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□手紙
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最初は軽い気持ちだった
だだ寂しさを埋められたら
そんな思いで誘われるまま
こんなに綺麗な男なら
抱いてみるのも悪くないかなって
結局は、なんか雄化したあの人に
抱かれちゃったわけだけど
それでも初めて感じた身体の相性に
何度か会うようになった俺達は
「 付き合おっか?」
あの人からそう言われて
「 実は狙ってた。」
本心かどうかは
未だわからないままだけど
苦しくなるくらいキツく抱き締められて
軽い告白だったとしても
まぁ、良いかなって…………
そのうち俺の方がのめり込むとか
自分ですら想像できない展開に
「 転勤になった。」
そう告げられた時には
俺は地の底に落ちそうになった
「 遠距離でも
俺達なら大丈夫だよ。」
綺麗な笑顔で放つ
その言葉を疑った訳じゃない
俺だってそう信じてた
信じてたけど
離れた距離と時間は
そう簡単には
埋められるものではなかった…………
「 櫻井さん、彼女は?」
あの人と会えなくなって
自分時間の使い方を見失った時
たまたま寄った小さな飲食店で
俺はこの店のマスター
相葉さんと知り合った
数人で一杯になる
カウンターのみの小さな店
想像以上に上手い料理と
マスターの人柄で
俺は寂しさを埋めるように
ほぼ毎日のように通っていた
必然的に顔馴染みになり
歳も近かったからか話しも合う
結果、冗談を言い合えるほど
俺たちは仲は良くなっていた
「 彼女………は、いないっすよ。
そう言うマスターは?」
「 俺もここ何年っていないですけど
櫻井さん、本当にいないんですか?
すっごい、以外です。
メチャクチャ モテるでしょ?」
そんなのは分からない
マスターの方こそ、なんじゃない?
俺はただ愛想笑いをしてビールを飲むと
新作だと言う料理に箸をつけた
「 うおっ、これ凄い美味い。」
「 それは良かった。
櫻井さん 貝が好きだって言うから
ちょっとメニューに加えてみたんです。」
そうなんだ
ここの店、と言うか
マスターはこんな気配りをしてくれる
これで何品目だろう
もう、覚えきれないほど
俺の好きなモノが
新作として追加されていた
なん品かを新たに注文し
お陰で酒も箸も進んだ俺は
次に目覚めた時には
自分の失態を恥じることになる
「 え……………ここ、どこ?」
見覚えのない天井が目の前に広がり
見渡せば狭い部屋なのか
四方の壁がすぐ傍にあって
なんか雑然とした風景に
誰かの部屋って感じもなくて…………
つうか 俺、どうしたんだっけ?
確か相葉さんの店で
やたらと食って飲んで………それから………
やべぇ、覚えてねぇ…………
ガチャとドアの開く音がして
聞き覚えのある声に
「 相葉さん?」
「 その様子だと覚えてないでしょ?
珍しく酔い潰れたんですよ、櫻井さん。」
現れた相葉さんは
持っていたグラスを俺に手渡して
ソファだろう俺の寝転ぶ傍に
ゆっくりと腰を降ろした
「 俺んちに連れてっても
良かったんですけど
結構、遠くて………
ここ、店のバックヤードで
仮眠するためにソファ置いてたから
ちょっと窮屈かと思ったんだけど
ここに連れ込んじゃいました。
すみません。」
なんて律儀に頭を下げるから
いや、それって
俺があなたに迷惑かけてんでしょ?
思わずその肩を押して頭を上げてもらうと
急いで床に降りると正座して頭を下げた
「 すみません、迷惑かけて。
店の外にでも
放り出してくれても構わなかったのに。」
「 そんな、出来る訳ないでしょ?
変な人にお持ち帰りされたら
どうするんですか?
もっと、自覚するべきです。」
自覚?お持ちかえり
なんかそんな事を
前にも誰かに言われた気がするけど…………
「 ないない、俺 男だし。
誰が連れてくんすか。」
なんか変な心配に可笑しくて笑えてくる
その反動でガンガンする頭に
手をあてようとして
上げたそれを
何故かガッツリ掴まてしまう
「 へ?」
驚いて相葉さんをガン見すると
さっきよりも距離が縮まって
グッと近づく視線に
「 俺だったら、連れていきます。」
焦って引いた身体に
予想以上に相葉さんの重みがかかって
そのまま後ろへと傾くと
背中が床へと勢いのまま落ちていった
「 痛って…………相葉、さん?」
店に立つ相葉さんは
いつも柔らかな笑顔を浮かべ
印象としては優しい人、なのに
今は酷く真剣で寧ろ怖いくらい
そんな顔をして見下ろしている
「 あの、ちょっと……。」
何と言うか…………男同志でも
男と付き合ってる俺からしたら
この状況は非常に危うげで
本当、退いて欲しいのに
「 櫻井さん、
ちょっと、気になったんですけど。」
ワントーン低めの声が
それを良しとしない
「 ……………何ですか?」
「 俺が、彼女の事を聞いた時
彼女は、って言いましたよね?」
それは……………そう言うだろ
例え遠距離でも
俺には男性の恋人がいるんだから
「 それが?」
これ以上は突っ込んで欲しくなくて
素っ気なく言葉を吐いたのに
「 それって女性の恋人ではないって
そう言う、事なんですよね?」
的を射た言葉に思わず眼を逸らす
いくら理解ある世の中でも
偏見は付いて回るのが普通で
彼がそんな眼で見ないとも限らない
「 だったら、何………。」
折角、得た俺の場所を失うんだろうか………
言葉を吐き出されるのが怖いのに
彼の息遣いが二人の間の空気を揺らした
「 じゃ、言い方を変えます。
恋人はいるんですか?」
胸がドクンと跳ね上がり
ジリジリとする
「 それ、聞いてどうすんの?」
「 いるんですか?」
「 あんたに、答える必要無くね?」
見上げた先にある
細い首から覗く喉仏がゴクリと上下した後
相葉さんは絞り出すように
慎重に言葉を発した
「 あります。
…………だって俺、
櫻井さんが好きですから。」
つづく