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□はじまりの恋〜フォトグラフ
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同じ地球上にある筈なのに
こうも天と地の差があるのかと

帰国するたびに思い知らされ現実が
胸を締め付ける


そんな都会に見る喧騒が苦しくて
片田舎に住み始めたのは暫く前の事

だけど、一年で何日 日本にいるって
数える方が簡単で

住み始めた町も知らない俺は
ブラブラと散策をしながら

小さな写真館の前

店先のパネルにディスプレイされた
数枚の中に見つけた画に脚が留まる


端に置かれ他の写真からみたら
それはとても小さくて

だけど心が奪われるって
多分こういうことなんだろう


同性なのはすぐに理解出来たけど
そんなの関係なく


俺は一瞬にして恋に堕ちた・・・





逸る気持ちで
この子を知りたいと店を訪ねては


「 どういった、ご用件で?」


そこの店主に
不審な眼を向けられる


「 失礼しました。
私 カメラマンの・・・、」


そうして手渡した名刺に
軽く視線を落とし

少しだけ俺を見る眼が変わった


「 一応は、同業者の方ですか・・・。

モデルでもお探しですか?」


「 ・・・いえ、じゃないです。

ただ、とても素晴らしくて・・。」


「 ・・・・
それは、どうも。

・・・小さな写真館の
しがないカメラマンが撮った

息子の写真ですけどね。」


卑下しつつも含みのある言い方に
怪しんでいるのが分かって

あの子に逢いたいと
なかなか本題へと踏み込めない


「 息子さん、なんですか・・・。」


「 えぇ・・・・まぁ・・・。」


店主の声に重なるよう
階段を掛け降りる音に


「 翔。」


店主が扉を開け そう名前を呼ぶ


「 何?」


「 お客さんだ。」


「 客・・・・俺に?」


「 またバンドか?
なら、急ぐわけでもないだろう。」


何回かのやり取りの後
覗かせた顔はまさに写真の彼で

眉を潜め俺へと視線を向けると
軽く頭を下げては


「 あの・・・誰?」


「 カメラマンさんだそうだ。」


そうして入れ替わるように
店主は扉の向こうへと消えていく


「 急いでるところ、ごめんね。
表にある写真が凄く良くて。

是非、会いたいなって・・・。」


「 ・・・写真・・・

・・何だよ、オヤジ
まだ外してなかったのかよ・・・。」


少し怒った素振りで腕を組み
眼の端で捉えるように俺を見ると


「 もしかして
・・・・そっち系の人?」


実物の彼は髪の色こそ
ワントーン落ち着いてはいたけど

警戒心満載で俺を見る大きな眼も


「 じゃないけど・・・。
凄くよく撮れてたから。」


白い肌も


「 凄くよくって・・・
そんなんでもないと思うけど

で、俺に何の用?」


血色のいい唇も

本物を見て尚一層
惹き付けられてしまう


「 写真、撮らせてくれないかって
良ければだけど・・・。」


驚きを隠さずに
大きな眼が一層大きくなって


「 やっぱ、そっち系だろ?
あっ、お、俺 時間だから・・・

じゃ。」


してもいない腕時計を見て
慌てて出て来た扉へと
消えようとするから

折角 逢えたのに・・・・
必死で彼を呼び止める


「 そっち系じゃないけど
君を撮りたいと素直に思ったから

一度だけで良いんだ。」


閉めようとした扉から
少しだけ顔を覗かせて


「 何で、俺だよ。」


「 一目惚れだよ。」


僅かに見せる顔が
みるみる険しい表情に変わる


「 やっぱ、そっち系じゃん。
気に入ったとか、一目惚れとか

そんなの男相手に言わねぇだろ。」


「 そうかもしれない、けど・・・
純粋に君を撮りたいと思ったんだ

もし、良かったらここに連絡くれる?
1ヶ月位したら、また海外に行くから

出来れば、早く欲しい。」


あんなに警戒してるんだ
きっと無理なのは分かっている

会おうと思えば
家も知ってるし会えるけど
あまりしつこくもしたくなくて

それっきりになったら
それが運命だと諦めて

いや・・・諦められるかな?


街の何気ない風景を撮りながら
期待を・・・少しだけ持ち

待ってる時間もそう悪くない


あれ以来 考える度に想いが募る

逢いたい・・・・翔・・・


「 あんた、何してんの?」


空を納めていたファインダーに
逢いたいと願う君が現れて

慌てて身体を起こした


「 ・・・翔、くん。」


「 いっくら田舎の道路だからって
こんな真ん中に寝てたら轢かれるぞ。」


大きなヘッドホンを首に下げ
小首を傾げながら俺を見下ろしている


「 撮らせてくれる気になったの?」


「 んな訳ねぇじゃん。

たまたま通りかかった道に
寝転んでる変な奴がいたから
見に来ただけだよ。」


「 そっか・・・残念。」


変わらず愛想は悪いけど
改めて見る彼はやっぱり良くて

無意識にじっと見つめてしまう


最初はそんな俺の視線を
避けているのかと思ったけど

一点に集中したその先


「 どうしたの?

これが気になるの?」


俺の持つカメラを
凄く真剣に見つめていて


「 良いカメラだな。」


興味深そうなのは


「 やっぱり
写真屋さんの息子だね。」


俺の言葉に
まぁな・・・はにかむ仕草が

この歳で胸がキュンってなるくらい
凄く可愛く思えて・・本当イカれてる


「 何、撮ってんの?」


ゆっくりと歩道に向かう脚
慌てて後を追って

ガードパイプに凭れる
彼の横に同じように凭れた


「 ・・・・空、だよ。」


「 空?」


そう言って俺が見上げると
彼もまた見上げて


「 そう・・・・
空は世界に繋がってるだろ。

だから同じ筈なのに
その場所、その場所で色が違うんだ。」


まだ見上げる横顔を
見つめると


「 色?」


気づいた彼のまだ純粋な瞳が
俺へと向けられる


「 そう

ある街の空は
人間の所為で雲に覆われ
どんよりと色を落としてるのに

ある国の空は
どこまでも高く澄みきって
その青は果てしない・・・・

不思議じゃない?」


「 不思議って、何が?」


「 どんよりとした
空の元で暮らす人間は

その色を無くしてまで自分に貪欲に
何不自由ない暮らしをしているのに

綺麗な空の下で暮らす人達は
意味のない争いや
簡単に治せる病気に苦しんでいる。

その現状の元で空を見ると

世の中って平等じゃないんだって
まざまざと見せつけられるんだ。」


何も言わず聞いていた
彼の顔は神妙で

穴が開く位に俺をじっと見ては


「 ねぇ、あんたさ
どんな写真 撮ってんの?」


「 俺に興味 持ってきた?」


「 ちげぇよ。

あんたの撮る写真に
興味があるだけだよ。」


ちょっとガッカリな反応


「 そっか、
まぁ・・・それでも良いや。

じゃ、うちに見に来る?」


眉を潜め警戒してるのが
ありありと分かって


「 写真、見たいんでしょ?

大丈夫だよ
何にもしないから。」


「 何もしないとか怖いわ。」


まあ、確かにそうだよねって笑ったら
また彼も笑ってくれて

初めて見る笑顔は
それはそれは可愛らしかった。


つづく
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