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□片恋*零ー片恋番外編
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彼を取り巻く風が僕を包み
君に振り返らせる
綺麗な横顔から
少し長い襟足が首筋を隠し
それでも見える君の色気に
僕は有無もなく恋に落ちた
こんな………胸焦がれるなんて
こうして校門の見える窓際に立ち
君が現れるのを今か今かと待ち構えている
新しい制服が馴染み出して
いつもの君が眼に入ると
今日も独り言のようにおはようと呟き
君を間近に見たくてドアへと急ぐ足
引き戸に手をかけて
ガラス越しに見えた笑顔と
僕の力ではなく開く扉
あぁ、また彼か……………
知られずに溜め息をついて
作り笑顔も慣れたものだ
「 おはよう、滝沢くん。」
「 おはようございます、先生。」
愛嬌のある正統派の綺麗なイケメン
こうして顔を見せるようになったのは
入学式からそう、日が経ってないように思う
ただ挨拶をして満足そうに帰っていく
最初は何故か………全然 分からなかった
彼の視線、態度、行動
つぶさに観察して知った
彼は僕に対して特別な感情を持っている
「 今日も、挨拶しに来てくれたの?」
「 ………………はい。」
少しだけ頬を赤らめ
照れたようにはにかむ姿は
なんとも可愛らしい……………けど
僕の視線は聞き覚えた声を追い
捉えた先で留まると逃す事を忘れている
「 おはよう、翔くん。」
友達に縫い付けられていた気持ちが
驚きとともに解放され僕へと向けられる
その喜びは計り知れない
「 ………お、はようございます……。」
きっと滝沢くんは不満げに
僕をもしくは彼を見ているに違いない
彼らはクラスメイトで
友人なのも知っている
そんな事を気にする余裕さえ
今の僕には皆無で……………
こんな気持ちは何時振りだろう
いや…………………僕の中では
感じた事のない程の熱で
彼を求めている
そう、それは自分でも分かる
異常な程に………………だ
「 先生、絆創膏 貰えますか?」
僕の邪な思いなど露ほども知らない彼が
初めてここに来た時の僕の胸の高鳴りは
自分でも感じた事がないほど
「 どうしたの?」
あくまで冷静を装いながらも
僅かに震える指先
「 ここ、切っちゃって。」
抑えていたティシッュを外し
差し出された白く細い指からは
真っ赤な鮮血が筋を作り少しずつ溢れてくる
「 結構、酷いね。
絆創膏で治まるかな?」
「 大丈夫でしょ、
そんな切ってないから。」
「 綺麗な指だよ。
ちゃんと処置しないと。」
触れた指が僅かに揺れる
「 なんか、先生
かなりキッショいんですけど?」
思わずハッとした
あまりに浮かれすぎて出た言葉
彼に引かれてしまったんではないか
慌てて上げた視線は
柔らかく頬笑む彼を捉えて
思わず安心から笑みが出た
「 ああ、ごめん。………だよね。
今、持ってくるから指の付根抑えてて。」
自分で………の言葉を聞き入れずに
少しでも触れたいとゆっくりと巻いていく
「 キツくない?」
「 大丈夫…………かな?」
何度か指を曲げ
じゃ、失礼しますと頭を下げて見せた背が
華奢な儚さに抱き寄せたくなった
「 また、おいでね。」
僕の今の精一杯を
振り返り見せた惚けた笑顔
「 じゃ、仮病でもいいの?」
「 君なら。」
「 先生、だからキッショいって。」
それがあまりにも可愛くて
また、想いが募った瞬間だった…………
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