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□はじまりの恋〜カレッジ
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「 彼女と別れた。」
「 マジで?」
「 マジで……はぁ。」
「 じぁ、俺と付き合っちゃう?」
「 何でそうなるの?って、
翔ちゃん男でしょ?
無理に決まってんじゃん。」
「 そうかな、無理?」
「 無理でしょ?
冷静に考えても分かるじゃん
俺も翔ちゃんも男でしょ?」
「 まぁね、だけどあれよ?
俺好きよ、雅紀の事。」
「 それって友達としてでしょ?
それなら、俺だって好きだよ。」
「 お、両想いじゃん。
やっぱ、付き合っちゃう?」
「 だから、
友達として好きなんでしょ?」
「 ……………まぁね。」
「 変な事 言わないでよ。」
「 はいはい、失礼しました。」
口では平気を装っていても
結構、落ち込んでいた俺。
それが分かってたから翔ちゃんは
元気づけるつもりで
そんな冗談を言ったんだろう
そう、思っていた。
以来 朝、顔を見合わせれば
「 おはよう、雅紀ぃ
どう?俺と付き合う気になった?」
「 なるわけないでしょ。」
なんて、
あいさつ代わりみたいな
やり取りから始まり
大学にいるときは常に一緒で
たまに暇だからって
俺のバイト先まで送ってくれたり
あの日以来、
翔ちゃんと過ごす時間が増えていた。
「 翔ちゃんこそ、どうなの?
彼女欲しいとかないの?」
俺の質問にも答えられない位
相変わらず口いっぱいに頬張って
暫く、忙しなく咀嚼して
やっとで飲み込むと
「 俺さ、
お前と付き合いたいわけよ。」
「 冗談はもう、いいから。」
「 冗談じゃねぇけど?」
「 もう、翔ちゃん めんどくさいって」
あ、そうって
何か言いたげに口を尖らせるから
その真意が見えなさすぎて
逆に変に意識してしまう。
いつの間にか
傍にいてくれるのが普通で
いないと逆に不安になって
「 あれ……翔ちゃんは?」
なんて聞いてしまう始末
何だか冗談を冗談で
受け止めきれなくなってきた俺は
違う意味で変に頭を悩ませて
だから
「 あ、今度さ
合コンがあるんだけど
頭数に入ってるから。」
斜めから俺を見る
その顔が何故か憎らしくて
「 何、勝手に決めてんの?
俺 行かないからね。」
「 もしかしたら、
彼女出来るかもしんないよ?」
…………どの口がそんな事
付き合おうって
しつこい程 言ってたくせに
合コンとか彼女とか
今更おかしいじゃん
散々、俺を悩ませてさ………て
俺、どうした?
何にそんなに怒ってんの?
まるで
まるで…………
自分の気持ちが分からないまま
無理に約束させられたその日を迎え
俺は今、帰りたい気持ちで
隣に座る翔ちゃんの横顔を見ていた。
人見知りな俺とは違い
誰とでもすぐに打ち解けて
その明るい性格から
いつも周りには彼を慕う人がいて
俺はそんな翔ちゃんを
何処か憧れた気持ちで
見ていたような気がする
どうして親しくなったのか
今では覚えてないけど
いつの間にか………そう
いつの間にか傍にいて
俺の一番の親友になっていた。
「 嘘、マジ?俺じゃん。」
翔ちゃんが突然に頭を抱え
大声を上げ立ち上がると
一瞬だけ俺を見た、
そんな気がしたのは気のせい?
周りでは煽るような手拍子と
連呼するキスの声
派手な女の子と向かい合い
頭を掻いて困ったように笑う翔ちゃんに
やっとで状況が飲み込めて
ゲームなのは分かってる
眼の前の子とキスするんでしょ?
俺は男だし
翔ちゃんは友達だし
全然、平気な筈なのに
全然、平気じゃない自分に
一番に俺自身が驚いて
なんだよ、この気持ち………
逃げ出すようにその場を後にした。
感情が上手く
コントロール出来ない歯痒さに
足早にただひたすらに歩いては
翔ちゃん
翔ちゃん
翔ちゃん
馬鹿みたいに彼の名を唱えて
そして、我に還った………俺は……
「 何で、帰んだよ?」
急に後ろから掬われる手と……声に
驚いて足を止め視線を向けて
「 ………な、んで?」
「 脚が長いからか?
すげぇ、歩くの早いな。
走んなきゃ追い付かないって
どういう事だよ。」
息を荒くして笑う君に
俺の胸はギュッと苦しくなる。
「 何で………いるの?」
「 好きな子が突然 帰ったら
そりゃ、心配にもなるだろ?
どうした?気分でも悪くなった?」
また、変な冗談………笑える筈が
「 …………キスは?」
「 お前、追いかけなきゃって
直前で逃げてきた………つうか、
ゲームだからって雅紀以外は嫌だわ。
……おま………どうした?
どっか、痛いのか?」
安心してる俺がいて
気付けば……何で泣いてんだろ?
俺の様子に、つり上がった眉が
困ったように下がっているから
何とか気持ちを沈めて
涙を拭きながら
「 ごめん………
どうしたんだろ、俺?」
笑ってみせたら
翔ちゃんも安心したように微笑んで
「 もしかして、
俺の事………好きになった?」
また、冗談を言う
「 んな訳ないじゃん。」
だけど心から
そんな事 言ってはなくて
「 …………だろうね。」
翔ちゃんにも
それが分かっているみたい
「 雅紀ぃ………ごめん。」
そっと絡めてきた指が
強く握ってくるから
「 公共の場だよ?」
俺も返すように強く握った。
「 おはよう、雅紀ぃ
どう?俺と付き合う気になった?」
まさかな展開に
俺自身 予想もしてなかったけど
「 え?…………うん、まぁ……ね。」
人の気持ちなんて
どう転ぶか分かんない
だから、
こんな恋のはじまりも
そう………悪くない
つづく