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□瞳が語る
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「前編」
僕は……………
もう どれほどの時間
この道端に座り込む彼と
見つめ合っているんだろう
寒空の下 コートも羽織らず
印象的な大きな眼で見上げる
膝を抱えたそれは
まるで拾われるのを
待っているようで……………
誰にでも
着いていってしまいそうな危うさに
「 あの………………、」
こんな所にいたら危険だよ?
そう声をかけようとして
タイミングを見計らったかように
彼の腹の虫が盛大になるから
「 僕ん家、来る?」
反射的に思わず誘ってしまった…………
「 どこかお店にでも
連れていってあげられたら
良かったんだけど
給料日前でキツキツでさ
有り合わせで申し訳ないけど。」
安売りしていた卵を買ってて良かった
なんて思いながら
オムライスを作って彼の前に置くと
さながらお子様ランチを目の前にして
眼をキラキラとさせた子供のようで
「 食べていい?」
僕が頷くより早く
スプーンの要領お構いなしに
結構な量を掬い上げ
入りそうにないそれを
ねじ込むように口に入れるから
両頬がパンパンになって
さながらそれはリスみたい
忙しなく咀嚼して
まだ飲み込めてないのに
「 うんめぇ。」
って、味 分かってんのかな?
ただ、その食べっぷりは
作った僕からみたら
それは嬉しい反応というか
まぁ、極上にお腹が
空いてたからなんだろうけど
アッと言う間に平らげて
満足そうに微笑んでくれる
そんな様子に
声をかけて良かったなぁって
内心、ちょっとやっちゃった?って
後悔がなかった訳じゃないから…………
「 もっと食べる?」
彼は思いっきり頭を振って
深々と頭を下げると
「 ごちそうさまでした。
俺、オムライス大好きで
凄い美味かったです。
見ず知らずの俺に
こんなに良くしてくれて
本当にありがとう。
あの…………お名前
聞いて良いですか?
あ…………俺は翔って言います。」
「 僕は雅紀。相葉雅紀です。」
自分の記憶に刷り込むように
僕の名前を呟いて
もう一度頭を下げて立ち上がると
「 このご恩は
いつかお返ししますので。」
そう言って、玄関へと歩いていく
思わず、本当に思わず
なんだろうか…………
どこかでまだって思いが
あったんだろうか…………
その時の気持ちはもう覚えてないけど
「 帰る場所、あるの?」
彼の外見からそう呼び止めてしまう
背中が小さく震え足が止まり
その様子から返答を聞かずして
容易に分かるから
「 泊まっていったら良いよ。」
振り返る眼が困惑して申し訳なさそうで
それでも見える喜びと安堵に
僕は微笑んで見せた
お風呂に入って
僕の下着とスウェットを着た彼は
所在無さげに突っ立ったまま
「 君はベッドに寝て。
僕はソファに寝るから。」
そうしてソファに行こうとする
僕のパジャマの裾を
無言で引っ張ってくる
「 何?」
振り返り思ったよりも至近距離に
改めてマジマジと見る彼は
本当に綺麗な顔をしてて
そんな顔でジッと
それも上目遣いで見つめられたら
相手は男なのに
僕にもそちらの性癖があったのかって
疑ってしまいたくなる
そんな俺を未知の世界に
連れていこうとする彼の口から
「 一緒に、寝ちゃ駄目か?」
なんて……………
「 良いけど、狭いよ?」
応える僕も僕だけど
嬉しそうに微笑まれたら
満更でもないって………僕、ヤバイよね
結局、背中に貼り付くように
眠る彼の所偽で
僕はその夜 一睡も出来なかった