 』
頭にちらつくあの言葉と
「 好きだよ……翔ちゃん。」
甘い囁きに誘われるように
ぎこちなくも身体を開いて……
雅紀を痛みの中で、迎え入れた。
まだ、火照りが残る身体
気だるげに頭からシャワーを浴びて
何度も思い返す初めての夜。
本当にこれで
雅紀は救われたんだろうか?
俺は彼を
救う事が出来たんだろうか?
聞きたくて………
彼の優しい笑顔が見たくて
隣で眠る彼を
手探りで求めたのに
目覚めた時にはもう、
雅紀の姿はそこにはなかった。
まだはっきりしない頭で
名前を呼び、辺りを伺って
眼に留まる
テーブルに置かれた名刺
それにはただ
“ありがとう”
とだけ書かれていて
以来、雅紀を………俺は見ていない。
つづく