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□出口のない館
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辺りは仄暗くて
眼が慣れてもここが何処なのか………
揺らめく灯りに視線を這わせ
燭台に見えた蝋燭だけが灯していた
「 眼…………覚めたね。」
存在すら感じなかった声が
靴音と共に近づいて
覗き込む影を
頼りない光が浮かび上がらせる
「 ……………相………葉、さん?」
“優しい陽の光を感じる明るい人”
………………俺が彼に持った印象
「 本当に………相葉さん?」
鋭い眼差しと片側だけ上がる口角は
妖しげな微笑みを称え
今までにない表情に
何故か沸き上がる恐怖が
俺の全身を包む
逃げなければ………
体勢を変え起き上がろうとして
腕にかかる重さ
ジャラッと冷たい金属音が
静まり返る部屋に響いた
「 逃げられないよ。」
首もとに置かれた手が
身体の震えを誘うように冷たい
細い指がゆっくりと血管をなぞり
シャツの襟に添って辿り着く先
ひとつ目のボタンを外していく
開いた肌を指が這い またボタンを外し
露になった胸に
氷のような唇が押しあてられた
あまりの冷たさに
身体が大袈裟な程ビクンと反応する
それに呼応するように
手首に巻かれた金属が音をたてた
「 相葉さん………何して………?」
ゆっくりと視界に現れる綺麗な人は
ゾッとするような微笑を称え
「 櫻井さんは僕のだよ。
今日、その儀式をするから………。」
思考が上手く働かない
あなたは何を言ってんだ………?
視界が彼で塞がれた瞬間
首に小さな痛みが走る
「 痛っ…………何?」
「 僕の血と君の血が溶け合った時
君は僕と同じものに変わる。」
見下ろす君の唇の端から
筋をつくり血液が顎へと流れていく
それは俺の血なのか
それとも君の?
「 同じものって
意味分かんない…………んっ………!」
急激に身体中が熱くなり
芯から疼きが沸き上がってくる
「 やっぱり…………
君は僕にちゃんと反応してる。」
反応…………って………何、言ってんだ
開いたシャツの胸元から手が滑り込み
胸の突端に指が触れただけ
それだけで自分の声か?と疑うほど
艶かしい喘ぎが上がる
「 クフフ…………良い声………。」
ボタンがひとつ、またひとつ外され
1枚ずつ剥ぎ取られていく衣服
身体をよじって抵抗しても
いとも簡単に全てを晒されて
この上ない羞恥に顔を歪めると
さも嬉しそうに微笑んでみせる
「 櫻井さん………違うな
僕の…………翔………本当に綺麗……だ。」
身体に重さがかかり
すぐ近くに感じる吐息
甘い声を耳元で囁いて
耳下から鎖骨を指でなぞっていく
頭では抵抗しているのに
身体は意思に反して
ゾワゾワとした快感に震えては
唇を噛んで上がりそうになる声を
必死で堪えるのに
「 我慢、しないで。」
触れる唇が胸の先を含み
舌が舐め上げる
「 んっ……………。」
冷たい指がもうひとつの突端を摘み
自分の身体を疑いたくなるくらいに
快感が全身を包んでいく
「 やめ………ろ…………。」
「 こんなに感じてるのに?」
だから、だろ………
なんでこんな事になってるんだ?
知り合ったのはそう遠くない
まだ、何もあなたを知らない
君に不釣り合いなこの洋館に
足を踏み入れたのは何時間前?
もっと経ってるだろうか………
甘いアルコールが
身体を満たした心地よさに
酔いしれるまま記憶を手放して
…………………眼が覚めた今
「 お願い……………もう…辞め……。」
めくるめく快楽と感じる恐怖に
狂ってしまう…………
「 辞めて良いの?
ここ…………もっとって言ってるのに…。」
包まれる熱と
線を辿る舌が先で絡まり
また全てを包まれる
冷たい指までも煽り腰が宙を舞う
見えてきた限界に頭を振って
何度も懇願する俺を嘲笑うと
「 全部、受け止めて上げるから。」
先を吸われ早くなる手の動きに
限界はあっと言う間に訪れた
これでもう終わる
やっと解放される
そんな甘い俺の考えは
不意に襲われた違和感に消されてしまう
「 何…………して…………んっ。」
「 これから僕とひとつになるんだよ。
翔にも気持ち良くなって欲しいから。」
冷たい指が中を掻き回すたび
水音が下品に音を奏で
耳まで侵されそうだ
身体をしならせ抵抗しても
足首を取られると
圧倒される力に動きがままならない
いつしか増えた指が
壁を擦り違和感を快感へと導き始める
鼻から抜ける吐息に
「 気持ちいい?」
頷いたら最後
俺はきっと引摺り込まれてしまう
「 …………気持ち…く…ない……
もう…………止め……て…。」
「 はぁ…………
こんなに感じてるのに
どこまでも態度を変えないんだね……
素直に頷いてくれたら
もっと気持ち良くさせてあげたのに。
罰……………与えなきゃね。」
それは何を意味するのか直ぐに分かった
指が抜かれ息つく間もなく
熱を持ったそこに彼自身が宛がわれると
圧がそのまま押し入ってくる
メリメリと聞こえて来そうな程
指では比にならない太さに
窮屈なそこは無理に割られ
その痛みに背中が弧を描き
苦痛にまみれた声を上げた
「 やっぱり、まだ早かったね
でも、もう止められないよ。
だって僕が君を欲っしてるから。」
腰を掴む手に力が込められた瞬間
抵抗して押し出そうとしていた
俺の中を一気に貫いていく
「 全部………僕のを飲み込んだよ。」
押し広げられた壁は
彼の形をなぞるように密着し
もう、窮屈以外ないのに
自分の快感を求めるように
ゆっくりと容赦なく動きはじめる
引いていく痛みは
何もかもを持っていくように
押してくる痛みは
強引に詰め込むように
痛い 苦しい 痛い 苦しい
目尻からこめかみへと
無意識に涙が溢れてくる
「 もう、止め………て……くれ。」
何度も何度も求めるのに
俺の懇願は聞き入れられず
彼の荒くなりだした息遣いだけが
部屋に音を作り出す
最初の遠慮は何処かに消え
容赦なく打ちつける腰に
小さく声を上げ
俺の中へと全てを解き放った
彼の世界に落とされた俺は
このあり得ない状況に
取り残されたまま……………
「 なんで………こんな事………。」
やっと口を突いた言葉に
クスクスと笑って俺の頬をなでると
「 答えは…………
翔の身体が良く分かってる
僕達は永遠のパートナーなんだよ。」
そうして塞がれる唇
絡まる舌と甘いだ液に
心とは別に俺は蕩けだし
いつしか夢中で求めると
また身体が疼きを感じはじめた
おわり